第46話 恋の予感と、弟が心配で見守る過保護姉
明石家の朝は『おはようのチュウ』で始まる。
別々に寝ている時は、『ユウ君、朝だよ』のキスで悠が起こされ、添い寝している時は、『ユウ君、んっ!』と百合華がせがんで悠がキスをする。
こんなにキスしまくってる姉弟は、世界中でもこの二人だけかもしれない。
もう、キスが挨拶の欧米人も真っ青だ。
今日は添い寝の日なので、悠が『おはようのチュウ』をするシチュエーションだった。
「うんんっ~ユウ君おはよぉ……んっ」
百合華が口を尖らせてキスのおねだりをする。
悠は寝起きの姉に顔を近づける。
この姉ときたら、寝起きのノーメイクでも美しいのだから困るのだ。
ボサボサに乱れた髪も可愛く、顔に垂れ下がる髪をかき上げる仕草一つとってみても、ドキリとするほど色っぽい。
何故かパジャマまで乱れていて、胸の谷間が強調され艶やかで張りがある肌が見えてしまう。
毎朝のように刺激的でドキドキな一日の始まりだった。
「お姉ちゃん……んっ、ちゅ……」
「んんっ……ちゅ……」
いつもなら軽いキスで離れるのだが、今日は百合華が離れようとしない。
そのまま悠の方へ倒れ込んでもたれ掛る。
「んあっ~ん……ユウくぅ~ん……」
「えっ、どうしたの?」
「んっちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅっ、ぺろぺろ、ちゅちゅっ……」
「うっわ、朝から何やってんの!」
悠の首筋から鎖骨付近にキスの嵐が始まる。たまにぺろぺろを入れつつ。
「ちょっと、今日も学校でしょ。はい、起きるよ」
エロ姉を離し悠が立ち上がる。
「んっんん~ケチぃ~もうちょっと良いじゃん。朝チュウだけなんだから。ほんとは朝
百合華がアウトっぽいことを言う。
音としてはピーではなく〇〇な気もするが。
「そんなエロい起こし方は、エッチなビデオだけだって! おまわりさーん、この人です」
たまに出る百合華の下ネタが問題発言過ぎる。
最近では、悠も慣れてきて切り返せるのだ。
「ヘイッ、ポリスメーン!」
「くっそ……いつまで俺の黒歴史を言い続けるんだこの姉は」
今日は切り返しに失敗した。
◆ ◇ ◆
目が覚めたら二人で朝食をとる。
テーブルは広いのに、いつも並んで食べるのだ。
今日は、いつもより密着しているのだが――
「お姉ちゃん、何か近くない?」
「ん、普通だよ……」
悠は思った。
昨日の女子に挟まれていた件を気にしているのだと。
「お、お姉ちゃん……き、昨日のあれは何でもないんだよ」
悠は恐る恐る話してみた。
「ん? あれって何かな?」
「だから、あれだよ……中将さんと夕霧さんに挟まれて……」
「あっ、ユウ君が同級生女子のおっぱいに挟まれてたあれかぁ」
「ギクッ!」
(やっぱり……あれで嫉妬して昨日からずっとくっついてるんだな……。ちょっと嫉妬が激しくて子供っぽい気もするけど、そういうお姉ちゃんも可愛いんだよな)
つい悠は噴き出してしまう。
「ぷっ、ふふっ」
「ちょっと、ユウ君! 何で笑ってるの?」
姉にくっつかれて、更に嬉しくて笑ってしまうのだが、百合華の方は拗ねているようだ。
「もうっ、ユウ君がそうやってイジワルばかりするなら、お姉ちゃんもイジワルしちゃうから」
むしろ毎日エッチなイジワルしているのは百合華のような気がするが、そこはオシオキに見えてご褒美なので黙っていた。
「イジワルって、どんなの?」
「う~ん、そうだなぁ……あっ、同僚の先生と二人で飲みに行っちゃうとか?」
「ぐっはぁぁぁぁ!」
悠は予想を遥に超える大ダメージを受けた。
「ダメダメダメダメダメ、ダメぇぇぇぇ! ののの、飲みになんて、絶対ダメっ! 男が飲みに誘うなんて、エロい目的に決まってるだろ! 何もしないとか言って、必ずエッチにちちくり合おうとしたり、ちゅっちゅしちゃったり、アレが〇〇してあんなコトやこんなコトをしちゃうんだよ!」
どこぞの誰かと同じようなことを言っている。やっぱり似た者同士だった。
悠も百合華と同じように嫉妬しまくりだ。
漫画のNTRならまだしも、
「もう、冗談だよ。私が他の男と遊びに行くわけないでしょ」
「だ、だよね……もう、心配させないでよ」
「ふふっ、ユウ君ってお姉ちゃんのコト好き過ぎでしょ~」
ちょっとイタズラな目をした百合華が、悠の顔を覗き込んでくる。
完全にからかわれていた。
こんな恋心を揺さぶられたら、もっと好きになってしまいそうだ。
「ねぇ、ユウ君……お姉ちゃんは、いつでもOKだからね」
百合華が凄まじい色気を放出して可愛くつぶやく。
こんなに毎日イチャイチャしまくっているのに、二人はまだ付き合っていないのだ。
悠さえ首を縦に振るだけで、
そう、心もカラダも深く繋がり合うような――――
それでも悠は、耐え続けていた。
「お姉ちゃん……もう少し待って。また進路も決まってないし」
「んもぉ、ユウ君は真面目すぎだよぉ~」
「お姉ちゃんがエッチ過ぎなんだよ」
やっぱり姉がエッチ過ぎだった。
「それより、早く支度しないと学校に遅刻しちゃうよ」
「ああっ、もうこんな時間。ユウ君のイジワルぅ」
百合華が慌てて身支度を始める。
女性は色々と時間がかかるのだ。
急いで服を脱ぎ散らかす。
「ここで裸になるなぁーっ!」
わざと悠に見せつける為に、下着姿になるエロ姉。意味深な流し目をして誘っているような表情までする。
悠は、朝から色々と興奮で大変なことになってしまった。
(くっ……何処がとは言わないが、朝からあそこが大変だぜ! これ、ホントに我慢し続けられるのか……? もう我慢も限界で一線を超えちゃいそうなんだけど……)
そして、先に百合華が出勤する。
悠も百合華も仲良く一緒に登校したいのだが、それでは皆に怪しまれてしまう。
仕方なく別々に登校していた。
◆ ◇ ◆
悠が教室に入り席に着くと、また真理亜が寄ってきた。
「よお、明石」
「あっ、おはよう夕霧さん」
「えっと、あの、そ、そうだ、良い朝だな」
「へっ?」
真理亜の様子がおかしくて、悠が『?』になってしまう。
いつもの強引でアタリがキツい感じが無い。
真理亜は緊張していた。
(くっそ! あたし何やってんだよ。こんな童貞っぽい明石に緊張してんのか……。昨日こいつが変なコト言うからだ。調子狂うな……)
何かを言いたそうにしている真理亜だが、結局何も言わずモジモジしただけだった。
「ま、また後でな」
「うん……」
真理亜は、それだけ言うと自分の席に戻ってしまう。
いつものようにイジられると思っていた悠は拍子抜けしてしまった。
自分の席で頭を抱える真理亜は自問自答していた。
(あいつ……まるで自分のコトのように怒ってくれて……良いヤツだよな……。今まであたしが付き合った男は、チャラいのばっかで……。浮気されたり遊びだったり……。あいつ……真面目そうだし。あたしも、あいつと付き合えば大切にしてもらえるのかな……)
考えれば考えるほど乙女回路にプラグインされてしまう真理亜だ。
悠の自覚が全く無いまま、まるでギャルゲーの個別ルートに入りそうになっていた。
ふと、真理亜が視線を上げると、悠が葵と話をしているのが見えた。
(あれは六条……あいつ……六条とも仲が良いのかよ……。くっそ…………)
笑顔で葵と話す悠を見つめて、真理亜の胸がチクリと痛んだ。
◆ ◇ ◆
悠は廊下を一人で歩く真理亜を見つけ、元気が無いのを心配して声をかけた。
「夕霧さん」
「は? な、何だよ明石」
突然声をかけられ動揺する真理亜。
「いや、何だか今日は元気が無い気がして……もしかして、昨日の先輩の悪口が」
「ち、ちげーよ! そんなんいつものコトだし。明石が一生童貞だったらどうすっかって考えてたんだよ!」
真理亜がとんでもないことを言い出した。
「ええ……っ、俺の童貞が、そんな重要事項なのか」
「なあ、そ、その……もし明石が良かったらだけど、あたしが筆おろしさせてやろうか?」
更に真理亜が、とんでもないことを言い出した。
「ええっ!」
「てか、もう付き合っちゃうか?」
「いや、それは……」
「ははっ、冗談だよ。あたしみたいなヤリ〇ンじゃ、おまえもイヤだよな……」
悠の反応を見て、真理亜が悲しそうな顔をする。
「違う、違うから! そんな自分を卑下するようなことは言わないでよ」
「えっ……」
「夕霧さんには夕霧さんの良さがあるんだから。そんな『自分なんか』みたいなことを言わないでくれ。俺も……昔は人を羨んでばかりで、劣等感があって……でも、ある人に出会って、自分に自信を持てるようになったり、自分は不幸じゃないって思えるようになったんだ。だから、夕霧さんも自分を卑下したり自暴自棄になっちゃダメだ。きっといつか夕霧さんにだって大事な人ができるはずだから」
悠が一気に語りだして、真理亜が固まってしまう。
「明石……おまえ、良いヤツだな。あと、ちょっとキモいかも」
「うっ、何気にヒドい……」
「いや、わりいわりい。好きなんだろ、そいつのコト」
「えっ!」
「聞いてりゃ分かるって。その人のコトを話してた時、目が好きって童貞っぽい感じになってたぞ」
「ううっ……今のは内緒にしてくれ」
悠が勢い余って百合華との出会いを話してしまう。まあ、名前は出してないから分からないだろうが。
「まあ、おまえは、その人とやるまで童貞大事にしろよ」
「おいっ、童貞イジリは勘弁してくれ……」
真理亜は少し寂しい気持ちになった。
(はあ……しょうがねえか……そんな目をされちゃあ、諦めるしかねぇだろ……)
こうして真理亜の恋は人知れず終わった。
大部分の人の片思いは、同じように叶わず終わるものなのかもしれない。
それだけに、お互いが運命とも呼べる出会いは奇跡のような確率なのだろう。
そして、次の日から再び真理亜の悠に対するアタリがキツくなった。
やっぱり悠はヤンチャな女子に好まれるのかもしれない。
ただ、最初は怖いと思っていた真理亜のことを、意外と良い人なのかもと悠は思い始めていた。
百合華先生だけは、明らかに悠に好意を持っていそうな真理亜の態度に、嫉妬や焦燥感を募らせてムズムズしまうのだが。
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