第44話 テレビで嫉妬深い女は失敗すると聞いて、急に激甘になるお姉ちゃん

 テレビ番組で恋愛心理学のバラエティが始まる。

 ゴールデンタイムに人気芸人を司会に、各界の専門家の解説を交え恋愛のアレコレを解説する内容だ。


『恋愛心理研究しちゃうよTV! 恋愛に於いて失敗してしまう人、第三位は嫉妬深い人です』


 恋愛心理学者の中野坂先生が解説する。

『あまり嫉妬深い女性だと、男性は逃げ出してしまうものなんです』


 グサッ!

 悠と並んでテレビを観ている百合華の心に刺さる。


『特に、他の女性と会話しただけとか電話やメールが来ただけで怒っている人は危険です!』


 グサグサグサッ!

 図星だった。


『彼氏がカラオケに行ったとか怒っているのは最悪ですね。誰しも息抜きは必要ですから。そんな女性だと彼氏さんは友人と遊びにも行けず、確実に破局です』


 グッサズババババァァァァ!!

 クリティカルヒットした。


 因みに第二位が重い女で、第一位が束縛が酷い女だった。

 百合華は連続クリティカルヒットしてHPがレッドゾーンに突入してしまう。



「はははっ、面白かった。特に司会の目黒野イワシ師匠のトークが……って、お姉ちゃん。どうかしたの?」


 悠に抱きついてテレビを観ていたはずの百合華が、青い顔をして固まっている。


「えっ、あっ、な、何でもない何でもないよ……」

 明らかに百合華が挙動不審だ。


 そう、百合華はテレビ番組の恋愛で失敗する女が自分に当てはまると知り大ショックなのだ。


 どうしよぉぉぉぉーっ!

 あの地雷女って全部私だぁぁぁぁ!

 もし、ユウ君に嫌われちゃったら……



 百合華が大いに悩んでいる頃、当の悠は大好きな姉と一緒でふわふわ幸せな気持ちだった。

 テレビを観て笑っていたのだが、特集の『恋愛に於いて失敗してしまう地雷女』というのが、全く百合華に当てはまっているとは思っていないのだ。

 百合華が大好き過ぎて、嫉妬深かったり愛が重かったり束縛が激しかったりするのを欠点だと思っていなかった。

 むしろ、『お姉ちゃんに欠点なんてあるの?』くらいの気持ちだ。


「ねえ、ユウ君。お姉ちゃんが肩揉んであげようか?」

 急に優しく弟を労わろうとする百合華。


「えっ、特に肩こってないけど?」

「いいからいいから。お姉ちゃんに任せてっ」


 さっきまで嫉妬でグイグイ攻めていたり、おあずけくらってプンスカ怒っていた姉が、まるで天使になったように優しく労わってくれる。

 いつもの攻め攻めな悪魔姉は息をひそめ、今は回復魔法ヒールをかけてくれる天使姉だ。


 もみもみもみもみもみもみもみ――――


「どう? 気持ち良い?」

 百合華が優しく笑いかける。


「うん、気持ち良いよ。でも、どうしたの急に?」

「な、何でもないよ。ユウ君には、いつもお世話になってるから、たまには癒してあげたいだけなんだよ」


 天使のような姉の手で体をほぐされ、心も体も癒されるようだ。


「はい、次は耳かきもしてあげるね。横になって」


 百合華は、ムチムチの太ももをポンポンして、膝枕で横になるように勧める。


「ひ、膝枕だと! ごくりっ……」

 悠は、男の夢と呼ばれる膝枕に歓喜する。


 うおぉぉぉぉぉぉっ!

 膝枕だ!

 夢の膝枕だ!


 悠は、膝枕が大好きだった。

 むしろ、膝枕が好きじゃない男なんているのだろうか?


 芸術品のように美しい百合華の脚に、悠がゆっくりと顔を乗せる。

 ムチッとして張りがありスベスベで最高の気持ちよさだ。


「うへぇぇ~気持ちええ~最高だよ~」

 蕩け気味になった悠が自然に声を出してしまう。


「うふふっ、ユウ君が喜んでくれるのなら、お姉ちゃん何でもしてあげるよ」

 百合華も嬉しそうに、悠の頭をナデナデする。


 耳かきをされながら優しく頭を撫でられ、蕩けてしまいそうな気持でふにゃ~っとなる。

 もう、天国のような心地よさだ。

 ふと上に視線を上げると、大きなおっぱいで姉の顔が少し隠れていた。


 す、凄い……

 おおお、おっぱいが……

 この角度から見るおっぱいは、凄い迫力と美しさだ。

 ううっ、下乳最高ぉぉぉぉぉぉ!



「はい、じゃあ逆になってね」

「うん」


 百合華にうながされ顔を逆向きにする。

 今度は百合華のお腹に顔が当たるような恰好になり、これまた最高の眺めだ。

 柔らかな太ももと柔らかなお腹に密着して、悠は至福の時を過ごしていた。


 うわぁぁぁ……

 お姉ちゃんのお腹、良い匂いがする……

 これは本当に天国だ……


 悠は、つい手を姉のお尻にぴとっと付けてしまう。

 余りの気持ちよさに手が勝手に動いてしまったのだ。


「もぉ~ ユウ君、エッチなのはダメだよぉ」

「ばぶぅ」


 悠が少し幼児退行してしまう――――


 くっ……

 しまった、あまりの甘やかしに変な声を出してしまったぞ……

 昨今では年下キャラのバブみが通例とされているようだが、やはり俺はお姉ちゃんの包まれるような柔らかさが……

 このままだと、ダメになってしまいそうだぁ~


 とにかく悠は、お姉ちゃんが大好きだった。

 お姉ちゃんさえいれば他に何もいらないのだ。


「ふふっ、ユウ君ってば、甘えん坊さんなんだからぁ」


 甘える悠に刺激されて、百合華が更にとろとろに蕩けてしまいそうになる。

 悠に甘えられるのが大好きなのだ。

 相性ピッタリだった。


 すりすりすり――

 調子に乗った悠が、姉のお尻をすりすりする。


「あぁっん、ユウくぅ~ん、くすぐったいよぉ~」


 くすぐったくてモジモジした百合華が前屈みになる。

 上から降りてくる姉の上半身に、悠の頭が挟まれてしまった。


 悠の顔の左側にはムチムチの太ももが、顔の前には柔らかなお腹が、顔の右側にはプニプニのおっぱいが。

 そして、そのままサンドイッチされて、完全に百合華の肉体に包まれてしまう。


「んんっ、ぐにゅ~ぅ…………」

 百合華のカラダに包まれた悠が変な声をあげる。


 あああっ……

 これ、最高だぁぁぁぁぁぁぁ~

 もうこのまま窒息しても良いかも……


 このままでは、悠の死因が『姉の肉体に埋もれて窒息死』になってしまう。


「っ……………………」


 悠が静かになる――――


「あれ? ユウ君? ユウ君、ユウ君、ユウ――――」


 姉の美しく清らかで心地良い声を聞きながら、悠は楽園へと旅立って……行きそうになった。




「ユウ君! しっかりして!」


「んんっん……? あ、あれ? ここは……天国かな?」

 安らかな寝顔の悠が目を覚ます。


「ユウ君! 良かった! 急に静かになっちゃって心配したんだからっ!」

 上から心配そうな顔の百合華が覗き込んでいる。


 どうやら、余りの気持ちよさにリアルに昇天しそうになった悠を、ぎゅうぎゅう抱きしめ過ぎてしまった百合華が心配しているようだ。

 お互いを想う強さが尋常ではなく、危うく事件に発展してしまいそうになる。

 バカップルも行き過ぎると危険なのだ。


「ユウ君……心配させないでよ……ユウ君に何かあったら私……」

「お姉ちゃん……ごめんね」


 今にも泣き出しそうな百合華と、優しく肩を抱いた悠の顔が近付き、そのままくちびるとくちびるを合わせる。


「ちゅっ……んっ……」


 名残惜しそうな百合華がくちびるを離すと、悠の体を強く抱きしめて離さなくなった。

 もう誰にも渡さないように、誰にも触らせないように、完全に自分だけのものにするかのように。


 先程のテレビ番組で特集していたように、百合華は誰よりも愛が重く嫉妬や束縛も激しいのだ。

 気をつけようと思ってはみても、やっぱり悠への執着が凄すぎて嫉妬や束縛をやめられない。

 もう、どうしようもない感情なのだ。


「お、お姉ちゃん? どうかしたの?」

 抱きついたまま離れない姉を心配して、悠が声をかけた。


「ゆ、ユウ君……私のこと……嫌いにならない……?」

「は? 俺が、お姉ちゃんを嫌いになるわけないだろ」

「ほんと?」

「本当だって」

「でも、さっきのテレビで…………」


 ――――――――




「ぷっ、ふっ……はははっ」

 百合華の話を聞いて、悠が笑い出してしまう。


「もうっ! 何で笑うの!? 私は真剣に悩んでるのに」

「だって、ふふっ、お姉ちゃん……ははっ、面白い」

「もおぉぉぉぉ~ユウ君! 笑わないでっ!」


 悠は、笑いながらも嬉しかった。

 嫌われるのではないかと真剣に悩む姉の姿が可愛すぎて。


「ふっ、ふひっ……」

「もうっ! ユウ君、失礼だよ!」


「ごめんごめん。お姉ちゃんは、そのままで良いよ。嫉妬が凄いのも可愛いし。たまに怖い時もあるけど」

「むうぅぅぅぅ~」

「重いのも束縛するのも、お姉ちゃんらしくて良いよ。そういうのも含めて大好きなんだから」

「うっ……ず、ずるいよ……」


 悠に大好きと言われて、百合華はもう何も言えなくなってしまう。

 大好きという魔法のような言葉だけで、ふわふわと気持ちが幸せになってしまうのだから。



「じゃあじゃあ~ ユウ君! お姉ちゃんはこのままで良いんだよね?」

「うん」

「よかった……じゃあオシオキの続きだねっ」

「は?」


 復活した百合華が、悠を部屋に連れ込もうとする。

 今夜は一晩中オシオキをしようと企んでいた。


「ちょっ、待てよ……」

「だめぇぇ~待たないよ」


 悠は気付いていなかった。

 百合華の嫉妬にお墨付きを与えてしまったのだと。


「ユウ君、女子とカラオケに行ったんだよね? もう他の子に興味が出ないように、徹底的にオシオキして厳しく躾けまぁ~す」


「くっ、何だかよく分からないが、しくじった気がするぜ……」


 そのまま百合華のベッドに直行し、長い夜が始まろうとしていた。

 この後、滅茶苦茶オシオキされまくった。

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