第40話 姉も花子も大暴走!

 気持ちよさそうに眠る花子のすぐ近くで、悠は百合華に抱きつかれていた。

 一日中動いて匂い立つ百合華の香りに、悠の鼓動が急速に高まる。

 このまま思い切り抱きしめたい気分になってしまうのだ。


「ねえ、ユウ君……イケナイコトしちゃおっか……」


 百合華が悪魔の囁きをする。


 三月末で両親は札幌に移住し、この家には二人きりになった。

 これまでずっと悠は耐え続けてきたのだ。

 親が居なくなった途端にエッチをしてしまうのでは、一人前の男になるまで我慢すると誓ったのが嘘になる。


 しかも、今は目の前にクラス担任が寝ているのだ。

 こんな状況でエッチなことをして、もし花子が目覚めてしまったら百合華の立場も危うくなってしまうだろう。


 当然、悠は断った。


「ダメだよ……お姉ちゃん」

「ええぇ~チョットだけだよぉ~」

「俺は絶対にお姉ちゃんを裏切らないし、お姉ちゃんだけを見てるから」

「そんな嬉しいコト言われると、余計にしたくなっちゃうよぉ……」


 百合華が更に胸を押し付ける。


「くっ、悪魔姉の誘惑に負けてはいけない……」

「誰が悪魔よっ! もうっ……」


 しぶしぶ百合華は体を離した。


 百合華も危険なのは十分承知しているのだ。だが、もし悠がその気になったら、花子の目の前で禁断エッチをしてしまったのかもしれない。



「まったく、しょうがないお姉ちゃんだな。俺は先生の布団を用意しとくから、お姉ちゃんは風呂にでも入っててよ」


 ちょっと呆れた顔の悠が立ち上がった。

 弟が我慢しているというのに、姉の方がプンスカ怒りながら服を脱ぎ散らかすのだが。


「もうっ、このムラムラをどうすれば良いのよっ!」

「ここで服を脱ぐなぁ~!」


 悠の文句も空しく、百合華が下着姿になってしまう。

 わざと見せつけるように超絶魅惑的な肢体をくねらせ、足をソファーに上げて黒パンストを脱ぐと、丸めて悠に向けて投げつけた。


「じゃあ、お風呂行ってくるね」


 服を脱ぎ肌の露出が増えたことで、百合華のフェロモンが激増する。

 恥ずかしがる悠をチラチラ意味深に見てから、百合華は部屋を出て行った。



 悠の手には百合華の脱ぎたて黒パンストが握られている。

 姉が投げつけたパンストをキャッチしたのだ。


 まだ温かいそれは、一日中履き続け蒸れていた。特につま先辺りは濃厚な姉臭で熟成されているのは予想できた。


 悠はパンストを見つめたまま固まってしまう。


(ううっ……お姉ちゃんの魅惑の黒タイツ脚が……。一日中履き続けてムレムレの……。こ、これを……くんかくんかしたら、どんな匂いがするんだ……)


 グッ!

 悠はパンストを握っている手を遠ざけた。


(だ、ダメだ! そんな変態なことしたら戻れなくなる! ああっ、でも嗅ぎたい! 濃縮されたお姉ちゃんの匂いがっ!)


 ふと気配に気づいた悠が視線を上げると、ドアの隙間から百合華がニマニマした顔で覗いていた。

 風呂に行くと見せかけて、こっそり悠の行動を見ていたのだ。


 かあぁぁぁぁ――――

 悠の顔が一瞬で赤くなる。


「ちょっと! なに覗いてんの!」

「むふふ~っ、ユウ君、それあげようか?」


 何に使うのか分かっているような顔で百合華が呟く。


「もう、早く風呂に入れ。あと、これも洗濯機に入れといてよ」


 パンストを百合華に押し付けて風呂場まで押して行く。


「はいはい、冗談だよぉ」

「冗談じゃねー!」



 浴室からシャワーの音が聞こえ、悠はホッと胸をなでおろした。

 あのまま姉の視線に気付かなかったらどうなっていたのか……? 悠は自分が怖くなってしまう。

 もう、姉のものなら何でも欲しくなってしまいそうだ。


(お姉ちゃん……覗いてたってことは、俺が匂いを嗅ぐと思ってたのか? あの感じだと『くんかくんか』したら怒ったり軽蔑するどころか、逆に面白がって余計に嗅がせてきそうな気がする。 むしろ、お姉ちゃんが変態過ぎるぜ!)


 まだ微かに残る姉のパンストの感触が悠を狂わせる。


(うっわぁぁぁぁ! あんなアブノーマルなのダメだぁぁ!)


 恥ずかしくなって顔を手で隠したが、手に残っていた姉の匂いで余計に恥ずかしくなった。


「とりあえず落ち着こう。先生の布団を用意しないと」


 悠は、客用布団を用意しに行った。




 ソファーに寝ている花子に、悠はそっと布団を掛けてあげた。

 これではどちらが先生か分からない。


「入学式当日に担任が家で寝ているとか、どんな状況だよ!」


 まるで子守りする親のように布団を首まで掛けてあげていると、寝ていたはずの花子が薄目を開けた。


「あぅんんっ……ショータくぅ~ん」


 花子が悠をショータという推しキャラと勘違いしているようだ。


「えっ、ええっ、ショータって誰だよ?」


 悠が当然の反応をする。


 花子ビジョン――――


(ああっ、ショータ君……次元の壁を超越して会いに来てくれたんだ……。はうぅ~っ! 私のショータくぅ~ん!)

 

 少年の倒錯~煉獄編~

 初心うぶで女性慣れしていないショータに心惹かれた花子は、やがて少年のカルマを受け入れ身も心も堕とされて行くのだった――――


「しょ、しょ、ショータ君! ぺろぺろぉぉぉぉーっ!」

「うっわぁぁぁぁ! 離せぇぇぇぇ!」


 酔っているのか寝ぼけているのか、悠は暴走した花子に抱きつかれる。


「ぺろぺろぺろ――――」

「だ、大迷惑だぁぁぁぁ!」


 必死に抑え込む悠の背後に凄まじい威圧感が迫る。


「ユウ君、何をしているの…………」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


 風呂から出た百合華が、まるで漫画の擬音を背にしたように立っていた。


「あっ、これヤバいやつだ……」


 悠は悟りの境地になって説教を受け入れる準備をした。



 ◆ ◇ ◆



「しゅみません……」


 花子が、これ以上ないくらい申し訳なさそうな顔をしている。

 凄い迫力で仁王立ちする百合華の前に、悠と花子が二人して正座していた。


「末摘先生、うちの悠に手を出すなんて……」


 百合華がマジギレ一歩手前だ。


「ち、ち、違うんです。寝ぼけていただけで。わざとじゃないんです。信じて下さい女王」


 花子が必死で頭を下げる。何度も。


「教師が生徒に手を出したら大問題ですよ。あと、女王じゃなく師匠です」


 百合華が自分のことは棚に上げて正論を言った。


「師匠は受け入れたんだ」

 悠がツッコんだ。


「ユウ君は黙ってて!」

「はい……」


 悠は大人しく口を閉じた。


「し、師匠、どうか通報だけはご勘弁を。こんなの知れたら事案発生で『女性教師が非実在青少年の名前を叫びながら、生徒をペロペロする問題事案発生』って一斉メールが送信されちゃいましゅ!」


 花子の必死のセリフが、どこぞの誰かと似ていて、悠は笑いが込み上げてしまう。


「ぷふっ!」

「ユウ君、笑わない!」

「はい……」



 こってり厳重注意され、二人は開放された。


 二次元だけだと固く決めていた花子だが、リアルユウ君に手を出してしまい、反省しきりだ。


「先生、誰だって間違いはあるのだから、これから気をつければ良いですよ。気にしないで」


 悠が元気づけようと話しかけた。


「明石君は優しいですね。好きになっちゃいそうです」

「末摘先生!」

「はひっ!」


 懲りているのかいないのか、花子がアウトっぽいセリフを言い出し百合華に注意される。

 やはり花子の悠を見る目が少し妖しくなっているようだ。


「あと、ユウ君! 無意識に口説かない!」

「ええっ……はい……」


 とりあえず夜も更けてきたので、花子をリビングで寝かせて悠と百合華は二階に上がった。




 百合華は改めて悠に近付く女は要注意だと思う。


(全く……やっぱり末摘先生は要注意だった……。それもこれも、ユウ君が可愛すぎなのが原因なんだよね。やっぱりユウ君を色々搾り取って、他の女のとこに行かないようにしないとダメなのかな?)


 やっぱりアウトな百合華だ。人のことは言えない。



「じゃあ、お姉ちゃん。おやすみ……」

「うん、おやすみ~」

「って、何で付いて来るの?」


 百合華が、そのまま悠の部屋に入ってしまう。


「だってだってぇ~ユウ君と添い寝したいんだもん」


 さっきと言っていることが正反対だ。

 教師が生徒に手を出したら云々は何処に行ったのやら。


「でも、一階には先生が……」

「先生に聞こえちゃいそうでドキドキするねっ」

「あっ、これもう言っても聞かないやつだ……」


 悠は諦めて姉と一緒に横になる。

 ベッドに入ると、百合華がギュッと強く抱きしめてきた。


「ユウ君、ユウ君、ユウ君……大好き。超大好き。誰にも渡さない……誰にも……」


 悠を強く強く抱きしめ、何度も呟く――――

 大切な悠を、もう誰にも触らせないと主張するように。


「お姉ちゃん……ちょっと苦しい……」


 強く両手で抱きしめ両足まで絡めて、悠は全く身動きができない。

 他の女に抱きつかれた嫉妬で、百合華の独占欲が爆発しているのだろう。


 そのまま朝までキツく抱きしめたままかと思いきや、少ししたら開放してくれ並んで寝ることになった。

 心地良い姉の匂いに包まれ、悠は深い眠りに落ちて行くのだ。




「ユウ君、寝ちゃった……?」


 しばらくして悠が静かに寝息を立て始めたのを確認すると、寝たふりをしていた百合華が体を起こす。


「ユウ君、ちょっと手を借りるね」


 そう言うと、悠の手を自分の方に持っていった。

 愛おしい眼差しで最愛の悠を見つめながら、ごそごそと何やら動いている。


 この後、百合華は滅茶苦茶イケナイことをしまくった。


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