第42話 お互いに大好きな想いで固い絆は揺らがないけど、やっぱりオシオキしたい悪魔姉

 玄関の扉が開いて音がしたことで、悠は百合華の帰宅を知った。姉の帰宅を今か今かと待っていた悠の緊張が、一気に高まる。


 今までも百合華の独占欲や嫉妬深さには驚かされてきたのだ。

 悠を取られてしまったと誤解して、友人を叩いてしまったり。悠が同級生とデートしたと勘違いして大泣きしてしまったり。


 迫りくる嫉妬姉に、悠は戦々恐々とした気持ちで待ち構えていた。


(うっ……怖えぇ……。お姉ちゃん、いきなり泣き出したりはしないよな? 昨日も末摘先生に抱きつかれて怒らせたばかりだし……。と、とにかく、好きなのはお姉ちゃんだけだと伝えて、安心させるしかないのか)



 ガチャ――――


 リビングの扉が開き、百合華が入ってきた。


「お姉ちゃ――」

「ユウくぅぅぅぅぅぅ~ん!」

「ぐはっ! そうきたかっ!」


 百合華のタックルのような抱きつきをくらい、予想を外した悠が慌てる。

 全身全霊をかけたような百合華の必死な抱きつきで、胸やら何やらが密着して凄いことになっているのだ。


「く、くるし……」

「ユウ君! ユウ君! ユウ君! そんなに若い子とキスしたいの? お姉ちゃんが毎日してるでしょ! まだ足りないの?」


 上に乗られてギュウギュウと抱きつかれる。


「お姉ちゃん、聞いてよ! あれは夕霧さんの勘違いだから」


 百合華を安心させようと、悠は強く抱きしめ返した。


「ユウ君……」

「何度も言ってるでしょ。俺はお姉ちゃんが大好きなの。他の子には興味が無いから」


 はっきりと姉が大好きだと伝える悠。

 他の子は好きにならないと。


「ホントに? どこにも行かない?」

「うん、ずっとお姉ちゃんの側にいるよ」

「良かった…………」


 百合華が安心した顔になり、悠をギュッと優しく抱きしめる。

 どうやら誤解はとけたようだ。


「はあぁ~心配したよ。昔みたいにお姉ちゃんが大泣きしちゃうかと思った」


 悠は、昔の姉がギャン泣きして母親に怒られたのを思い出す。


「も、もうっ! ユウ君のイジワルぅ。お姉ちゃんだって大人になったんだから。そんな昔のこと忘れてよぉ」


 百合華は口を尖らせて拗ねた表情になった。


 昔のように片思いかもしれないという不安は無い。今は、お互いに大好きな気持ちで繋がっているのだ。

 この絆は他の女のちょっかいくらいで壊れるはずがない――――



「じゃ、行こっか?」

「へっ? 何処に?」


 何だかよくわからないまま、悠は百合華に手を引かれて連れて行かれる。

 そのまま百合華の部屋に入り、ベッドに押し倒された。


「ん? あれっ?」


 カシャ! カシャ!


 無慈悲にも悠の両手に玩具の手錠がかけられ、バンザイした形にベッドの柱に固定されてしまった。


「はい、これで動けないよね。絶対服従だよっ!」


 ニコニコとした笑顔のまま、姉がとんでもないことを言い出した。


「あの……これは一体?」

「オシオキに決まってるでしょ」

「ん………………?」


 一件落着かと思いきや、百合華はオシオキする気満々だ。


「えっと、ここは誤解がとけて、よりお互いの絆が強くなるシーンじゃないのか?」


 悠が思っていたのと違った。


「うん、ユウ君の気持ちは凄く嬉しいよ。それに……ユウ君が、お姉ちゃん大好きなのも知ってるし。こっそりお姉ちゃんの下着を嗅ごうとしてるのとかも……」


「うわぁぁぁぁぁぁぁーっ! 嗅いでないから! 何で知ってんだ!」


 百合華は、わざと悠の目につく場所に下着を放置し、エッチなコトしないかワクワクしながらこっそり監視しているのだ。

 毎回、悠は『くんかくんか』の強烈な誘惑に駆られ、ギリギリのラインで我慢していた。

 そんな、下着を手に取りそうで取らない悠を、ドキドキして眺めてはイケナイ気持ちになっている百合華なのだ。


「それが分かってるなら、何でオシオキなんだよ。こんなにも、お姉ちゃんが大好きなのに」


 もう、狂おしいほどに姉が大好きなのがバレているのだ。

 百合華の身に着けた物なら、何でも宝物にしてしまいたいくらいに。


「そんなの私がオシオキしたいからに決まってるじゃん。てへっ!」


 ちょっと舌を出し可愛いポーズをキメる百合華。


「『てへっ!』っじゃねーっ! 清々しいほどにドスケベな姉だなっ!」


「それに、ユウ君が溜まってると、やっぱり心配だし。キッチリピー自主規制っておかないと」


(ユウ君……ユウ君のことは信じてるよ。でも、他の子がユウ君を狙ってるんだもん。やっぱりキッツい調教で、私にしかなびかないように躾けないとね)


 もう完全にアウト姉になっていた。


「それはダメだって! ルール違反だよ。一線を越えてるだろ。親が居なくなった途端にエッチしちゃったら、両親に顔向けできないぞ!」


 もう、悠の真面目さだけが最後の砦になっていた。


「もうっ、しょうがないなぁ。手加減してあげるから」


 何が手加減なのかよく分からないが、百合華は悠の上に『よいしょっ』と乗っかる。

 しかも、いつもと違い向きが逆になって、お尻が顔の方に向いているのだ。


「うっわっ! ケツが! 近いっ! 見えちゃう!」


 仕事帰りのスーツのまま乗っかり、短めのスカートがせり上がり下着が見えそうだ。

 一日中履き続けた黒パンストの脚が顔の横にきて挟まれてしまう。

 甘い匂いと少しの汗の臭いが混ざり合い、夢のように心地良い香りになって漂ってくる。

 目の前に姉のムチッとした大きなお尻が迫り、もうそれだけで限界突破しそうだ。


「ああっ、もう負けちゃいそうだ……マジでこんなの耐えられない……」


 悠が陥落寸前になって、弱音を吐いてしまう。それこそが百合華の作戦だった。


 これぞ百合華が編み出した究極の攻めなのだ。


 お尻フェチの悠を極限まで昂らせる、目の前にお尻チラリズム攻撃。

 タイツ脚フェチの悠を限界まで追い込む、ちょっと蒸れたタイツ脚で挟んじゃう攻撃。

 太ももフェチの悠を超興奮させる、ムッチリ太ももで跨いじゃう攻撃。

 ちょっと受けっぽい悠を攻めまくる、手錠で動けなくしちゃって絶対服従攻撃。

 姉のコスプレ大好きな悠にサービスしちゃう、コスプレじゃなく本物リアルなレディーススーツの女教師だよ攻撃。


 これら全ての混合攻撃という、夢のようなサービス……じゃない、オシオキなのだ。


 百合華に対する真剣な想いと神聖な誓いを持っている悠だから耐えているのであって、普通の男だったら1秒で堕ちているはずだ。


 そして、まだ攻撃はこれだけではなかった。

 百合華は必殺アイテムの羽箒はねぼうきを取り出す。

 これでコチョコチョしまくって、更に悪魔のような周到さで追い込むつもりだ。

 やっぱり悪魔姉だった。



 そのまま完全勝利かと思われたのだが、さっきから百合華がしきりにスカートのすそを気にしている。


「ゆ、ユウ君……あんまり見ないで……」


 真っ赤な顔で百合華がつぶやく。


 せり上がったスカートを直そうとするのだが、足を開いているので更に上がってしまう。必死に直そうとすればするほど、パンツが丸見えになりそうだ。


 お尻が悠の顔の近くにあるので、このままでは大事なところをじっくりたっぷり見られてしまうだろう。

 百合華自身も昂ってしまっていて、今見られると超絶マズいのだ。


「見ちゃダメ……恥ずかしいから……」

「お姉ちゃんにも羞恥心があったのか……」

「もうっ、ユウ君っ! 私を何だと思ってるの!」


 悠が冷静にツッコみを入れるが、悠もそれどころではない。

 羞恥心でモジモジしながら尻をプリプリさせ、必死にスカートを直す仕草が、余計にエロくてたまらないのだ。

 計算によるエロと無意識なエロの相乗効果で、もう仕草も手つきも何もかもがエロ過ぎる。


 そんな自爆気味の百合華だが、もうスカートを直すのを諦めたのか、片手で大事なところを隠しながら、もう一方の手で羽箒を使い攻撃を始めた。


「攻撃かいしぃぃーっ! こちょこちょこちょこちょ~」

「ぐっはぁぁぁぁぁぁーっ!」


 容赦のない悪魔姉の攻撃が始まった。

 そして、それは何故かある場所に集中している。


「ほおらっ、こちょこちょこちょ~」

「うぐっ、やめれぇぇぇぇぇぇ――――」


 悠が限界突破しそうな頃、百合華も危険水域に入っていた。


(ユウ君! ユウ君! ユウ君! ユウ君! ああっ、私だけのユウ君! 誰にも渡さない! 誰にも…………)


「はあっ、はあっ、はあっ、きゃあっ!」


 興奮し過ぎてバランスを崩した百合華が倒れそうになる。


 ふにょ!

 そのまま悠の上に――――


「あっ………………」

「ふがっ、もがっ、んんんっ~~~~」


 ガバッ!

「ご、ごめん! ユウ君、大丈夫?」


 すぐに悠から降りて百合華が謝る。


「あ、あの、お姉ちゃん……」

「い、言わなくていいから」


 何か言おうとした悠を制して、百合華は悠の手錠を外してくれた。

 太ももをスリスリと擦り合わせてモジモジしている。


「えへへ……な、なんかゴメンね」

「う、うん……」


 二人とも冷静になってみると、とんでもなく恥ずかしいことをしていたのを自覚して黙ってしまう。

 もう、変態バカップルさんだ。



「お姉ちゃん、スーツがシワになっちゃうから着替えた方が……」

「そ、そうだね……お風呂入ろうかな」

「うん」


 二人一緒に一階に下りる。

 百合華は悠の腕を取り絡ませて、大好きアピールをしているみたいだ。

 何故かそのまま悠は脱衣所に連れ込まれてしまった。


「えっと……お姉ちゃん?」

「ゆ、ユウ君……洗いっ子しよっか?」


 一度は恥ずかしさで大人しくなったとかと思った姉だが、実は余計にムラムラが高まっているようにも見える。


「だ、だって、しょうがないじゃない。ユウ君が他の子と仲良くして、お姉ちゃんにイジワルするのが悪いんだよ。もうちょっと姉に対する労わりとかご奉仕とか必要なんじゃないのかな? そ、そうそう、最近はスキンシップが足りないと思うんだよね」


 太ももをスリスリ、カラダをもじもじさせ、百合華は弟のサービスを要求する。


「ええっ……毎日スキンシップしまくってる気がするけど」

「全然足りないよぉ~」


 まだまだ嫉妬とウズウズが抑えられない百合華が、悠のご奉仕とスキンシップを要求する、

 悠は、暴走気味な姉をたしなめ一線を超えないように乗り切れるのだろうか?


 色々とアウト姉になりそうな百合華を、愛ゆえに健全であろうとする気持ちと、もう愛のままに溺れてしまいたい気持ちとで、いっぱいいっぱいになっている悠が揺れている。

 もうこのまま押し倒して、滅茶苦茶にしてしまいたいほどに大好きな気持ちが溢れ出して。


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