第48話 姉のヤバすぎる妄想と、やっぱりシゴかれる運命の悠

 夜の明石家――――

 百合華は自室でパソコンをポチポチしていた。

 画面にはコスプレの通販のサイトが映っている。

 悠の好きなコスプレで誘惑しまくる魂胆なのだ。


 ふと、検索していた百合華の手が止まる。

 制服ではなくスポーツ関係のコスチュームのコーナーだ。


「これだっ!」


 何がコレなのか分からないが、百合華が悪だくみでもしているのかもしれない。


 ――――――――




 翌朝

 気持ちよさそうに眠っている悠に忍び寄る姉の陰。

 百合華は足音を立てずに悠の部屋に入り、静かに枕元まで行き愛しい弟の顔を見つめる。


「ユウ君……」

 そう呟きながら顔を寄せる。


「とりあえず先にキスしとこ……んっ……」


 悠が目を覚ます前に一度、くちびるがそっと触れるだけの優しいキスをする。

 そして、悠が眠っているのに勝手にキスしてしまうという、イケナイことをしている背徳感で体を震わせる。


「キスしちゃった……もう一回……ちゅ……んっ」

 二回目は少し長く、くちびるを触れ合わせた。


 こ、これヤバいかも……

 クセになりそう……

 ユウ君が寝ているのに色々しちゃって、背徳感や支配欲でドキドキが止まらないよぉ~

 もっとイケナイことしたくなっちゃう。


 普段から百合華は、悠を起こす時に軽くキスをする事があったのだが、今日はタガが外れたようにやり過ぎている。

 先日の体育館用具室で上級生女子に囲まれている悠を見てから、百合華の独占欲が更に強くなってしまったようなのだ。

 もう、他の女が大切な悠を触っているのを見ただけで、心穏やかではいられなくなってしまう。

 学園内で問題を起こすわけにはいかず、家の中では思い切りイチャイチャしまくりたいのだ。


 百合華が布団を捲る。

 その視線が下の方へと移動した。

 実は、百合華は朝ピー自主規制をしたい欲望が高まっていた。

 しかし、さすがにアウト過ぎる行動は、悠との信頼関係を壊してしまいかねない。


 ユウ君……

 したい……

 もう、おもいっきり〇〇しちゃいたいよぉ

 でもでもぉ~

 そんなのしたら絶対起きちゃうだろうし、もし『そんな下品なお姉ちゃんなんか嫌い!』とか言われちゃったら、お姉ちゃんはショックで死んじゃいそうだよぉ~


 百合華がモジモジしながら悩んでいる時、実は悠は既に目を覚ましていた。

 二回目のキスで目を覚ましたのだが、タイミングを失って起きるに起きられないのだ。

 そして、姉が不審な行動をしているのを、ドキドキと心配しながら寝たふりをしていた。


 お姉ちゃん……

 何をしようとしているんだ……

 さすがにヤバいことをしようとしたら止めないと。

 てか、のんびりしていると遅刻しそうなんだけど。


「んん~っ、ユウ君の〇〇〇に朝ピー自主規制したいよぉ~」


 ぶっふぉぉぉぉ~


 姉の破廉恥発言に悠が飛び起きそうになる。

 いくらなんでもアウト過ぎる。

 悠が想像していた遥上を飛び越えていて、完全に痴女レベルだった。


 さすがにヤバい……

 変なコトする前に止めないと。

 今、どんな状況なんだ?


 姉の問題行動を心配して薄目を開ける悠――――

 チラッ……


 「あっ…………」

 「あっ…………」


 薄目を開けた悠と、キスをしようとした百合華の目がバッチリ合ってしまう。


「ちちち、違うの! お、おはようのキスだよ。変なコトしてないからね」

 必死に弁解しようとする百合華。


 朝ピー自主規制するのは諦めて、もう一度キスをしようとしたのだ。


「う、うん、良かった。未遂で……」

 つい、悠が意味深な返答をしてしまう。


「ゆゆゆ、ユウ君! 未遂って、もしかして起きてたの?」

「あっ……えっと……」


 悠が言葉に詰まり、認めたような形になってしまった。


「くぅぅぅぅ~~~~~~っ」

 耳まで真っ赤にした百合華が、両手で顔を隠して恥ずかしがってしまう。


 ――――――――




 今日も仲良く並んで朝食をとっている。

 ただ、今も百合華の火照りが冷めやなぬ状態で、照れまくって弁解していた。


「ユウ君、お、大人の男女は普通にやってるんだよ。ほんとだよ」

「ソウダネー」

「ほ、ほらっ、あれも愛し合う男女の営みというかぁ」

「ダヨネー」

「ふ、普通だよ。私が変じゃないんだよ」

「デスヨネー」

「もうっ、ユウ君! 何で棒読みなのっ!」


 いつも攻められっぱなしの悠が、ちょっとだけ反撃していた。


「ふぅんだっ、ユウ君がイジワルしてると、もうお姉ちゃん構ってあげないから」

 百合華が拗ねてしまった。


「えっ、あの……ごめん」


 急に悠がオロオロし出す。

 お姉ちゃん大好き過ぎて、あまり怒らせてしまうと困るのだ。


「お姉ちゃん、機嫌直してよ」

「つーん」


 百合華がそっぽを向いてしまい、悠が更にオロオロする。

 いつの間にか立場が逆転していた。


「ど、どうしよう……」


「ふふっ、うっそぉ~」


 悠がションボリしてしまったところで、ドッキリだとネタばらしをする。

 完全に百合華に手懐けられているようだ。

 やっぱり最強の姉だった。


「もう、ビックリさせないでよ」

「ふふふっ、ユウ君ってば、すっごい慌ててたよ」

「お姉ちゃんに嫌われちゃったらショックで死んじゃうよ……」

「もぉ、お姉ちゃんがユウ君を嫌うわけないでしょ」

「お姉ちゃん」

「ユウ君」

「お姉ちゃん」

「ユウ君」


「んっ……ちゅっ」

 見つめ合い名前を呼び会ってから、熱い視線を交わしてキスをする。


 もう、とても他人には見せられないような恥ずかしい新婚さんごっこのようなプレイを朝っぱらからやっている二人だった。

 そんなこんなで、今日も学校に遅刻しそうになってしまう。


 ――――――――




「皆さん、来月は林間学校を開催しますよー」

 担任の花子が高らかに宣言する。


「これは入学間もない皆さんが、新たに仲間となったクラスメイトと友好を深める目的で行っております。これを機会に友達100人作っちゃいましょう」


 がやがやがやがや――――


「あれ、もうちょっと盛り上がりましょうよ……」


 花子先生のハイテンションな話がすべりつつ、生徒達は次に始まる班決めの話題でいっぱいになってしまう。

 この班決めが問題で、人数が合わなかったりあぶれてしまったりで揉めるのが常だ。


 悠は不安になっていた。


 くっ、不安だ……

 この『グループを作ってください』ってのが苦手なんだよな。

 あぶれたらどうすればいいんだ。

 お姉ちゃんの弟だったり、コミュ力高い中将さんのおかげで、なんとか学園デビューは失敗しなかったけど、いざこういうイベントでは失敗する可能性が高いんだよな。

 何処か入れそうな班はないものか?


 副担任の百合華が詳細を説明する。

「現地では班ごとの行動になります。班は男女三人ずつ六人を基本に組んでください。その中で係を決める事になります。では、始めてください」


 皆が一斉に動き出す。

 これは厳しい生存競争の縮図なのだ。


 

 悠も緊張気味に、ちょっと仲の良い男子に声をかけてみる。

「あの、一緒に組まないか?」


「あっ、わりぃ明石。もう三人決まってるんだよ」

「そ、そうなのか……」


 くっそ……

 あぶれたじゃないか……


 悠は、いきなり失敗した。


 周囲を見回すと、男子は大体三人グループを作っているようだ。

 女子は、まだモメていた。


 この三人組が問題なのだ。

 仲の良い四人グループだと一人あぶれ、二人グループだと組めなくなる。


 まさにリアルはないちもんめなのだ。

 古くから伝わる童謡の『はないちもんめ』は、一人あぶれてしまう遊びだけでなく、実は恐ろしい意味があったりするのだ――――



 しょぼーん……

 悠がヘコんでいると、真理亜が声をかけてきた。

 彼女もあぶれていた。


「おい、明石。なに一人でヘコんでんだよ。ウケるわ」

「いや、ウケないし……」

「しゃーねーな、あたしが組んでやんよ」


 ガシッ!

 真理亜が悠の首に腕を回す。

「おまえのドーテーを守らねえとならねーしな」

「ど、ど、ドーテーとか言うなよ……てか、近いよ」


 アタリがキツいようでいて、少しだけ優しさが見て取れた。

 わざとふざけて元気づけようとしているようにも見える。


「あ、あの、明石君……」

 そこに、葵が気まずそうに話しかけてきた。


「あれ、六条さん」

 悠が意外そうな顔をする。

 中学の頃から学園のアイドルである葵は、男子から引っ張りだこでどの班でも入れると思っていたのだ。


「ぷっ、おまっ、ボッチかよ」

 決して言ってはいけない事を、真理亜が言ってしまう。


 グザッ!

「ち、違います……そ、そういうわけでは……」


 実は、男子に大人気の葵なのだが、ちょっとモテるのを鼻にかけていたり、高飛車だったりして女子には不人気だった。

 毎回のように貴美に絡んできていたのは、他の女子には絡みにくい事情があったりして、構ってくれる貴美にばかり声をかけるという理由だったのだ。

 女子のグループからあぶれ、男子にばかり誘われまくって困ってしまい、無害そうな悠のところに来てしまう。


 こうして変則的な悠の三人グループが出来たのだが、これでは六人の班が組めそうにない。



「悠、あんた何やってんのよ」

 後ろから貴美が睨んでいる。


 女子にも人気のある貴美は、早々に女子三人組を作り、悠の入ったグループと班を作ろうと狙っていたのだ。

 しかし、他の男子グループからのお誘いを断り続けていたのに、肝心の悠があぶれていて組めない状況だった。


「中将さん、これには訳が……」

「あんたがしっかりしてないと班決めできないでしょ!」


 悠と一緒の班になるのは当然とばかりに貴美が迫る。


「もぉ、貴美ったら明石君のこと好き過ぎでしょ」

「いっつも明石君に構ってばかりよね」

 貴美の友人が呆れている。


「はあ? 違うし! 好きとかじゃないし! 私は悠を世話してるだけだっての!」

 貴美が、いつもよりムキになって否定する。


「悠も誤解しないでよね。す、好きなんかじゃないんだから」

「うん、分かってるって」

「はあ? なんかムカつく!」

「ええっ……」


 何故か貴美に怒られた――――


 こうして、男一人に女五人というハーレムのような班を作ってしまう。



「えっと……これはマズいような……」

 花子が困惑している。


「先生、人数合わなかったんだからしょうがないでしょ」

 貴美が説得してくれている。


「そ、そうですよね。合わなかったのならしょうがないですよね」


 花子が納得するが、クラスの男子から嫉妬や羨望の眼差しが痛い。

 クラスの可愛い子を独占しているようで申し訳ない気持ちになる。


「何で、こんな事に…………」

 悠が溜め息を吐く。

 林間学校でも女子にシゴかれそうな勢いだ。


「ふふっ、悠ってば、この前も女バレの先輩に囲まれてたし、きっとそういう運命なのよ」

 とりあえず悠と一緒の班になれてニコニコしながら貴美が絡んでくる。



 これには副担任の百合華も黙っていられない。


「明石君、後で説教がありますから」

 予想通り百合華の威圧感が増す。


 やっぱり、そういう運命なのだ。

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