第77話 NTRは絶対許しません!

 ウォータースライダーに乗るだけでもエッチなイベントにしてしまう二人が、はしゃぎ疲れてプールサイドのリクライニングチェアで休んでいる。

 しかも何故か一つのチェアに二人で座るというミラクルなのだが。


 片時も離れたくないほど超ラブラブに昂っているのか、普段通りの家でイチャイチャする感覚なのか、完全にバカップルになってしまっていた。


「もうっ、ユウ君! 生乳揉むとかやり過ぎだよ!」

「違っ、違うから! わざとじゃないのに」


 言い合っているのに、リクライニングチェアの上でイチャイチャしているようにしか見えない。


「ううっ、隠そうとしただけなのに。お姉……百合華ちゃんの胸が誰かに見られたらと思うと……心配で心配で」


「そ、それは分かるけどぉ……手つきがエッチというか、こうムニュムニュって感じで……と、とにかくユウ君の手が、すっごいエッチなのっ!」


 悠の手が無意識に百合華の性感帯を刺激してしまうのか、百合華が悠を好き過ぎて意識しすぎてしまうからなのか、昔から百合華は悠の手で陥落させられてばかりだ。

 自称130戦130勝なのに、けっこう負けていた。

 そもそも、昔から130戦のまま増えていないのだが。


「ふふっ、ユウ君ってば、私の水着ばかり隠してるけど、自分のキスマークは見えまくってるよ」


 サァァァっと青ざめるような顔をした悠が、胸元を手で隠す。

 先日のオシオキで付けられたキスマークが見えまくりだった。

 もう、傍から見たら『こいつら毎晩やりまくってるな』という印象になってしまう。


「うわぁぁぁぁ! 忘れてた! おね、百合華ちゃんの水着のインパクトが凄くて、自分のキスマークのことなんて完全に忘れてたよ!」


 にまぁ~っと百合華が笑う。

 ここに来てからずっと、自分のものだという刻印を刻み込んだまま、悠を連れ回していたのだ。

 すれ違う女どもに、『どうよ! 悠は身も心も私のものなのよ!』と叫ぶように。


「恥ずかしい~~~~」

 やっぱり、真っ赤な顔を両手で隠す悠。


「もぉ~ユウ君のうっかりさん。ふふっ」

「先に教えてよ」

「わざと見せびらかす為に言わなかったんだよ」

「さ、最悪だぁ……」


 ピッタリ寄り添っている百合華が、更に胸を押し当ててくる。

 ちょっと妖しくなった目つきで、悠の顔を覗き込むようにして首に手を回して。


「もぉっとユウ君にキスマーク付けちゃおうかな?」

「ダメだって。恥ずかしいから」

「うりうりぃ~付けちゃうぞぉ~」

「もうやめてぇ~」


 リクライニングチェアの上でイチャイチャする二人に、通行人のグループから噂するような声が聞こえてきた。


「ちょっと、あのカップル。エッチ過ぎない?」

「きゃぁぁぁ、やだぁ」

「あれ、絶対入ってるよね」

「「「きゃははははっ!」」」


「くっそ! あんな美人と羨ましい!」

「毎日エッチしてるんだろうな。羨ましすぎる」

「爆ぜろ!」


 ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ――――



「「っ………………」」

 悠と百合華が、急速に羞恥心が込み上げ真っ赤になる。


 ささっ!

 百合華が悠の上から退いて、隣のチェアに移った。


「百合華ちゃん……恥ずかし過ぎるよ」

「ごめんユウ君……やり過ぎちゃった」


 二人は火照ったカラダを少しだけクールダウンした。

 しかし、心に灯った情欲の炎は、更にウズウズと熱く浸透して行くようだ。



「あっ、俺がお昼ご飯を買ってくるよ。何が良い?」


 悠が売店に昼食を買いに行こうとする。

 このまま姉と一緒だとドキドキが止まらず、もっともっと求めてしまいそうだから。


「う~ん、ユウ君が選んじゃって良いよ」

「じゃあ、俺が買ってくるから、百合華ちゃんは待っててね」

「うん」

「あっ、ちゃんと水着を隠して」


 ハラッ!

 タオルを百合華の上に掛ける悠。

 超絶セクシーな姉のカラダを他の男に見せたくないのだ。


「もぉ~ユウ君ってば」

 急いで昼食を買いに行く義弟の後ろ姿を、百合華は微笑ましい気持ちで見つめ続ける。




 売店で焼きそばやロコモコ丼などを買いながら、悠は無防備に見える姉を心配していた。


 お姉ちゃん……

 あんなセクシーな水着で……

 そりゃ、お姉ちゃんも可愛くてカッコいい水着を着たいだろうし俺も見たいけど、ただでさえナンパ男が集まってしまうのにセクシーな水着姿だと心配で心配で……


 まるで娘の肌を出し過ぎるファッションを心配する親みたいになってしまう。

 前に幹也が娘のデニムホットパンツ姿を注意していた気持ちを理解した。


 くうっ、でも……

 俺に見せる為に着てくれているんだよな。

 それは嬉しいというか……

 はぁ……お姉ちゃんが可愛すぎるのも罪だぜ。

 頭の中がお姉ちゃんでいっぱいだ。

 今夜の宿は大丈夫なのか?

 一緒に寝るなんて事になったら我慢できるのかよ……


 ああっ!

 でも今は、お姉ちゃんがナンパ男に絡まれないように俺が守らないと……

「って、言ってる側から!」


 料理を持ったまま百合華のところに戻った悠が見たのは、チャラそうな男達に絡まれている姉の姿だった。


「ねえねえねえ、キミ超可愛いね。俺らと遊ばない?」

「そうそう、お昼奢るからさ」


「ちょっと待ったぁ~!」

 姉を守るように、ナンパする男達の前に悠が入る。

 そして堂々と宣言する。


「百合華は俺の女だ! て、手を出すなよ」


 突然出て来た悠に、一瞬たじろいだナンパ男達が答える。

「は? こんな超美人のお姉さんに、すげぇ年下っぽい男が彼氏面かよ?」

「えっと、若い燕? 格差婚?」


 悠の『俺の女』宣言にご満悦の百合華が、ちょっと傲慢を司る悪魔のような顔になって言った。


「ごめんね、そういう事でぇ、私この子の彼女だから。身も心も全て思うがままなの。だから、他をあたってねぇ」


 ガアアアアァァァァーン!

 凄いショックを受けたナンパ男達は、すごすごと退散した。




「うふふっ、ユウ君ありがとね」


 料理を受け取りながら、満面の笑みの百合華が話し出す。

 予想通りの悠の反応に笑いが収まらない。


「ふふっ、ユウ君ってば、心の中では私を『百合華』って呼び捨てにしてたり、『俺の女』って思ってるんだよね?」


「ち、違うから……」


「ホントかなぁ? 昔ナンパされた時にも同じコト言ってたし、この前メイドになった時も呼び捨てにしてたよね? いつもは受けっぽいのに、ホントは私を呼び捨てにして色々命令したい願望があったりとか?」


「違うって言ってるのに。ううっ」


 ちょっとだけ図星なのだ。

 普段はエロ姉に攻められまくっているのだが、たまには完璧美人で完全無欠のような姉を色々調教したい気持ちがムクムク出てしまいそうな時もある。


「それにしても、さっきの男、ちょっと失礼じゃない? 若い燕とか。そんなに歳離れてないし」


 実際のところけっこう離れているのだが、超ブラコンの義姉と超シスコンの義弟という奇跡のようなコラボレーションで、その年の差こそがお互いの禁断で背徳的な心に火をつけてしまうのだ。

 むしろ歳の差最高だった。


「若い燕って……ふふっ、言われてみればそんな感じも……」

 悠が、年下好きな雰囲気の百合華を見つめる。


「ちょっと! ユウ君!」


 百合華が悠を捕まえる。

 若い燕と言えば、中年女性が年の離れた男を囲うようなイメージなので見過ごせない。


「それ、お姉ちゃんが年増みたいじゃない」

「いや、そういう意味じゃないんだけど……」

「どういう意味なの?」

「ううっ、むしろ年上のお姉さん最高なのに……」

「ユウ君ってば年上好きなんだよねぇ~」

「そ、そうだよ」

「まあ、許してあげる。でも今夜はオシオキね」

「やっぱりか!」


 ※若い燕:年下の愛人の男という意味。その昔、作家で思想家の平塚らいてうひらつからいちょうと付き合っていた五歳年下の青年が、らいてうに送った手紙の中で自身を『若い燕』と表現した事に由来する。その青年がヒモ状態だった事から、現代では年配女性が若い男を愛人にする場合などに使われる。


 ――――――――




 怒っているように見えて実はイチャイチャしたい口実を作っているだけの百合華と、姉にイチャモン付けられて攻められるのに満更でもない悠が、イチャコラしながら昼食を食べ終わり再び流れるプールで遊び出す。

 水着でのイチャイチャは、より素肌が密着しお互いを大胆にしてしまうようだ。

 と言っても、この二人は普段から家の中で大胆に変態さんなのだが。


「ほらほらぁ~ユウくぅ~ん。おっぱいが当たっちゃうよぉ~」

「やめろぉ~」


 やっぱり二人乗り浮き輪の上でエッチなおふざけをする。


「あっ、ユウ君はお尻好きだったよね?」


 何を思ったのか、百合華が四つん這いになってケツを悠に向けて迫る。

 お尻を悠に密着させようとしているのだ。


「ほらぁ~ユウ君の好きなお尻だよぉ~」

「それはアウトだって! 近い! ケツが近い!」


 ドボン!

 ちょっとアウトな攻撃を避けようとして、悠が浮き輪からプールに転げ落ちてしまい、百合華を乗せた浮き輪が流されて行く。


「ユウくぅ~ん――――」


 百合華を乗せた浮き輪と離されてしまった。


「ぷはっ! あれ? おね、百合華ちゃん……」


 お姉ちゃんが流れて行っちゃった。

 今からだと泳いでも追いつかないよな。

 ここで待ってれば一周して戻って来るから待ってようかな?


 ぷにっ!

「あっ、すみません」


 誰かに背中が当たった感触で、悠が謝る。


「あらっ、いやだわ」

 悠が当たったのは人妻風の女性だった。


「すみません」


 余計なトラブルになるのを避けたくてプールから上がろうとする。

 混雑したプールでは体と体が当たってしまうのはよくある事なのだが、相手が女性だと気まずい雰囲気になってしまう。


 マズい、変な誤解を受ける前に退散するか。


 悠が離れようとした時、奥さんがもたれ掛ってきた。

「きゃあ、足がつっちゃったみたい」

「えええっ!」


 なな、何だこの人?

 マズい、まさかお金を要求されるとか?

 変なトラブルは御免だぜ!


「はぁぁ……ごめんなさいね。ちょっと足がつったようで」

「プールから上がった方が?」

「大丈夫よ。少しすれば治まると思うから」

「はあ」

「少しだけ、このまま掴まらせてもらっても良いかしら?」

「いや、マズいですって」

「ちょっとだけ良いじゃない」


 マズい……

 足がつった人を放置するわけにもいかないけど、変な誤解を受けるのは困るし。

 お姉ちゃんが一周して戻って来ると、人妻に抱きつかれた俺を見て大激怒なんて事に……


「あの、お連れさんはいないのですか?」

「ええ、旦那がいるわよ」

「だだだ、旦那さんに見られたらマズいですって!」

「良いのよ。うちの旦那ってNTR好きだから」

「余計にマズいわぁぁぁぁ~」


 変な人妻に絡まれる悠。

 もう、シゴカレマスターの他に、カラマレマスターのスキルまで持っているようだ。

 刻一刻と迫りくる百合華の乗った浮き輪。

 それは救世主か、はたまた阿修羅なのか?

 勝手にトラブルに巻き込まれ余計に姉の嫉妬心に火をつけまくる悠の運命は。

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