第49話 ブルマコスプレで迫る嫉妬姉
季節はゴールデンウィークに入り、明石家は姉弟水入らずのイチャイチャな毎日に突入する。
休み明けには林間学校もあり、連休中に貴美たちと準備の約束もあるのだが、今日はお互いに昂ってしまった悠と百合華が、いつにも増してイチャイチャしまくろうとしていた。
重要なことを忘れたまま――――
百合華は、先日届いたばかりのコスチュームを取り出してニンマリする。
タイトなウェアと紺色のブルマだ。
殆どがハーフパンツに代わった昨今、もはや懐かしいURアイテムに見えるかもしれないが、コスプレではいまだ健在である。
「ふふんっ、これでユウ君を、ビシバシとキッツくシゴいちゃお」
百合華がニヤニヤと嬉しそうな笑みを浮かべながら、ちょっと変なことを言い出す。
その童貞っぽい
「もう、ユウ君ってば……今日は許さないから」
百合華は、先日の女子バレー部の上級生に取り囲まれている悠を見てから、居ても立っても居られずネット通販でコスプレをポチっていたのだ。
そこはコスプレに変な拘りを持つ百合華だけあって、素材も作りも本格的で尚且つ色も紺に決めていた。
悠の部屋のエッチな漫画をこっそり分析し、弟の好みまで調べ上げた完璧なコスプレである。
シュルッ――
百合華は服を脱ぎウェアに着替えた。
ピチッとしたブルマがお尻に食い込み、学生では表す事のできない凄い色気を放出している。
そして、その恰好のまま悠の居る一階へと降りて行った。
◆ ◇ ◆
悠はリビングのソファーに寝ころびながらテレビを観ていた。
本当は姉の部屋に行って仲良く寄り添いたいのだが、自分から行くのはちょっと恥ずかしいのだ。
あと、ドアを開けた瞬間に、百合華がイケナイコトをしている場面に遭遇したら危険である。
たまに姉の部屋から悠の名を叫びながら変な声が聞こえる時があった。
子供の頃は気付かずにドアを開けて気まずい空気になっていたが、大人になった今の悠なら分かるのだ。
姉のプライバシーは尊重しなくてはならない。
ガチャ――
そこに、ドアを開け百合華がリビングに入って来た。
「ユウ君、ゆ、百合華先輩の地獄の特訓の時間だよぉ……ごにょごにょ」
ちょっと照れが残る顔で登場したものの、途中で恥ずかしくなってぐだぐだになってしまう。
「うっ、えっと…………」
悠は絶句した。
(お、お姉ちゃん……家の中でブルマとか……おバカ過ぎる……。くっ、でも……それを上回る可愛さとエロさで何も言えねぇ……)
「あ、あの……ユウ君……何か言ってよ……」
「えっと……に、似合ってるよ」
「は、恥ずかしい!」
居た
穴があったら入りたい感じだ。
「いや、恥ずかしいならしなきゃいいのに」
「だってだって、ユウ君にオシオキしたいんだもん」
ブルマコスプレでオシオキとか、考えただけで危険な感じだ。
「と、とにかく、最近のユウ君は悪い子だからオシオキなのっ! 体育館でウェア姿の上級生と遊んでたり、林間学校の班をハーレムにしちゃったり。お姉ちゃんは、ユウ君をそんな悪い子に育てたつもりはありません!」
「あれはもう既にオシオキされたような……?」
「あんなのじゃ全然足りないから! ユウ君が二度と運動部の上級生にフラフラしちゃわないように、私のブルマ姿でみっちり躾けちゃうから覚悟してよねっ!」
「ううっ、理不尽過ぎるぜ。俺のせいじゃないのに」
悠のせいじゃないのだが、悠の雰囲気が特定の女性を興奮させてしまうから、結局のところ全て悠のせいだともいえる。
「ほらほら、後輩君! 腕立て50回!」
百合華が本当にシゴキの特訓を始めてしまう。
先輩に成りきって、悠のことを『後輩』と呼ぶ本格さだ。
「もう、こうなったお姉ちゃんは、言うこと聞かないと余計に面倒になるからやるしかないのか……」
悠がしぶしぶ床にうつ伏せになり、腕立て伏せを始める。
どすっ!
「ぐえっ」
何を思ったのか、百合華が悠の背中に乗った。
「ふふっ、シゴキはこれからぞ後輩君」
「ちょっと、重いって」
「は?」
「あっ、いやその……軽いです……」
「よろしい」
悠が腕立てをしようとするが、さすがに百合華を乗せたままでは上がらない。
それどころか、背中に姉のお尻の熱を感じて、腕立てどころではなくなってしまう。
「ぐぐぐっ、上がらん……」
「だらしがないぞ、後輩君」
「だから重いっ……い、いや何でもない……」
さっきから『重い』を連発する悠に、百合華の表情がピキッっとなる。
「ユウ君、女性に重いとか言うのはダメだよ。オシオキね」
百合華が逆向きになって、背中に乗せている尻を移動させ、悠の頭の上にムチッととした尻を乗せてしまった。
もう誰が見ても変態姉だ。
「ちょ、ちょっと待て! 頭にケツを乗せるな!」
「これが地獄の特訓だぁー! 後輩君!」
他人にやられたら屈辱的過ぎて憤慨ものだが、大好きな姉にされているのだと思うと、体の底からゾクゾクとしたものが込み上げてきてしまう。
まるでヘンタイさんだ。
「もう、しょうがない後輩君だなぁ。次は腹筋50回だぞ」
「まだやるのかよ」
「夜までずっとだよ」
「マジか…………」
「ほら、さっさと特訓の続きだぞ。急いだ急いだ」
百合華が悠の体を仰向けにしようとする。
「うわっ、待て! 今は仰向けになれない理由が……」
必死に抵抗する悠だが、百合華は理由が分かっているようにニヤニヤとして、無理やりひっくり返してしまう。
「は、恥ずかしい……」
「もぉ~大人なんだからぁ」
何が大人なのかは分からないのだが、今日も百合華は絶好調だ。
「はい、先輩のお姉さんが足を持っててあげるから、さっさと腹筋を始めて」
何故か百合華が逆向きになっていて、悠の方にお尻が向いている。
このまま腹筋をしたら、姉の尻に顔が埋まってしまいそうだ。
「いや、何をさせようとしているんだ、このエロ姉は」
「だから腹筋だよ。後輩君」
もう諦めて姉のカラダに当たらないように気をつけながら腹筋を始める悠。
上半身を上げる度に、顔が姉のブルマ尻に近付いて、何とも言えない気持ちになってしまう。
(うっわぁぁっ……こ、これは危険過ぎる……お姉ちゃんのブルマ姿がエッチ過ぎるだろ! こ、これが前世代の先輩オタクたちが噂するブルマ尻か! 今日から俺も先輩の仲間入りします!)
百合華のせいで、悠に新たなフェチが増えてしまった。
「後輩君、全然上半身が上がってないぞっ! もっと上まで上げないと」
「上げれるかぁぁぁぁーっ!」
百合華先輩が悠の頭を掴んで、自分の方に引き寄せる。
「ほらほらっ、もっと上までだよ」
「うわぁぁ! 当たる、当たっちゃうから」
もう、無理やり自分の尻に当てようとしているみたいだ。
シゴキも特訓も何処かに行ってしまい、姉が暴走しているだけになってしまう。
「ふふっ、ユウ君ってば面白い」
「ダメだって、アウトだよ。それはルール違反だって!」
ガチャ!
ガタガタ――――
二人でおバカな遊びをしているところに、玄関の方から鍵を開ける音が響いてきた。
「えっ?」
「あれっ?」
突然のアクシデントに二人が固まってしまう。
どうやら親がゴールデンウィークで帰省したようだ。
「ちょちょちょっと待って。両親の帰省って明日だったはずじゃ?」
「お、お、お姉ちゃん、帰省が早まったのかも」
慌ててオロオロする二人。
悠たちは気付いていなかった。
長期連休に入り親の帰省が決まっているということは、いつ戻ってもおかしくないのだ。
親が帰るのが決まっているのに、リビングでエッチにイチャつくとかダメダメなのだ。
「どどどどど、どうしよう、ユウ君!」
「ああっ、このままでは、お姉ちゃんがドスケベでド変態なのが親バレしちゃう!」
「ドスケベでド変態なのは余計だよぉ~」
今にも家に入りそうな両親に、ブルマ姿でオロオロする姉。
姉が変態なのもバレてしまうが、義理の姉弟でエッチな遊びをしているのがバレては大問題だ。
「お姉ちゃん、俺が親を食い止めてるから、早く部屋の戻って着替えてきて」
「わ、わかった」
悠は走って玄関に向かう。
少しでも時間稼ぎをしなくては。
バタン!
両親が約一か月ぶりに実家の玄関をくぐった。
悠が玄関で出迎える。
「お、お帰り」
「やあ、悠君。元気でやってたかい?」
「悠、久しぶりね。どう? こっちの生活は問題ない?」
幹也と絵美子は、出迎えた悠に笑顔を向ける。
「はっ、はあっ……な、何も、はあっ、問題、ないよ……」
悠が息を切らせながら話していた。
「あれ? 悠君疲れてるのか?」
「悠、何かしてたの?」
やたら疲れている悠を見た両親が、怪訝な顔になった。
「き、筋トレしてたんだ」
「運動部にでも入ったのかい?」
幹也が質問した。
「いや、運動部には入ってないけど、ある先輩に筋トレを勧められて」
ある先輩とはエッチな百合華先輩なのだが、今はそれはどうでもいい。
「そうなのか。でも、若い時は運動して体を鍛えるのも良いことだよな」
「う、うん。そうだね」
幹也に話を合わせながら両親とリビングに入る。
既に百合華は二階へと移動していた。
三人でソファーに座って、北海道土産をテーブルに並べてゆく。美味しそうなホワイトチョコのお菓子だ。
ふと、幹也が悠に聞いた。
「百合華は?」
「たぶん部屋に居ると思う」
さっそくお菓子を食べながら、悠は話を合わせておく。何とか作戦は成功し、姉のドスケベさもバレなかったようだ。
そこに、着替えた百合華が戻って来た。
「お父さん、お母さん、おかえりなさい」
先程のオロオロしたのも何処へやら、完璧に身なりを整え一分の隙も無い所作でソファーに座る。
改めて悠が見ても、うっとりとしてしまいそうな美しさで。
さっきのドスケベ姉とは別人のように、高貴な気品さえ漂っている。
「百合華、ただいま。家の方は何も問題ないかい?」
幹也は百合華の方を向いて返事をした。
「私が居るのだから問題あるわけないでしょ。ユウ君の勉強も完璧なんだから。もし、ユウ君が不純異性交遊でもしようもんなら、私がビシバシとシゴき倒して鍛え直してやるわよ」
もう、どの口が言うんだと思うくらい変わり身が凄い百合華に、悠は『違う意味でシゴき倒されてたけど』と、心の中でツッコミを入れた。
「お、おい、百合華……相変わらずスパルタだな。悠君だって学園生活を伸び伸び送りたいだろうし、彼女とかも欲しい年頃だろ。程々にしてやれよ」
幹也が悠を心配してくれる。
「彼女なんて、まだ早いわよ。それに学園生活は伸び伸び送ってるし大丈夫よ」
堂々と胸を張って百合華が主張する。
(ぶっふぉぉぉぉーっ!)
お菓子を食べていた悠が噴き出しそうになる。
(お、お姉ちゃん……早く付き合いたいって言ってなかったか? 何が『彼女なんてまだ早い』だよ……)
「あなた、百合華に任せておけば大丈夫よ」
「まあ、そうだけど」
とりあえず両親が納得してしまう。それだけ百合華の説得力が凄いのだ。
悠が百合華の方を見ると、一瞬だけ目が合いニコッと微笑まれた。
大好きな姉の微笑みだけで、悠の体中に幸せ物質が満たされて行く感覚になってしまう。
もう、姉無しでは生きられない体にされてしまったかのように。
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