第72話 プールの中でもシゴカレマスター

 貴美に連れられて悠はプールへ入る。

 付き合っているわけでもないのに、周囲からは仲の良いカップルに見えなくもない。

 若干、尻に敷かれている感じもあるが。


 周囲の男達の視線が貴美に集中する。

 少し強気でキツそうなイメージはあるが、十分に美少女であり活発で瑞々しい肢体は、男達の視線を集めるだけの魅力に満ちていた。



「ほらっ、悠! 早く来なさいよ」

 貴美が声をかける。


「そんなに激しく動くと疲れるだろ」

「あんた、いきなり省エネモードって何なのよ」

「俺はエコな男だぜ」

「ぷっ、エコにはさせないわよ! こうしてやるんだから!」

「う、うわっ、ちょっと!」


 貴美が悠の背中に乗る。

 水の中でおんぶしているような恰好だ。

 もちろん、ビキニ姿とあってスベスベの肌が密着し、胸の柔らかな膨らみがプニッと当たるのだが。


「ちょっと、色々ヤバいって。当たってるし」

「ふふっ、今夜のオカズってやつでしょ?」

「は?」


 プールで開放的な気分になっている貴美は、どうやら悠の今夜のオカズに協力してくれるようだ。

 誰も頼んではいないのだが。


「あれれぇ、貴美ったら超積極的じゃん」

 歩美に冷やかされる。


「アユも手伝ってよ。悠が今夜――」

「わぁぁぁぁーっ! それはダメだって!」


 貴美が何か言おうとするので悠が必死に止める。

 彼女の耳元で小声で頼み込む。


「中将さん、それは内緒にしてよ(ぼそっ)」

「えぇ~っ、どうしよっかなぁ?」

「お願い。そんなのクラスの皆に知られたら恥ずかし過ぎるって(ぼそっ)」

「うふふっ、悠ったら良い表情ね。それそれ、それが見たかったのよ」


 ギラギラと少し嗜虐心の灯った瞳を輝かせる。

 そう、こういう子だった。


「ううっ、とんでもない女子に知られてしまった……」

「ふふっ、内緒にして欲しいんだったら、今日は目いっぱい付き合いさないよね」

「本当にしてないのに……とほほ……」


 悠の弁解も聞かず、ちょっと大胆になった貴美は攻撃の手を緩める気は無いらしい。


「ちょっと! なに二人だけで盛り上がってんのよ?」

 内緒話をしている二人に、歩美がムッとする。


「じゃあ、三人で明石君を囲んじゃおうか?」

「それ、良いかも!」


 沙彩が余計なことを言い出して、歩美までその気になってしまう。

 悠は、背中に貴美を乗せたまま、沙彩と歩美に密着される。


「ちょっと待て! こんな場所でマズいって」


 いくら水の中で分からないからといって、女子三人に囲まれてモゾモゾいていては、周りから変な目で見られてしまいそうだ。


「ほらっ悠、良かったわね。今夜のあれがたくさんで」

「中将さん……くっつき過ぎだって。ヤバいって」

「あははっ、もっとヤバくなっちゃいなさいよ」


 貴美が背中ではしゃいでいる。


「ああっ、明石君が興奮してるぅ~」

「し、してないから」

「ほらほらぁ、してるでしょ」


 歩美に脚でスリスリされ、本当に興奮してしまう。


「ふふっ、やっぱり明石君って最高。このまま大変なことになっちゃったりして」

 沙彩が悠の腹の辺りを指先でつつつぅ~っとなぞる。


「エロい女子多過ぎだろ!」

「明石君、女子は皆エロいもんなんだよ。普段は表に出してないだけで」

「いや、それは東さん達だけでしょ!」


 実際に家に超エロい姉がいるので沙彩の意見に賛同してしまいそうだが、ここまでエロい女子は悠の周りだけだろう。

 今はまだ、ふざけているだけなのだが、このままエスカレートして本当にエッチなイタズラになったら問題だ。


 うううぅぅぅぅ~

 ダメだ……

 お姉ちゃん以外の女子をエロい目で見ちゃダメだ!

 そんなの浮気になっちゃうぜ……


 真面目な悠が、姉以外の女に興奮してしまう自分に罪悪感を覚える。

 三人の水着女子に囲まれているのだから仕方がないのだが。



 ピピピピピィィィィー!

 突然笛の音が鳴り響き、監視員が駆け付けてきた。


「ちょっとそこの人達。すみませんが、プールの中で変な事は控えてください」

 プール監視員に注意されてしまった。


 ――――――――




「もうっ! 恥かいちゃったじゃない」

「いや、誰のせいだよ」

 貴美の文句に悠がツッコむ。


 監視員に注意され、周囲から視線が集中し恥ずかしくなった四人は、プールから上がり脇のベンチに並んで座っていた。

 まるで性に貪欲な若い男女が、プールの中で4P的なプレイでもしていたかのようだ。


「施設の人に顔覚えられちゃったかも。もう恥ずかしくてココに来れないじゃない!」

「中将さんにも、恥ずかしい気持ちがあったんだ?」

「悠ぅぅ~」

「痛い、痛いって」


 貴美に脇腹をつねられる。

 このままだと、またイタズラがエスカレートしそうだ。



「ねえ、ここってサウナもあるんだよ。行ってみない?」

「いいね」


 歩美と沙彩が示し合わせたようにサウナに向かう。

 悠と貴美も、特に疑問にも思わず後を追った。


 プールの一角にあるサウナは小ぢんまりとして、知る人も少ないのか中に誰も居なかった。

 サウナの前まで行くと、歩美と沙彩が扉を開け二人を中に入るように促す。


「どうぞどうぞ」

「さあ、入って」


 意味深な顔をした歩美と沙彩が気になるが、悠と貴美はサウナに入る。


 ガチャ!

 二人が入ったところで突然ドアを閉められた。


「後は若いもん同士で。きゃははっ!」

「ふふっ、お熱いですなぁ」


 まるでお見合いで仲人が言うようなセリフを残して走り去って行った。

 最初から二人を密室に入れようと企んでいたのだろう。


「何やってんのよ。あの二人」

 やれやれといった顔になる貴美。


「仲良いんだね」

「まあ、あの二人とは、もう付き合いも長いしね」

「ずっと友達でいられるなんて良いよね」

「そうね……」


 歩美と沙彩は、二人の仲を進展させようと企んだのかもしれないが、この二人ときたら何年もこのまま続いていて全く進展などなかった。


「六条さんや夕霧さんも呼べば良かったかな?」

「また今度ね」

「うん」

「ねえ、悠……」

「えっ?」

「あんたって、葵や真理亜のコト好きなの?」

「えっ、ええっ!」


 唐突に貴美が恋バナに突入させた。


「べつに……良い人達だとは思うけど、す、好きとかじゃないけど……」


 突然の事に悠が動揺する。

 姉が好きなのを悟られてはいけないが、昔のように誰かの名前を上げたらトラブルの元だ。


「ふぅ~ん……」

「うん……」


 二人の間に沈黙が流れる。


「ねえ、悠は、どんな人が好みなの?」

「はあ? 突然どうしたの?」

「良いでしょ、それくらい」

「えっと……優しい人とか……」

「あんた、ケンカ売ってる?」

「ええっ、何で」


 何となく悠の好みが自分ではないと気付いていた貴美は、少し複雑な心境になっていた。


 なんかムカつく……

 昔から悠って大人しそうな女子が好みな気がするけど……

 こいつが他の女と付き合うって思うと、何かイラっとするんだよね。

 私の許可無しに絶対他の女となんて付き合わせてあげないんだから。

 アユやサーヤは、私達をくっつけようとしてるみたいだけど、わ、私はそんな気は無いのに……無いはずなのに……


「あんたに彼女が出来たら全力で邪魔してやるわね」

「えええっ! な、何で?」

「ふふっ、冗談」

「そんな冗談やめてよ」

「もう、暑いわ。出るわよ」


 そう言って、貴美は先頭を切って出て行った。


 ――――――――




 四人はプールを満喫し、地元の駅に戻り家路を辿っていた。


「今日は面白かったわね」

「俺は恥ずかしい目に遭わされただけなような?」

「ふふっ、悠はいつもそんな感じでしょ」


 プールの中で女子に囲まれたり、その後も色々とくっつかれたりからかわれたりで、まるでハーレム状態のようで周囲の視線が恥ずかし過ぎだ。

 ドギマギする悠の反応が、更に彼女達の嗜虐心を誘ってしまい、エンドレスシゴカレストーリーになってしまう。



 ふと、歩美が貴美の隣に来て他の人に聞こえないように囁く。


「せっかく二人っきりにしたのに、何の進展もないの?」

「別にアユが思うようなのじゃないから」

「でも好きなんでしょ?」

「違うわよ。そんなんじゃないし。でも……あいつが他の子と付き合うと思うと、めっちゃイライラしちゃうんだけど」

「それが好きってことじゃ?」

「さあ……でも、そうね。もっともっと調教して私に従順なワンコに躾けたい気もするけど……」

「うっわ…………キッツぅ」

「じょ、冗談よ」


 昔からちょっとだけ、悠を従順なワンコにして可愛がりたい願望のある貴美だった。


「てか、貴美といい沙彩といい、彼氏になった男子が可哀想かも」

「それはアユも同じでしょ」

「あははっ」

「ふふふっ」


 後ろで笑い合っている強気女子達に、自然と悠の腰の奥がゾクゾクとなる。話は聞こえていないのだが何となくSっぽい内容なのは分かるのだ。

 怖い女多過ぎ問題である。



 四人が駅前商店街に差し掛かったところで、前方に超絶美人で凄いプロポーションの女性を見掛けた。

 道行く男性達の視線を一身に受けるその女性は、ワイシャツの胸元を内側からはち切れんばかりに盛り上げてブラの柄を薄く透けさせて、キュッと絞られたウエストからプリッと上がったお尻を際立たせ、短めのスカートからは超魅惑的な脚をスラリと出している。


 そう、超絶美人で超魅惑的で、可視化出来るほどのフェロモンを出しまくる淫魔女王で悠の姉。

 その名は、明石百合華その人である。


「ああっ! お姉さん、今仕事の帰りですか?」

 その美しき女王を一瞬で見つけて、貴美が声をかける。


「げっ! ヤバっ」

 悠が目を逸らした。


「あら、今日は皆で遊びに行っていたのかしら?」

 少し威圧感の上昇した百合華が訊ねる。


「はい、四人でプールに行ったんです」

「男は明石君一人でハーレムでしたよ」

「イチャイチャし放題……」


 貴美に続き、歩美と沙彩が余計な情報を伝えてしまう。


「そうなの……悠、女子三人と遊びに行くなんてモテるのね?」

「うっ、お姉ちゃん……こ、これは」


 百合華の煌くような瞳で注視され、カラダの芯からゾクゾクと震えが走る。

 長年の調教で躾けられているからだろう。


 百合華としては、クラスの男女で遊びに行くのだとばかり思っていたのだが、まさか女子三人とイチャイチャしていたとは露ほども思わなかった。

 いや、少し怪しんでいたのだが。


「悠、ちょうど買い物も終わったし、帰って夕食にするけど」

「う、うん……俺も帰るよ」


 有無を言わせぬ百合華の威圧感に、悠は黙って従う事にした。


「じゃあ、悠。またね」

「ばいばい」

「また楽しませてね」


 三人組が帰って行く背中を見つめ、悠は今夜の超強力なオシオキを想像して震えが止まらない。

 まるでラスボスである魔王の前に一人取り残され、パーティメンバーが逃げてしまったような感覚だ。


「ううっ、こ、これには事情が……」

「ユウ君、帰ったら拷問……じゃなかったオシオキね」

「今、拷問って言った? 言ったよね?」

「もう、ユウ君ってばぁ。痛くしないからぁ」

「怖すぎる…………」


 やはり、予想通り超恐ろしいオシオキが待っている運命だった。

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