第80話 食事も一緒、お風呂も一緒、寝るのも一緒!

 木目が美しい座卓の上に料理が並べられている。

 先付さきつけ、造り、焚合たきあわせ、焼物と並び、メインはお高そうな和牛すき焼きだ。


 先程キスシーンを見て顔を赤くしていた中居が、鉄鍋に割り下を入れて肉を焼き始めた。


 ジュゥゥゥゥ――――

 霜降り肉が割り下の中で焼ける良い香りが立ちこめ、うま味成分のグルタミン酸とイノシン酸の相乗効果で食欲を誘う。


「うわぁ、メッチャ美味そうだ」


 悠が鉄鍋を覗き込む。

 百合華といえば、悠の後ろから抱きつき両足でガッチリロックしている。家でやっているバックハグだいしゅきホールドだ。


 中居は調理に集中しながらも、チラチラと二人を気にしてしまう。


「焼けました」

 先ず焼き上がった肉を、とき卵の器に入れてくれた。


「はい、あなた・・・。あーん」


 まさかの、ここで『バックハグだいしゅきホールドあーん』が炸裂した。

 中居の見ている前という事で、悠がオロオロしてしまう。


「ほらっ! あーん!」


 ちょっと百合華の語気が強まり、悠は観念して口を開けた。


「ううっ、あーん……」

「どう? 美味しい?」

「う、うん……」


 うううっ……

 肉は超美味しいけど、超恥ずかしいんだけど……

 見られてる!

 見られてるから!


 まるで羞恥プレイのようなイチャイチャに、悠の羞恥心が限界突破だ。


 すき焼きの方は野菜も入り完成して、後は自由に自分達で焼いて食べられるようになった。


 超恥ずかしいイチャイチャを見せられて興奮気味の中居が口を開く。

「あの、凄くラブラブですね。若い旦那さんで羨ましいです」


「ありがとうございます」

 悪魔姉改め悪魔嫁になった百合華が答える。

 そして、悠の首筋にキスをしたりとオシオキも忘れない。


「ちゅっ――」

「ううっ……」

「ふふっ、この子ってば、私の命令には絶対服従なんですよ」


 とんでもないことを言い出す悪魔嫁。


「そそそ、それって、どんなコトしてるんですか?」

 妙齢の中居が目をキラキラさせてしまう。


「ちょっと! 先にご飯にしようよ!」


 このままだと姉が暴走しそうで、悠が途中で遮った。

 百合華も『冗談ですよ』と言って話を流す。

 調教話を聞けず、少し残念そうな顔で中居が戻って行った。



「ちょっと、百合華ちゃん!」

「ごめんごめん、ユウ君が恥ずかしがってるのが面白くて」

「もう、恥ずかし過ぎるよ……」

「だってユウ君を自慢したかったんだもん」


 新婚さんプレイが余程嬉しいのか、自分の旦那を自慢したくてしょうがないようだ。


「人前ではやめてよ」

「やぁ~だよっ、ユウ君だって、プールで私にエッチなコトしてたでしょ」

「うっ、そういえばそうだった……」

「あなたぁ、はい、あーん」


 今度はネギを悠の口に運ぶ。

 後ろから抱きついているのに器用だ。


「どう、美味しい?」

「うん」

「じゃあ今度はお嫁さんに『あーん』して」

「この体勢じゃ出来ないよ」

「しょうがないなぁ」


 百合華が一旦離れて、今度は横から抱きついた。


「これで良いでしょ」

「あ、あーん……」

「んん~っ、美味しい。ユウ君ありがと」


 悠に『あーん』されてご満悦な百合華だ。


「じゃあじゃあ~次はぁ……」


 百合華が肉を口に挟むと、そのままキスするように突き出した。


「んっ、ん~ん」


 一瞬何のことだか分からず悠が呆気にとられる。

 可愛いキス顔で肉をくわえた百合華が迫ってくるのだ。


「んっ! んーん!」

 百合華が早く食べろという顔をする。


「えっ、ええっ!」


 こ、これはまさか……

 ラブコメ界で伝説として語られている『口移し』では?

 現実リアルでやる人いたんだ……

 てか、その本当にやってしまう人が俺の姉兼嫁とは……

 ううっ、もうやるしかないのか……


 まだ正式に付き合っていないのに、既に嫁なのも定着してしまう。


「あむっ……」


 悠が口移しで百合華のくわえた肉を食べようとした瞬間、ドアが開いて中居が入ってきた。

「お飲み物をお持ちしました……って、えええっ!」


「んっ……あんっ、ちゅっ……」

「んんん~~~~ぷはぁっ!」

「あなたぁ~どう、美味しい?」

「えっ、あの、その……美味しいです」


 口移しのままキスまでしてしまう。

 中居の前で口移しする百合華に、悠は恥ずかしさでおかしくなりそうだ。


「ねぇ、ちょうど飲み物がきたから飲ませてよ」

「は、はあ?」

「早くぅ~」

「やっぱり俺の嫁が変態過ぎる!」


 ううっ……

 このエロ嫁め……

 やらないと更に恥ずかしいことをしそうだし……

 もうヤケクソだ!


 悠は目の前に置かれたウーロン茶を口に含むと、そのまま百合華のくちびるに押し当てた。


「んっ、うぐっ……ごくっ、ごくっ、ごくっ……」

 悠のくちびるを吸いながら、口の中のウーロン茶を飲み干す百合華。


 中居が目をキラキラさせたまま固まっている。


「ふふっ、ねっ、何でもするでしょ?」

 超絶色っぽい顔になった百合華が、悠の顎を指でコチョコチョしながら言う。


「すすす、凄いです! 羨ましいです! 私も絶対服従な若い男の子が欲しいです!」


 ちょっとだけ、ショタ好き入っていそうな中居が、若い男の子が欲しくたまらなくなってしまう。

 百合華のせいで、妙齢の中居の『おねショタハート』に火をつけてしまった。


「良いでしょ。全て私のものなんですよ。あげませんよ」

「欲しい……凄く欲しいです」


「もう、いい加減にして!」

 おねショタっぽいノリで盛り上がる二人を悠が制す。



 悠が怒ってしまい、中居は残念そうな顔で戻って行った。

 これ以上の羞恥攻めは、悠の初心うぶなハートがもたないだろう。


「もう、恥ずかしいだろ。ドスケベ百合華は調子に乗り過ぎ!」

「ああーっ、また呼び捨てにしたぁ」

「ドスケベでドヘンタイ嫁の百合華!」

「もぉ~ 呼び捨てダメぇ~」

「百合華! 百合華! 百合華!」

「もぉぉぉぉ~っ!」


 ちょっと怒ったような感じでも嬉しそうな百合華。

 呼び捨てにされるのもイケるかもしれない。


「料理が冷めないうちに食べるよ」

「はい、ん~ん」


 悠が料理を食べようとすると、再び口に料理をくわえた百合華が口移しをしようとする。


「それ、まだやるの?」

「んんっ、んっっとふぁよずっとだよ!」

「マジか……」



 ピッタリくっついて口移しをし合ったのだが、やたら時間がかかってしまい、途中からは普通に食べてしまう。

 テンション上がりまくっていた二人が少し冷静になり、滅茶苦茶恥ずかしくなりつつもポカポカした気分になる。

 料理も美味しいのだが、大好きな姉と食べる時間が大切で、とても幸せな時間だと感じるのだ。


 はぁ……

 お姉ちゃんには色々と変なことをされるけど、やっぱり大好きなんだよな。

 けっこうキツいオシオキもされてるのに、どんどん好きになっちゃってるなんて、俺ってどうかしちゃってるのかもしれない。


 日々の調教の賜物たまものなのか、常軌を逸するほど大好きだからなのか、もう好き好き大好きお姉ちゃん過ぎて、姉の横暴も全て受け入れてしまいそうなのが怖い悠だった。



 食事が終わると、また同じ中居が来て食器を片付け、布団を敷いてくれる。

 ちょっとだけ二人を気にしてチラ見しているようだ。


「あっ、布団は一枚で良いですよ。枕だけ二つで」

 もう当然のように百合華が言う。


「はい、分かりました。うふっ」


 和室に一組の布団と枕が仲良く二つ並べられる。

 今からエッチしまくるかのように見えて、百合華も中居さんもニヤニヤと笑みがこぼれているようだ。


 そこへ、わざとアピールするかの如く、百合華がバッグから0.01ミリ的な物を取り出し枕元に設置する。


 もうやめてぇ~

 恥ずかし過ぎるから!

 エッチ禁止だから!

 ヤル気満々みたいじゃないか!


 悠が羞恥心に耐えられず、両手で顔を隠した。


「では、お楽しみください」

 中居が意味深な言葉を残し、丁寧にお辞儀して部屋を出て行く。



 完全に二人きりになる部屋――――


「し、しないからね!」

 悠が真っ赤な顔で言う。


「ふぅ~ん、ユウ君がぁ、我慢すれば良いんだよぉ~」

「うっ……」


 胸を押し当てるように抱きついて、太ももをスリスリと密着させる百合華。


「私はユウ君の考えを尊重してるんだよ。でもでもぉ、ユウ君が我慢出来なくなっちゃってぇ、新妻の私を押し倒しちゃうかもしれないよね」


 凄まじい色気を放出しながら、キラキラと煌くような瞳を向け、百合華は抱きしめた両腕をギュッとする。

 もうそれだけで、悠は完全に魅入られてしまったかのように、ゾクゾクと腰の奥が震え逆らえなくなってしまう。


「ああ、もう俺どうしたら良いんだ」

「ユウ君ってばぁ、こんなのまだまだ序盤だよぉ」


 抱きついたまま悠の服を脱がし始める。


「ちょっちょ、何で脱がすの?」

「お風呂の時間でしょ」

「それはそうだけど……自分で脱げるから」

「ぜぇ~んぶ、お姉ちゃん……じゃない、お嫁さんがやってあげるからねぇ~」


 もう、何でもしてくれる過保護なお嫁さんだった。


「だいじょ~ぶだよぉ~ ユウ君のコトは、ぜぇ~んぶしてあげるからぁ。ここもぉ、気持ちよくさせてぇ、〇ゅっ〇ゅっしてあげるね」


 そう言って、ある部分をナデナデする。


「いやいやいやいやいや、だ、大丈夫だから。しなくていいから」


 中居がいなくなってから百合華の攻撃力が急上昇してビビりまくる悠。

 そう、悠は勘違いしていたのだ。

 中居さんの前でイチャイチャされ、ドスケベ嫁過ぎると思っていたが、本当の百合華の実力はあんなものではなかった。

 真の淫魔女王サキュバスロードで悪魔嫁の百合華は、あの数千倍はドスケベでエチエチなのだ。


「ダメだよ、ユウ君。お嫁さんの私が射〇管理しないと、他の女に目移りしちゃうかもでしょ。エッチな目で他の女を見ないように、私が搾り取っておかないとだよねっ!」


「ひぃぃぃぃぃぃ~助けてぇ~!」

「誰も助けに来ないよ、ユウ君っ!」


 お風呂に入る準備だけでも変なイベントにする二人。

 入る前からテンション上げ過ぎだ。

 定番のラブラブスポットであるカップル風呂に向かう新婚さんプレイの悠と百合華。

 常人ならば一瞬で陥落させられそうな、超絶魅惑的な悪魔姉で悪魔嫁のお風呂タイムが迫っていた。

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