第70話 同級生の百合華ちゃん

 セーラー服を着た姉は途轍とてつもなく可愛かった。


 紺色のセーラー服に白地にラインが入ったセーラーカラーの襟が際立ち、えんじ色のリボンが胸元を飾り可憐な装いだ。

 何を着ても似合う百合華なのだが、制服姿が一番似合うような気さえしてしまう。


 巷ではJKの特権のように持てはやされる制服だが、元は十九世紀頃から海軍で使用されてきた軍服である。

 日本では大正時代の頃から女学生の制服として使われ始め、その斬新で動きやすく可愛いデザインから、袴姿だったものから徐々に広がり全国に波及したのだった。

 それまで女性が肌を出したりスポーツをするのは“はしたない”とされてきた時代から、セーラー服やブルマは女性解放のシンボルとして広まって行く。


 しかし、平成期に入ると諸事情によりブルマは廃止され、セーラー服も衰退しブレザーが多数派を占めるようになる。

 一時は絶滅の危機に瀕しているかと思われたセーラー服だが、近年になるとその可愛さやファッションが見直され、少しずつ復権の兆しがあるようだ。


 と、百合華の超可愛いセーラ服姿の影響で、脳内でセーラー服の歴史に思いを馳せてした悠だが、自身も制服に着替えさせられて同級生プレイを待つ状態だった。



「うっ、お姉ちゃん……本当にやるの?」

「やるに決まってるでしょ。大サービスするって約束だよ」


 何か姉に丸め込まれているような気がするが、悠は言う通りにする。


「設定としては、ユウ君と私は幼馴染の同級生でお互いを好きなんだけどまだ付き合っていないって感じで。ある日、グラウンドの体育倉庫に体育祭で使う用具を探しに行った二人は、偶然外から鍵をかけられ閉じ込められる。密室に二人きりになったユウ君と百合華ちゃんは、非日常の緊急事態に際し隠していた想いが暴走して、体育マットの上で抱き合い貪り合うようにキスをする。そして、我慢が出来なくなった二人は初めての合体を――」


「ちょっと待て!」

 百合華の止まらない妄想に、悠がストップをかける。


「何よ、ユウ君。私のシナリオに文句でもあるの?」

「いやいやいや、おかしいって。何で最後の一線を越えてるんだよ。さすがにエッチはダメだって」

「そこは流れだよ。監督に文句は許されないから!」


 百合華がシナリオと監督の兼任だった。


「じゃあ、細かな部分はアドリブで行くから、ユウ君は私に合せてね」

「う、うん」


 だいぶ不安なのだが、百合華監督に指示され納得してしまった。


「シーン体育倉庫、テイク1、アクション!」

 映画撮影のカチンコのようなアクションでプレイが始まる。

 百合華がノリノリだ。



「ユウ君、体育祭実行委員なんだから、ちゃんと準備を手伝ってよね」

「うん、お姉ち……百合華ちゃん」

「ユウ君は、そっちの棚を探してね」

「えっと、この引き出しかな?」

「その日記は見ちゃダメだから!」


 悠が百合華の机の引き出しを開けようとしてツッコまれる。

 姉日記と姉アルバムの入っている引き出しだ。

 やはり、余程ヤバい内容が書かれているのだろう。


 ガラガラ、ガチャ!

 気を取り直して、体育倉庫が施錠される音から始まる。


「ゆ、ユウ君……どうしよう、閉じ込められちゃった」

「え、ええっと……」

「ノリ悪いよ! ちゃんとやって!」

「だって、恥ずかしいし……」


 誰も見ていないとはいえ、二人で寸劇のような事をするのは恥ずかし過ぎた。


「きゃ、怖い! 今そこに何かいた」

「妖怪とか?」

「そこはネズミとかでしょ! ちゃんとやって!」

「…………」


 ガバッ!

 百合華が抱きつく。

 セーラ服姿の姉に密着され、悠のテンションが一気に上がってしまう。

 結構単純だった。


 くっ……

 お姉ちゃんのセーラー服姿だけでもエロいのに……

 密着されると、本当に同級生の百合華ちゃんのような気がしてきた。

 マズい……

 何かいつもより凄く興奮する……

 これが制服マジックなのか!


「ユウ君……じ、実は、私……前からユウ君のコトが好きだったの」


 顔を真っ赤にして百合華が告白する。

 迫真の演技というより、本心なので演技ではなかった。


「百合華ちゃん……」

「ユウ君を誰にも渡したくない。ユウ君は、ずっと昔から大好きだったんだから」

「俺も、百合華ちゃんを、す、好きだったんだ!」

「ユウ君!」

「百合華ちゃん!」


 最初は恥ずかしがっていた悠だが、百合華の告白でノリノリになってしまう。

 もう、同級生プレイというより本気になってしまった。


「ちゅっ……んっ」


 二人はキスをしたまま、体育マットに見立てたベッドに倒れ込む。

 そのまま強く抱きしめ合い、お互いの額がくっつくほど顔を近づけ見つめ合う。


「ユウ君……好き、大好き」

「俺も大好きだよ。百合華ちゃん」

「嬉しい! ユウくぅ~ん」

「百合華ちゃん」


 ぎゅ~っ!

 強く強く抱きしめ合い、お互いのカラダをまさぐり合う。

 手で触り、撫でまわし、いじくり合い、求め合う。

 脚まで絡め合い、全てのカラダを密着させ。

 やがて、どちらともなくキスをして深く深く愛し合う。

 本当に蕩けてしまうのではないかと思うくらいに――――


「ちゅっ、んっ、んあっ……ちゅぱっ……んっ、んうくふんユウ君、しゅき、だいしゅき、ちゅっ……私だけのユウ君……」


 とろとろに蕩け顔になった百合華が、貪るようにキスをしたまま求め続ける。

 もう、幼馴染の同級生どころではなく、猛烈に愛を求めるお姉さんだ。


「うっ、ちゅっ……んっ……好きだ、大好きだ! 俺は……出会った時から、一緒に生きてきた時間全てが、お姉ちゃんの全てが、大好きだ! 誰にも渡さない! 誰にも触らせない! お姉ちゃんは、百合華は俺のものだ! 全てが欲しい! 大好きだから!」


 興奮してタガが外れてしまった悠の、本音がダダ漏れになってしまう。

 もう独占欲で百合華の全てを欲してしまう。

 設定とかどうでもよくなって、ただ心の底から百合華を欲しているのだ。


「いいよ。ユウ君に私の全部をあげる」

 百合華が両手を広げ、全てを受け入れる笑顔で悠を受け止めようとする。


「お姉ちゃん!」


 ガバッ!


 その時、悠の脳裏に子供の頃の誓いが甦る。

 ――――早く大人になって、お姉ちゃんを守れる男になりたい! お姉ちゃんが悲しむ事が無くなるようにしたい!


 そして、始めて姉に告白した日の事も。

 ――――例え世界に二人きりになったとしても、俺は絶対にお姉ちゃんを守り続けるから! ずっと、側にいて永遠に守り続けるから! 絶対に、お姉ちゃんを幸せにしてやる! お姉ちゃんの事が大好きだからっ! いつか両親にも認めてもらえるようにする! 絶対にお姉ちゃんを幸せにするから!


 お、俺は……

 大人になれたのだろうか?

 大好きな人を守れる一人前の大人に?


 責任がとれる立場になるまで待つべきだという声と、愛があればカラダとカラダで通じ合うのも当然だという声が、悠の中でせめぎ合う。

 どちらも正しいように思え、どちらも重要に思える。

 もし、関係がバレてしまった時に、百合華の立場を考えると、簡単には決められない気がした。


 ざっ――――

 悠がベッドから立ち上がる。


「お、お姉ちゃん……ここまでにしようっか。続きは、もう少し経ってから――ぐわっ!」


 ガシッ、ガシッ!

 とろ顔からプク顔になった百合華の蹴りが入った。


「ちょ、お姉ちゃん、何で蹴るの?」

「ユウ君のイジワル! 今の完全に一つになる流れでしょ! なんで、おあずけ・・・・になるのよ!」


 完全に受け入れる体勢だったのをおあずけ・・・・されて、もうどうにも辛抱たまらない感じになってしまった。


「でも、お姉ちゃんの立場を考えると……」


「もぉぉ~っ、ユウ君が私を一番に考えてくれてるのは嬉しいけどぉ、そろそろ良い頃なんじゃないのぉ。毎回毎回、ユウ君の調教みたいな無意識なテクで堕とされて、色々と盛り上がって限界まで焦らされて、肝心なところでおあずけ・・・・ばかりで、もうお姉ちゃんも限界なのぉ~」


 百合華が駄々をこねる。

 駄々こね姉も可愛かった。


「もうちょっと我慢してよ」

「もうムリ! じゃあ、ユウ君が私のイケナイコトするの手伝ってよ」

「ちょっと、このお姉さんアウト過ぎる! やっぱりポリスメン案件だよ」

「ユウ君の、ばかぁ~っ!」


 そんなこんなで、益々百合華の欲求不満が溜まる結果になった。


 ――――――――




 部屋で悠が明日のプールの準備をしていた。

 貴美から詳細のメッセージが来て、水着などを用意しているのだ。


 コンコン――

 部屋がノックされ、百合華が顔を出す。


「ユウ君、明日の準備?」

「うん」

「あ、あの……今夜はイケナイコトするよね?」

「は、はあ?」


 突然、変なコトを言い出す姉。

 普段はイケナイコトさせないように見張っているようでいて、最近はたまに時間を作ってさせてくれているようなのだ。

 我慢の限界にさせて既成事実を作ろうとしておきながら、溜めすぎは良くないとたまに許してくれる優しい姉だった。


「べ、別に……しても良いよ。いや、むしろして! 明日のプールで同級生女子の水着に欲情しないように、今夜のうちにスッキリさせちゃって」


「うわっ、しし、しないから! なに言い出すの!」


「だ、だから、しても良いんだって。お姉ちゃんは、今夜はもう来ないから。いい! スッキリしちゃってからプール行くんだよ。じゃあ、お休みユウ君」


 イケナイコト解禁令が出た悠。

 どうしたものかと考える。


 ガチャ!

「あっ、これ使う?」


 ドアの隙間から自分が着用していた下着を入れる百合華。


「つ、使わないからっ! これ、持って帰ってよ!」

 滅茶苦茶欲しいのに、使ったら戻れなくなりそうで下着を返す。


「ふぅ……まいったぜ……」


 そして、やっぱり滅茶苦茶イケナイコトした――――


 ――――――――




 翌日

 悠は待ち合わせ場所に向かっていた。

 陽キャっぽい夏のイベントに向かう為に。

 そして、待ち受けるドS女子達の誤解を解くために。

 負けられない戦いが、そこにあるのだ。

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