第73話 拷問するはずなのにメイドになってご奉仕するお姉ちゃん

 悠と百合華は二人で帰宅し、一緒に家へと上がった。

 姉が買った食材を冷蔵庫に入れている時も、悠は落ち着かず超強力なオシオキに怯えていた。

 冗談だと思うが、オシオキではなく拷問というワードまで飛び出し、更に恐怖を煽ってしまう。



「お姉ちゃん、今日は俺が夕食を作ろうか?」


「ふふっ、ユウ君はプールで泳いで疲れただろうから、部屋でゆっくりしてて良いよ。夕食は、お姉ちゃんが作るから待っててね」


 予想外に、笑顔の百合華が優しい。

 家に入った途端に襲われるものと身構えていた悠は拍子抜けする。

 少しでも百合華の機嫌を取ろうと料理を作ってご奉仕しようとするが、逆に姉がご奉仕してくれるみたいだ。


 あれ……?

 お姉ちゃんが優しいぞ……

 もしかして、怒ってないのかな?


「うん、じゃあ部屋で待ってるね」

 悠が安心して部屋へと向かう。


 バタンッ!

 部屋着に着替えてから座ってゆっくりする。

 安心して気が抜けて少し眠くなってしまう。


「ふわぁぁ~ 良かった。お姉ちゃんの機嫌が良いみたいで。中将さん達が色々喋っちゃった時は凄い威圧感で怖かったけど、そんなに怒ってなかったのかな? まあ、俺が好きなのはお姉ちゃんだけだし、そこはお姉ちゃんも分かってるだろうし、やっぱり相思相愛だよね」


 つい、独り言が出てしまう。

 泳いだ後の心地良い疲労感で少しウトウトした。


「うへへ……お姉ちゃん……むにゃむにゃ……」


 しかし、悠は気付いていなかった。

 天使で悪魔で百合華流風林火山という意味不明な策士の姉が、そのまま何もしないで終わるはずがない事を――――




「ユウくぅ~ん、ご飯できたよぉ~」


 一階から百合華の声がして、心地良い眠りから悠が目覚める。

 天使の歌のような姉の声で幸せな目覚めだ。


「あっ、ちょっと眠っちゃったのか……はーい! 今行く」


 バタン!

 ドタドタドタ――――


 一階に下りた悠を迎えたのは、驚愕するような夢の世界だった。

 あまりの衝撃に、悠は夢を見ているのかと目を擦る。


「おかえりなさいませ、御主人様」

「は? えっ、あれっ?」


 百合華がメイドになっていた。

 メイド姉のご奉仕だ。


 クラシカルなロングのメイド服だった。

 ヴィクトリアンメイドを少し現代風にアレンジを入れつつも、基本をしっかりと押えた気品あふれるデザインだ。


 やはり質感に拘る百合華らしく、生地も本格的でしっかりしたものを使い、ロングのワンピースがカラダにフィットしている。下は自然に広がりつつエプロンとの完璧な黄金比、頭はキャップではなくホワイトブリムとなっており、百合華の綺麗な髪と相まって幻想的な美しさだ。


「えっと……お姉ちゃん、どうしたの?」

「御主人様、こちらへどうぞ」

「えっ、はい」


 イスに座ると、定番のオムライスが出てくる。

 まるでメイド喫茶のようだ。


「はい、お姉ちゃんメイドが文字入れしますね」


 ケチャップでオムライスの上に『LOVE』と書いて大きなハートマークを入れ、メイド姉が変なセリフを言い出した。


「御主人様がエッチになぁ~れ。エロエロきゅん!」

「ぐっはぁ、ちょっと変だけど超可愛い!」

「あ、ありがとうございます。御主人様……」


 百合華が恥ずかしそうにモジモジしている。


「というか、クラシックメイドなのに、途中からキャラ変わってるし」

「そ、そこはぁ……本音が漏れちゃったというかぁ」


 お姉ちゃんのメイド姿……

 いい大人がメイドコスプレ……

 だが、そこが良い!!!!

 むしろ最高!!!!

 お姉ちゃんメイド最高!!!!


 メイド大好きな悠のテンションが上がった。


「あっ、料理が冷めちゃうから、お姉ちゃんも一緒に食べようよ」

「いえ、私はメイドですから、御主人様と一緒のテーブルに着くことなど許されません」

「そこはクラシックメイドになるのかい!」


 やっぱり、お姉ちゃんと一緒に食べたいよな。

 そうだっ!


「ちょっとメイドさん。御主人様には絶対服従なんだよね?」

「はい、私は悠様に絶対服従の専属メイドでございます」

「じゃあ、御主人様の俺と一緒にご飯を食べなさい」

「かしこまりました」


 百合華が正面の席に座る。

 いつものように隣ではないのが少し寂しい。


「あっ、俺がメイドさんのオムライスに文字を書くね」

 悠がメイド姉のオムライスにケチャップで『大スキ』と書いた。


「あら、御主人様ったら」

「あはは」

「うふふ」


 もう二人だけの世界に行ってしまっている。

 伯爵子息と専属メイドの身分差を乗り越え幸せな結婚をする恋愛物語の世界へ。




 夢のような食事が終わり、リビングでくつろいでいる時も、百合華はメイドのままでご奉仕していた。


「御主人様、肩をマッサージしますね」

「うん」


 お姉ちゃん……

 本当に絶対服従なのかな?

 ちょっと試してみたいような……?


「ねえ、メイドさんは本当に絶対服従なの?」

「はい、私は悠様に絶対服従でございます」

「どんなことでも?」

「はい、何でもいたします。思うがままでございます」


 ほ、ホントに何でもするのか……

 え、エッチなコトとかも……

 いやいやいやいや、俺は何を考えているんだ。

 でも……

 ちょとだけイタズラしてみたい。

 ちょっとだけなら許してくれるよな。


「おい、百合華!」

「はい」

「そ、そこに四つん這いになるんだ」


 慣れない御主人様になって悠が命令する。

 姉を“百合華”と呼び捨てだ。

 ソファーの上を指差して、四つん這いの恰好になるように命じる。


「こうでございますか?」


 妖しい瞳で微笑むと、ソファーに乗り四つん這いになって尻を上げる百合華。

 いつも女王然としている姉の服従ポーズだ。

 もう、それだけで興奮で鼻血を噴きそうな感覚になる。


「も、もっとだ、もっと頭を下げてケツを高く突き上げるんだ」


 ちょっと調子に乗った悠が、更に恥ずかしいポーズを要求する。

 この男……後でどうなるのか何も考えていないようだ。


 百合華が這いつくばるように伏せて、お尻を高く突き上げる屈辱的なポーズをとる。

 もう、完全に悠様のエッチな奴隷だ。


「ううっ、凄い光景だ……エッチ過ぎる」

「御主人様……恥ずかしいです」

「うぉおおっ! 凄い……あの気高く神聖なお姉ちゃんが」

「お許しください、御主人様」

「ぐへへ、ドジでふしだらな百合華にはオシオキだぜ。お尻ペンペンの刑だな」

「ああっ!」


 ペチ、ペチ、ペチ!

 ちょっとエッチな手つきで百合華の尻をペチペチする悠。


「ああぁ……んっ……あん、悠様、お許しください」

「百合華はドスケベだからな。もっとオシオキが必要だな」

「そ、そんなぁ……」


 どんどんなまめかしい顔になる百合華から凄まじいフェロモンが放出され、攻めているはずの悠がクラクラとしてきてしまう。

 実際にこんなエロいメイドが居たら、御主人様は理性が保てないだろう。


「す、凄い……あの、お姉ちゃんが……俺の言いなりに……」

「ごしゅじんさまぁ~ も、もっとぉ~ ドジでドスケベな百合華に、罰をお与えくださいぃ~」


 二人そろって危険なテンションだ。


「じゃ、じゃあ……ちょっとスカート捲っちゃおうかな?」

「ああん、もぉ、御主人様のエッチぃ」


 プルルルルルル、プルルルルルル――――

 盛り上がっているところで家の電話が鳴る。


 すくっ!

 悠が電話に出ようか迷ったところで、百合華が普通に立ち上がり受話器を取った。


「はい、明石です」


 姉が普通に戻ってしまい、悠がガッカリすると同時に猛烈な恥ずかしさが込み上げてきた。

 いつもと違う魔が差したようなテンションで姉にエッチなコトをしてしまったのだ。


 お、俺は何をやっていたんだ……

 お姉ちゃんにエッチなオシオキをしてしまった……

 でも……

 お姉ちゃんメイドが可愛すぎるのが悪いんだよ。

 はぁ……後ろ姿だけでもヤバいぜ……


 電話をしているメイド姉の後ろ姿だけで、悠が変な気持ちになってしまう。

 ロング丈のクラシックメイドなのに、腰のラインが妙にエロ過ぎる。

 姉のお尻を見つめる悠が、再び幻想的な世界に誘われてしまった。


 お姉ちゃん……

 そういえば、気高い女騎士は後ろが弱いそうだけど、お姉ちゃんも後ろが弱そうなんだよな。


 ぴとっ!

「んんんっ!」


 悠の手が百合華の尻に当たり、ビックンっとカラダに波が走った。

 電話の相手が何かのセールスで、身内や知り合いではなかったのが救いだ。


 すりすりすり――――


「は、はぁ……光回線はぁん、もう契約済みですので……家は結構です……んっ、ああっ、い、いえ、何でもありません」


 夢の世界に入った悠が、姉の尻に顔をスリスリする。


「んあっ、はい、はあん……はい、で、では、失礼します」

 ガチャ!

「はああああっん、もうムリぃ~」


 限界まで耐えて電話を続けていた百合華だが、受話器を置くと同時に限界突破してしまう。

 そして、姉の声で悠が我に返った。


「えっ、あれ? 俺は何を……」

「ちょっと! ユウ君、何でイジワルするのっ!」

「ご、ごめんなさい」

「もぉ、お姉ちゃんメイドはお終い! お風呂に行ってくる」


 怒った百合華が出て行ってしまった。


 ううっ……

 お姉ちゃんのメイド姿が魅力的過ぎておかしくなってしまった。

 俺、完全に暴走していたような……

 でも、お姉ちゃんメイド、またやってくれないかな?


 暴走して恥ずかしく思いながらも、メイド姉を超お気に入りになってしまった悠が、またやって欲しいと心底願う。

 そして悠は知らなかった。

 お姉ちゃんメイドは、まだまだ続く事に。

 そして、恐ろしいオシオキだという事に。


 ――――――――




 風呂から出た悠が部屋でくつろいでいると、ドアをノックする音が響く。

 そう、それがエチエチ地獄への片道切符だとも知らない悠が、何の疑問も抱かずにドアを開ける。


「は~い、御主人様! オシオキ……じゃない、拷問のお時間ですよ」

「は?」


 夕食時とは別の方向に驚愕し、夢の世界に行ってしまう悠。

 あまりの衝撃に、長い悪夢の世界に囚われているのではと思ってしまう。


 再び百合華がメイドになっていた。

 メイド姉セカンドご奉仕だ。


 それはエロに極振りしたフレンチメイドだった。

 本来のメイド服とは程遠い露出過多な下品で性的なボンテージスタイルだ。


 やはり質感に拘る百合華らしく、生地も本格的でしっかりした素材を使っており、ミニスカートがカラダにフィットしている。下着が見えそうな超ミニから伸びる脚は網タイツとガーターベルト。上は革のボンテージになっており大きくV字型に入ったフロント部分がヘソまで切れ込み、胸元は革紐により編み込まれて胸の谷間が大胆に露出していた。


 そして極めつけは、手には羽箒はねぼうきを持ち、くるくると回してポーズをとっている。煌くような百合華の瞳と相まって幻想的な美しさだ。


 ただ、メイドというより女王様だった。


「えっ、あの、お姉ちゃん……プールの件は許してくれたのでは?」

「ユウ君、私が女子三人とイチャイチャしたのを許すと思う?」

「……お、思わない」

「だよねっ」

「な、何でさっきは優しかったの?」

「上げて堕とすのが百合華流だよぉ~! 二倍楽しめるし」

「くっ、とんでもねえエロ姉だぜ……」


 まんまと術中に嵌った悠。

 ただ、下品なメイド姉も、クラシックメイド姉と同じくらい魅力的で、悠は超お気に入りになってしまった。

 そして恐ろしいオシオキ……いや、拷問が始まろうとしていた。

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