第68話 姉のヤバい秘密と夏休み
無事試験も終わり夏休みに入った。
もちろん試験は百合華のスパルタオシオキ教育という、刺激的な学習方法のおかげでクリア出来たのだが。
世間の若者が、部活に青春にと夏の太陽の下で励んでいる頃、悠ときたら相変わらずのシスコンだった。
夏休みといっても百合華は仕事なので、平日は悠が一人でのんびりと過ごしていた。
親の再婚以来、久しぶりとなる一人での家時間だ。
これまで家では常に百合華と一緒で、何をするにもベタベタしていた。
スキンシップが激し過ぎる姉を何とかしたいと思いながらも、いなくなると途端に寂しくなってスキンシップを求めてしまう。
もう、百合華無しの生活など考えられないほどに。
「お姉ちゃんに会いたい……」
悠が呟く――――
「し、しまった! これじゃ完全にシスコンじゃないか!」
どう見てもシスコンそのものなのに、悠が自分で自分にツッコミを入れる。
「夕方になれば帰って来るけど、それまでずっと一人なんだよな。お姉ちゃんがいない……いやいや、待て! ここで下着を漁ったりしたらアウトだぜ! そんなの変態過ぎるからな。でも、『くんかくんか』したら、逆にお姉ちゃんは喜びそうな気もするけど。たまに自分の匂いを嗅がせようとするからな。くっ、姉が変態過ぎて少し心配になるぜ……」
洗濯カゴに入っている姉の衣類を見ないようにして二階に上がると、姉の部屋の前に止まり考える。
「お姉ちゃん……部屋に入っても良いって言ってたよな? 本当に入っても良いのか? 本人が入って良いって言ってるのだから……でも、何だか禁断の花園のような気がして
普段は添い寝などで百合華に連れ込まれて頻繁に入っているのだが、一人でこっそり入るとなれば悪い事をしているみたいで胸が早鐘を打つ。
それはもう、ドキドキと音が聞こえそうなほどに。
ガチャ――――
悠は少しだけ考えてから、姉の部屋の扉を開けた。
「おじゃまします…………」
誰も居ない部屋に挨拶をしてから入った。
姉の部屋は綺麗に片付けられていて、少し良い匂いがした。
普段は服を脱ぎ散らかしているが、ちゃんと部屋が片付いているのを見ると、わざと下着姿になって誘惑しようと企んでいるのだと思ってしまう。
「お姉ちゃんの匂いがする……一人でこっそり部屋に入ったと思うと、イケナイコトをしているみたいでドキドキしてしまう……」
姉のベッドを見て、思い切りダイブしたい欲求が沸き上がるが我慢する。
お姉ちゃんのベッド……
そういえば、俺がまだ子供の頃……
悠は昔の記憶を思い出す――――――――
『お姉ちゃん』
コンコン、ガチャ!
悠が勢いよく姉の部屋に入ると、ベッドの上の百合華が慌てて布団を被り体を覆う。
一瞬だけベッドの上でモゾモゾと何やらしていたのが見えた。
『な、な、何かな、ユウ君?」
『お姉ちゃん、どうかしたの?』
『な、何でもない、何でもないよ』
『お姉ちゃん……調子悪そう……』
真っ赤な顔で苦しそうにしている姉を心配して、悠が近寄り額に手を伸ばした。
『んんっ! あんっ!」
ビクッ!
悠の手が額に触れた瞬間、百合華のカラダが脈打つように跳ねた。
以前に百合華がイタズラで、両親の前で隠れて悠の太ももをコチョコチョしながら熱を測るフリをしたのだが、
実は、この時ベッドの上でイケナイコトをしていた百合華は、突然の義弟の来訪に絶頂寸前のカラダを隠していっぱいいっぱいだったのだ。
こんな場面を見られてしまっては、恥ずかしいやら弟の教育に悪いやらで、必死に隠して陥落しそうなカラダを堪えていた。
『ゆ……ユウ君、お、お姉ちゃんは少し寝るから、あ、後にしよっ……』
限界な表情で弟に告げる姉の表情を見て、悠は何かを察した。
そう、少しエッチなラブコメ漫画が好きな悠は、姉の表情や雰囲気から見てはいけないものを見てしまったのだと気付いたのだ。
『ごめん! お姉ちゃん……ご、ごゆっくり……』
『ゆゆゆ、ユウ君! ち、違うから! ユウ君が想像しているのじゃないからね!』
『うん、分かってる……お姉ちゃんも溜まってるよね』
「んんんんっ~~~~ユウ君のイジワルぅ~』
悠は、姉の部屋のドアを開ける時は配慮が必要だと学んだのだ。
――――――――
長い回想から戻った悠は、再び姉の部屋を見回し息を吸い込んだ。
大好きな姉の匂いを吸って落ち着いた。
クローゼットの前まで行き開けてみる。
中には姉の服に雑じってコスプレ衣装がある。
「お姉ちゃんのコスプレ……ナーズ服に、メイド服に、ブルマに……うわっ、セーラー服もあるじゃん……」
セーラー服で迫られた事がないので、最近購入したものかもしれない。
たぶん、『同級生の百合華ちゃんプレイ』を近々する予定なのだろう。
下の引き出しを開けると、色とりどりの下着が出てくる。
普段付けている白い下着や、少しセクシーな赤や紫のランジェリー、キャミソールやベビードールやガーターベルトまである。
「いかんいかん、ここは見てはいけない」
すぐに引き出しを閉めた。
次は机に向かい、引き出しを開けてみる。
一番上の引き出しにはノートが入っていた。
開いて読んでみる。
「どれどれ……『〇月〇日、今日はユウ君と一緒に買い物に行ったよ。ユウ君は相変わらずシスコンで、私にべったりで超可愛いんだよ。最高だぜ! はぁぁ……もう、ユウ君を食べちゃいたいよぉ。早くエッチしたい! 早くエッチしたい! 早くエッチしたい! 早くエッチしたい! 早くエッチ――――』って何だよりゃ!」
ペラペラッ!
ページをいくつかめくる。
「えっと……『〇月〇日、今日はユウ君に思いっ切りオシオキしちゃった。てへっ♡ ボディウォーマーの中でキツキツに密着して、朝までユウ君と強制密着刑だよ。カラダとカラダがピッタリくっついて、お互いの汗でヌルヌルが超エッチで、ユウ君が泣きそうな顔しているのが超可愛かったよ。最高だねっ! もぉ、このまま合体したかったけどぉ、ユウ君が必死に我慢しているのが健気過ぎて、もっともっとイジワルして我慢させちゃいたいかも。きゃ、鬼畜♡ でもでもぉ、やっぱり最後までしちゃいだいよぉ~ 早くエッチしたい! 早くエッチしたい! 早くエッチしたい! 早くエッチしたい! 早くエッチ――――』って、なんじゃこりゃぁぁぁぁーっ!」
ガタッ!
悠は姉の日記を閉じて引き出しの中に戻した。
うっ……
ヤベぇもんを見てしまったような……
お姉ちゃん……そんなに溜まってたのか……
色々と危険な感じがするのだが、怖いもの見たさで更に引き出しの中を探る。
奥にアルバムが入っていた。
「これは、普通のアルバムかな?」
ペラッ――
中は悠と百合華の写真がメインだった。
「懐かしいな。俺の小さい頃のもある」
ペラペラとページをめくると、悠の知らない写真が出てきた。
明らかに隠し撮りのような角度から撮られた、着替え途中で上半身裸の若い悠の写真もある。
悠が知らない大量の義弟写真コレクションだった。
パシッ!
ガラガラ!
アルバムを閉じて引き出しにしまう。
「ううっ、お姉ちゃん……昔からアウト姉だったのか……これは、ポリスメン案件だぜ」
悠が黒歴史のポリスメンを持ち出してしまう。
それほどのアウト姉案件だった。
ガタッ!
「へっ?」
物音がして悠が振り向くと、部屋の入口に百合華が立っていた。
夏なのに部屋の温度が急激に下がった気がする。
「ねえっ、ユウ君……誰がポリスマン案件なのかな?」
「えっと……あの……その……」
姉に捕まりオシオキへと移行してしまう。
百合華に抱きつかれた悠が、恐怖で固まってしまった。
「ユウ君ってば、お姉ちゃんの留守中にお部屋に忍び込んじゃう悪い子だったんだ?」
「だ、だって、お姉ちゃんが入って良いって言ったから……」
確かに、姉が自分の部屋に忍び込んでいるのを追求した時に、『部屋に入って良い』と『くんかくんかOK』の許可が出ていた。
「姉は弟の部屋に忍び込むのは合法だけどぉ、弟は姉の部屋に忍び込むのは重罪なんだよ。これは姉刑まっしぐらだねっ!」
「くっ、理不尽過ぎるぜ……」
「ユウ君、見たの? 見たよね?」
「な、何のことだ……」
「だからアルバムだよ。もしかして、日記も見たの?」
「うっ、えっと……」
やっぱり姉に嘘がつけない悠が、顔に出てバレてしまう。
どうやら、部屋でくんかくんかはOKだが、秘密の姉ノートや姉アルバムを見るのは禁止だったらしい。
悠は選択を間違えたようだ。
あの時、下着をくんかくんかしていれば無罪だったのだろう。
「そうかぁ……見ちゃったんだ。誰にも言っちゃダメだよ」
「う、うん、言わない……というか言えないわ! お姉ちゃん溜まり過ぎだって!」
「ユウ君のせいでしょ! もう、いつまで待たせるのよ」
確かに百合華の言う通り、悠が我慢し過ぎな気もする。
「だって、一度しちゃったら、お姉ちゃんが止まらなくなって、毎日しまくって学園でも『隠れてこっそりしよっ』とか言い出しそうだから! 事案発生になっちゃうから」
「そ、それは、私も思うような……」
百合華も認めてしまう。
「だよね。エロ姉だよね」
「誰がエロ姉だぁ! このこのぉ」
「ううっ、お姉ちゃんが仕事で帰りは遅いと思ってたのに……」
「仕事も片付いたし、早くユウ君に会いたいから半休取ったんだよ」
途中までオシオキのはずだったのに、キスしまくっていたら結局イチャイチャモードになってしまった。
もう、この二人は毎日がこんな感じだ。
「おねえちゃ~ん」
「ユウ君、今日も可愛いんだからぁ~ はい、チュウしちゃうよぉ~」
「わーい」
「ちゅ~っ……んっ」
エアコンが効いた部屋なのに、外の炎天下よりも熱々なバカップルだった。
学園ではケジメをつけて教師と生徒として振舞っている為に、家に帰るとタガが外れたように超イチャイチャしてしまうのだ。
「しまった、若干……いや、だいぶアホになっていた気がする」
「あんっ、ユウくぅん……ちゅっ……」
悠の膝の上に乗った百合華が脚を回しガッチリとロックし、カラダをピッタリと寄せて抱きついている。
もう完全に逃げられないように悠をホールドしてからのイチャイチャ攻撃だ。
「う~ん……このままで良いのだろうか?」
ふと、悠が疑問に思う。
責任が持てるようになるまで一線は超えない考えだったはずなのに、何だか済し崩し的に百合華に侵攻されて付き合っている気がしていた。
このままでは、どんどんエッチに攻められて既成事実になってしまいそうだ。
姉ノートに書かれている姉日記の内容のように。
「ユウ君、このままイチャイチャして良いんだよ。ほらっ、よく言うじゃない。『考えちゃダメ、感じちゃえ!』って」
「それ意味が違うだろ!」
ピロリピロリピロリ――――
突然鳴り響く悠のスマホ。
画面には中将貴美の文字が。
「ユウ君、電話だよ」
「う、うん……」
恐る恐る電話を取る悠に、百合華の瞳が一瞬光る。
嵐の予感の夏の始まりだった。
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