第54話 熱情に身を焦がす淫乱悪魔鉄槌の一夜ラグナロク編
百合華に迫る陥落への危機。溢れ出しそうな感情と、決壊しそうな体と心。尚も続く悠の無意識の反撃に、全てを曝け出し声を上げそうになる。
「し、師匠……調子悪いんですか?」
そんな百合華を心配した花子が話しかける。
「い、いえ、だいじょ……ぶ、ですから……」
今にも陥落しそうな気持に喝を入れた百合華は、ギリギリのところで気丈に振舞う。
「んっ…………」
更に百合華が追い込まれる。悠が両手を百合華の体に回し抱きしめたのだ。
シャツが捲れ素肌に悠の手が絡みつく。
大好きな弟の手が、敏感な脇腹から前に滑り込み、そのままお腹や胸へと流れるように動いた。
百合華は余りの快感に気が遠くなってしまった。
(ああっ……もうダメかも……末摘先生の前なのに、ユウ君のテクで堕とされちゃう。我慢、しないと……バレちゃう……。でも、ユウ君さえいれば……もう他に何もいらないかも……)
百合華が限界突破して陥落寸前だ。
「熱でもあるのですか? ど、どうしましょう」
花子が百合華の額に手を当て熱を測った。
「んあっ、ぐっ……」
百合華の表情が歪む。
もう限界だ。
その時、
大好きな姉を残して異世界に行くわけにはいかないのだ。
姉を人前で
(はっ、俺は何を…)
自分の手が百合華のお腹や胸を触り、背中にくちびるを押し付けている状況に悠が気付いた。愕然とし体を離す。
(うわぁ! 俺は何をやっていたんだ! いくらお姉ちゃんが大好きだからって、まだ付き合っていないのにエッチなコトしまくってたのか!)
悠が離れたことで、陥落寸前だった百合華がギリギリで踏みとどまった。
「あの、末摘先生、もう大丈夫ですから。少し腹痛でしたが治まりました」
「そ、そうだったんですか。心配しました」
とりあえず花子には腹痛ということで誤魔化した。
そして、百合華は悠の方に振り向くと――――
「悠、トイレに行きたいから、少し支えてもらえるかしら」
少しピクピクとしながら百合華が悠に言い付ける。
「う、うん……お姉ちゃん……」
明らかに怒っている百合華に、少し怯えながら悠が答えた。
トイレなら私がと申し出る花子を丁重に断り、悠に支えられて外のトイレへと向かった。
誰も居ないトイレへ着くと、百合華は周囲を確認してから悠の耳に顔を近づける。
悠にしか聞こえないように小声で囁いた。
「ちょっと、ユウ君! ヒドいよ」
「ごめん。そんなつもりじゃなかったのに」
「もうムリ! もう限界!」
百合華がトイレの個室に悠を押し込む。
ギュッと強く抱きしめキスをする。
「はぁんっ、ちゅっ……んっ」
「んんっ……はっ、ちょっと、ダメだって」
「ユウ君、良いでしょ。ここで」
「アウトすぎるよ! ダメダメダメ!」
「えええぇ~」
アウト姉を連れてトイレを出る。
こんな場所で変なことをしていては誰かに見つかってしまうかもしれない。
「もう、お姉ちゃんは少し自重してよ」
「ユウ君のイジワルぅ~」
「早く戻るよ」
「ふえぇぇ~ん」
欲求不満過ぎて危険な百合華を連れロッジに戻った。
ガチャ!
部屋に入ると花子が心配そうに話しかけてきた。
「師匠、大丈夫ですか?」
「え、ええ、もう治りましたから」
尚も心配そうな顔をする花子に、悠が余計なことを言い出す。
「先生、姉は便秘で溜まってただけですから大丈夫――ぐえっ!」
言い終わる前に百合華のボディブローが入っていた。
「ユウ君、そういうのは言わなくていいから」
「はい……」
悠が脇腹を押さえて静かになったが、代わりに花子がしゃべり始める。
「分かります。私も便秘なので。大変ですよね」
「は、はあ……」
「いっぱいの時はスッキリして――」
「あの、弟の前ですので」
「す、すみません……」
花子が便秘の話に食いついて生々しい話になってしまう。
大好きな弟にアレな話など聞かれたくない百合華が止めた。
「ユウ君、変な想像はしないでね」
「う、うん……」
ちょっとだけ想像していた――――
就寝時間を過ぎているので、照明を消して一斉にベッドに入る。
すぐに花子の寝息が聞こえてきた。
そして、悠と百合華はベッドの中で二人だけの世界になる――――
それは刹那のような永遠のような不思議な時間。
布団の中で手を繋ぎ指を絡め、指先をお互いの掌にスリスリと這わせる。
指で『すき』と何度もなぞるように。
そこから更に時間は過ぎ、どちらともなく二人は布団に潜り、音を立てないようにキスをした。
強く抱き合い永遠の愛を確かめ合うように。
キスだけでカラダが溶け合ってしまいそうなくらいに。
やがて百合華は幸せそうな寝顔をして永遠の楽園世界に落ちて行く。
悠と二人、永遠に結ばれる幸せな世界へ。
(ユウ君……大好き……)
◆ ◇ ◆
チュン、チュン、チュン――――
小鳥がさえずり朝日が射し込む。
「んんっ」
百合華がベッドから体を起こし伸びをする。
ユウ君成分を補充し元気いっぱいだ。
体の奥の方をウズウズと刺激する願望は依然残っているのだが、悠と幸せな時間を過ごせて活力は漲っていた。
「おはようございます。末摘先生」
「あっ、おはようございます」
丁度起きたところの花子と挨拶を交わしながら、百合華にもたれかかるように寝ている悠に声をかけた。
「ほら、悠、起きなさい」
「う……うぅん……おはよう」
寝ぼけ気味な悠が目を開けた。
姉に起こされる弟の光景を見ていた花子が呟く。
「うわぁ、羨ましいです。私も弟が欲しいです」
一緒に寝たり、朝起こしたりで、花子の妄想が膨らんでしまう。
「あ、あげませんよ! うちの弟は」
「ね、狙ってません。狙ってませんから」
相変わらず悠を見る目が怪しい花子を、百合華が牽制した。
◆ ◇ ◆
林間学校二日目のスケジュールも滞りなく進み、昼食は班員で協力し
料理とあって日頃の家事能力など女子力が試されることになる。
「あっ、中将さん。包丁はこう持った方が安全だよ。包丁を回すのではなくジャガイモの方を回して――」
悠が包丁の使い方を手ほどきしていた。
元々母子家庭だった悠は、自分で料理を作ることも多かった。ただ、下手糞だったが。
しかし、親の再婚で百合華と出会ってからは、一緒に手伝いをして料理を作ることが多く、家事スキルも飛躍的に向上しているのだ。
「悠、あんた女子力高いわね……」
貴美が驚いた顔で悠を見る。
「六条さん、お米はこうやって研いて――」
「さすが私の従者ね……」
「従者じゃないです……」
葵も悠の家事スキルに関心してしまう。
「夕霧さん、炭火を
「お、おう……」
手早く火を熾す悠に、真理亜の瞳が輝きだす。
「おまえ、けっこう頼りになるよな」
一度は諦めようと思った真理亜の悠への想いが、
そんなこんなで、悠の女子力により他の班より速く美味しいカレーが完成した。
因みに他の班はご飯を焦がしたり、カレーのジャガイモやニンジンが生煮えだったりと失敗している。
「美味しい! 悠、あんた凄いわね」
カレーを食べた貴美が、美味しさで顔を綻ばせる。
「べつに普通だよ。キャンプだと美味しく感じるだけだろ」
貴美の誉め言葉にも、いつも通りの悠だ。
「本当だって! 本当に美味しいんだから! 毎日あんたの料理を食べたいわね。うちに嫁に来ない?」
テンションが上がった貴美が、本音をポロっと漏らしてしまう。
「えっ、嫁って……」
「あんたは婿より嫁の方が合ってるわよ!」
悠の背中をバシバシ叩きながら、後で思い返したら超恥ずかしくなりそうなセリフを言いまくる貴美だ。
「ちょっと! 聞き捨てなりませんわね。明石君は私の従者なのですから、私の家で私専属の執事にしますわ」
そこで葵が貴美に対抗する。悠を自分専用にしたがっているのだ。
「はあ? あんた何言ってんのよ! 悠は私のモノなのよ」
「いいえ、私の専属執事です」
二人が言い合っているところに、真理亜まで参戦してしまう。
「いやぁ、明石ってやっぱ良いよな。気に入ったわ! あたしと付き合わねぇ?」
超ストレートだった。
「はあぁぁぁあ?! 真理亜、あんたねぇ!」
「な、な、なんですって! 真理亜さん、お、お付き合いはまだ早いです!」
三人の女子が悠の取り合いになってしまった。
モテ期到来のように見えるが、悠は百合華に見られていないか気が気でない。
「ひゅーひゅー! 明石君モテモテだね」
「全員で攻められる展開希望……」
歩美と沙彩もからかってくる。
「ううっ、こんなの見られたら……」
悠の予想通り、後ろから姉の声が聞こえた。
「んっ、んんっ! 明石君、とてもモテるようだけど不純異性交遊はダメよ」
冷徹なドS女看守お姉ちゃんキャラのような百合華の声が響く。
いつもの優しい顔ではなく、ゾクゾクとしそうな鋭いドSの目をしている。
今夜もオシオキ確定だ。
「くっ、やっぱり理不尽だぜ……」
悠がガックリと肩を落とした。少しだけ期待もしながら。
悠を取り合う女子三人組は、まだモメているようだが。
「もう、真理亜は油断も隙も無いわね」
「貴美も同じだろ。あんなん告白と一緒じゃねーか」
「は、はあ?! ち、違うから! そんなんじゃないし!」
貴美と真理亜がバトっていると思いきや、続いて葵にも飛び火する。
「てか、葵も大概だよな。執事とかアホか」
「わ、私は大真面目です。真理亜さんはストレートすぎます」
まだ言い合っている三人に、悠は昨日までと雰囲気が違うことに気付いた。
「あれ? いつの間に名前で呼び合ってたの?」
悠が言ったように、女子メンバーが昨日より少し仲良くなっている気がする。
「五人で夜遅くまで語り合って仲良くなったのです」
葵が得意げな表情で言った。
その顔を見た悠が優しい表情になる。
「良かったね。六条さん」
「え、ええ」
葵が少しだけ照れた表情になった。
女子の中で少し孤立していたように見えて、悠も心配していたのだ。
「まっ、おまえのおかげなんだけどな」
真理亜が悠の首に腕を回す。
「ええっ、俺は関係ないだろ……」
「へへっ、ホントおまえって面白いやつだよ」
何だかよく分からない内に五人の少女の友情が深まったようだ。
シゴカレマスタースキルの悠も、たまには人の役にたっていたのだろう。
無意識に優しくしていたりシゴかれたりで、彼女たちの連帯感や友情を深める結果になったのかもしれない。
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