第51話 天使姉か悪魔姉か? 楽しく激しい林間学校

 悠は林間学校に向けてバスに揺られていた。今日は林間学校の初日だ。

 バスは都会の喧騒を抜け自然豊かな渓谷へと入り、自ずと皆のテンションも上がって行く。



 ゴールデンウィークの買い物では先に帰宅した百合華だったが、父親の幹也にセクシー過ぎるファッションを見られ、『ちょっと肌の露出が多過ぎないか?』と心配されたり、やっぱり夜になると悠の部屋に忍び込んで来たりで大変だった。


 当然、親に内緒でデニムホットパンツ姿でオシオキされ、悠がデニム尻フェチになってしまったのは言うまでもない。


 元々お尻フェチの悠だったが、デニム尻の攻撃が超有効だと知った百合華は、それからもホットパンツ姿で乗ったり踏んだりプロレスごっこしたりと、もうやりたい放題だった。


 更なる姉の魅力を骨のずいまで叩き込まれ、徹底的に誘惑されまくり、悶々とした日々が続く。


 そして、あっという間に当日となり、二泊三日でキャンプ場へと向かっていた。

 当然のように周囲全てを女子に囲まれたまま――――



「くっ、これも運命さだめか……」


 悠が、いつものように何かそれっぽいポーズでつぶやく。

 日に日にエスカレートする姉の攻撃に、もう完全に姉色に染められ遠い目をしていた。


「ぷっ、あははっ、あんたって、相変わらず面白いわね」


 悠の変なつぶやきに、貴美が嬉しそうに笑う。


 貴美は、悠の弟っぽい雰囲気や、たまに子供っぽいことをするのもお気に入りで、見ていると構いたくなってしまうのだ。

 ちゃっかり悠の隣の席をゲットして、ギラギラした肉食系女子の目を輝かせ、色々と世話を焼いたりイジったりしていた。


 更に、歩美と沙彩が後ろから冷やかしたりからかったりで落ち着かない。


 そして、悠が横を向くと――

 貴美に悠の隣を取られて拗ねている真理亜が睨んでいた。


「ふふっ」


 貴美が真理亜と目が合った時に、ニヤッと笑う。カラオケの時の雪辱を果たした感じだ。


「くっそ! 明石、後で覚えてろよ!」


 何故か悠に対して怒り出す真理亜。


「ううっ、毎度のことながら理不尽だぜ……」


 悠が、お決まりのセリフを言う。

 ここまでがセットである。



 こうしてバスは山奥のキャンプ場へ向かって進む。

 これから起こるアクシデントも知らずに。



 ◆ ◇ ◆



「いやぁーっ、困った困った。ロッジの一つが電気系統の故障で使えないんですわ。申し訳ないけど、そちらで部屋割りを調整してもらえませんかね」


 キャンプ場管理人からの無慈悲な通告がされた。

 悠のクラスが泊まる予定だったロッジが一つ使用不能になり、結果的に不規則なメンバー編成の班にしわ寄せが行くことになる。


「ぷふっ、ふっ、あははっ、ダメ、おかしぃ……あははははっ!」


 貴美が笑いを抑えられない。


「中将さん……」


 悠は茫然としてしまう。

 まさか、冗談で話していた女子五人と一緒の部屋が実現してしまいそうだ。


 貴美が目をギラつかせる。


「ふふふっ、悠……今夜が楽しみね」

「いや、だから男女一緒なんてダメだろ……」


 そこに、バスの中で悠と貴美が仲良く話しているのを見せつけられ、ちょっとご機嫌斜めな真理亜が参戦してしまう。


「おい、明石ぃ。今夜は覚悟しとけよ。まっ、ドーテーだけは守ってやっから」


 更に歩美まで悪乗りしている。


「あーあっ、貴美を本気にさせちゃったね明石君。もちろん私も手伝っちゃうから」


「ちょっと待て……俺は何をされるんだ……」


 まるで女子全員からオシオキでもされそうな雰囲気に、悠の腰がゾクゾクと震え出す。


(いや、まさかな……男女同室なんてあり得ないよな……。てか何で俺は女子からシゴかれたりオシオキされる運命なんだ。くっそ、理不尽過ぎるぜ! クラスの男子からは『俺も色々されてー』とか羨ましがられるけど、俺にオシオキして良い女子はお姉ちゃんだけだぜ!)


 絶体絶命の悠は、止めてくれそうな女子を探して沙彩と目が合った。


「あ、あの、東さん……」

「明石君も大変ね」

「東さん、止めてくれるの?」

「安心して。明石君が皆にエッチなことされて悶える恥ずかしい顔は、私がバッチリ動画で保存してあげるから」


 とんでもないドS女子だった。


(しまった……中将さんの友人を頼った俺がアホだった。やっぱり似た者同士じゃないか。いや、むしろ中将さんが可愛く見えるレベルだぞ)


 最後の希望を懸けて、ずっと静かにしている葵に話しかけてみた。


「あの、六条さん……」


 葵は顔を赤くしてうつむいている。


「あの、明石君、ほんとにエッチなことしないわよね? 私……そういうの未経験なので。男子と同室なんて困るわ……」


 一番面倒くさい女だと思っていた葵が、一番まともな反応だった。


「六条さん! やっぱり六条さんは学年一の美少女です」

「な、何よ急に……でも、エッチなのは禁止よ」



 悠が飢えた肉食系女子たちの餌食にされそうになっていると、担任の花子がやって来た。


「あの、ロッジが足りなくて調整できる班がここだけなのですが」


 申し訳なさそうに話す花子に、貴美は身を乗り出して反応する。


「はい、私は構わないですよ。悠なら大人しくて安全だし、女子が五人も居るから間違いも起きませんよ」


(俺が危険過ぎるよ! 間違いを起こそうとしてるのは中将さんでしょ!)


 悠が心の中でツッコんだ。


「あたしも構わねえぜ。明石が変なコトしようとしたらボコっとくからよ」


 真理亜までOKを出してしまう。


「はーい、私たちも賛成でーす。同室で良いですよー」

「私も大丈夫です」


 歩美と沙彩までOKだ。


「明石君が何もしないと言ってくれたから、私も賛成します」


 最後の砦、葵まで賛成してしまった。


「じゃあ、すみませんが同室でお願いしま――」

「ちょっと待って下さい!」


 花子が結論を出してしまいそうになった時、百合華が割り込んできた。

 朝までシゴかれ地獄を受け入れる運命かと思った悠に、希望の女神が降臨したのだ。


「お姉ちゃ……先生」


 悠は涙が溢れそうなくらい感動した。まさに天使姉が降臨したかのようだ。

 悠に群がる肉食系悪魔女子を、天使姉ゆりか神聖天使鉄槌ホーリーエンジェルハンマーで粉砕しそうな勢いに見える。


「し、師匠」

「末摘先生、確かに私の弟は大人しく紳士的なので安全かもしれませんが、もし間違いが起きた時は責任をとったり親御さんに説明できるのですか?」


 百合華が堂々とした立ち姿で説明する。


 林間学校でジャージ姿になった百合華が胸を張り、より巨乳が強調され周囲の男子が前屈みになってしまう。


 なにしろジャージのサイズが合っていないのか、ファスナーが上まで上がらず下乳で止まりおっぱいが収まっていない。しかも、パツパツに膨らんだTシャツにブラの模様が浮き出ている始末である。


 上げられないこともないのだろうが、ムチムチの胸でファスナーのスライダーを弾け飛ばしてしまいそうだ。


 胸のことは一旦置いておき、花子は困惑した顔で部屋割り表を見た。


「そ、それは……困りますね。でも他に空いている部屋が……」

「私たちの部屋に泊まってもらうしかないですね」


 百合華は自分と花子の教師用ロッジに悠を泊めようとしているようだ。


「で、ですが、私たちの部屋はベッドが二つしかないので……」

「それは仕方がないですね。狭くても我慢しましょう」


 その話を聞いて、花子が顔を赤くしてモジモジし出す。


「しょ、しょうがないですよね。あ、明石君……先生と一緒のベッドじゃ嫌かもしれませんが、少しの間だけ我慢してくださいね」


 花子は自分のベッドで悠と添い寝しようとしていた。


(はわわわぁ~お気に入りの明石君と添い寝なんてどうしましょぉ……。明石君……いえ、悠君が我慢できなくなって迫られちゃったら、わわ、私、抵抗できないかもしれないですぅ~! やっぱりショータ君みたいに、あんなコトやこんなコトを……)


「末摘先生! 何か勘違いされてますか?」

「はひっ!」

「先生も女性なのですよ。男子生徒と一緒のベッドのはずがないですよね」

「そ、そうですよね……」

「私は身内ですので。弟は私のベッドで寝かせます」

「しゅ、しゅみません……」


 花子がションボリしてしまう。余程、悠と添い寝したかったのだろう。



 色々トラブルは遭ったが、何とか一件落着したようだ。

 悠はホッと胸をなでおろす。


(た、助かった……これで朝まで女子五人にシゴかれるのは回避できたぜ。やっぱり、お姉ちゃん最高だぜ!)


 悠が顔を上げ百合華と目が合った。


「えっ、あれ?」


 悠は誤解していた。

 姉は天使になって助けに来たのではなかったのだ。

 百合華の顔は『ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ』といった感じに嫉妬の炎に燃えていた。

 同級生女子五人と一つ屋根の下、朝までイチャコラしようとしていた悠に大激怒なのだ。


 天使姉ではなく悪魔姉だった。

 悪魔姉ゆりか淫乱悪魔鉄槌ドスケベデモンハンマーをくらうのは悠の方だった。


(あれ? もしかして俺、詰んだ……?)


「明石君、先に荷物をロッジに運びなさい。急いで」

「は、はい」


 悠は百合華に連れられ自分の荷物をロッジに置きに行く。

 一瞬だけ二人の視線が合った時、百合華は悠だけに分かるようニコっと笑った。

 まるで何かの合図のように。


 そう――――

 悠は大きな勘違いをしていた。

 女子五人によるお遊びのようにシゴかれる方が、よっぽどお気楽だったのだ。


 花子先生が寝ている部屋の中で、一晩中嫉妬に狂った暴走淫魔女王サキュバスロードの猛攻を、声が出せない状況のまま受け続けることになってしまうのだ。

 自分が誰のものなのか、無慈悲で容赦のない調教を骨の髄まで叩き込まれてしまうのだろう。


 恐ろしい夜が待っていた――――

 いや、その前に林間学校を忘れないで欲しい。


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