第34話 愛の生活と、同級生に嫉妬するお姉ちゃん

 柔らかな日差しが射し込む朝――――

 今日も今日とてエロ姉が布団に潜りこんでいるのだ。

 あれから姉は頻繁に夜這いするようになり、悠は毎晩のようにドキドキでギリギリな日々を過ごしていた。


「んんぅ~ん、ユウくぅ~ん……むにゃ」

「お姉ちゃん! は、早く起きて。親にバレちゃう」


 ムッチリとした胸を押し当て、芸術品のように美しい曲線を描く脚を絡ませる。

 朝から限界突破しそうな悠を知ってか知らずか、全く攻撃を緩める気は無いらしい。


「あんっ、ユウ君、おはよ~すりすり~」

「うっわぁ~だ、だからバレちゃうって!」

「まだ大丈夫だよぉ」

「大丈夫じゃねぇーっ!」


 わざと弟の羞恥心や背徳感を煽り、バレるのではないかという心配で心を揺さぶる。

 まるで吊り橋効果のような心理を使い、どこまでも追い込んで行くのだ。

 悠は完全に百合華に翻弄され愛の奴隷状態だった。


「んっ」


 百合華が顔を向けくちびるを突き出す。

 朝チュウを要求する合図だ。


「ちゅっ……んんっ」


 おはようのキスをして一日が始まる。

 百合華はベッドを出ると、自分の部屋に戻って行くのだ。


「ユウ君、また後でイチャイチャしようねっ!」

 パタン――――



 ベッドに一人残された悠が頭を抱える。


「うっわぁぁぁぁ! どうしたらいいんだぁ!」


 毎日のように焦らされまくって、あり得ないほどの魅惑的なエチエチ攻撃を受け続けているのだ。

 溜まりに溜まった欲望をイケナイコトして解消しようにも、いつエロ姉が部屋に突撃してくるか分からずやる暇がない。


 姉が在宅時にしようものなら、きっとエロの波動を感知して『ユウ君の一人エッチはっけ~ん!』とか言って乱入するかもしれないのだ。

 悠は、なかなかピー自主規制ができず、大好きな姉を想いながら悶々とした日々を送るしかない。

 完全に姉の術中にはまっていた。


 百合華としては、とことん追い込んで我慢の限界にさせ、悠から手を出すように仕向け既成事実を狙っているのだ。

 しかし、ここまで攻めても我慢を続ける健気で真面目な弟に、もう胸が張り裂けそうなほどキュンキュンしてしまっていた。

 その健気さが、よりドSお姉ちゃんな部分を刺激するのだが。


 一人でイケナイコトをするのを防いで、射〇管理まで企むという恐ろしさ。


 もう、完全にアウト姉だ。

 アウトオブアウトなのだ。


 これだけちょっとヒドいこともされているのに、悠は姉を嫌いになるどころか更に大好きになっていた。

 もう、愛ゆえのせるわざだろう。



 ◆ ◇ ◆



 一階に降りた二人は、家族一緒に朝食となる。

 両親が席に着いたところで、何故か百合華は冷蔵庫を覗きに行くのだが。


「お姉ちゃん何してるの?」

「あっ、ちょうど良かった。ユウ君、これ取ってよ」


 悠が屈んで百合華に近付いた瞬間。

 両親から陰になっている死角を使い、一瞬の隙を突いて悠のくちびるを奪う。


「はむっ、ちゅっ♡」

「んんっ……」


「あったあった。ユウ君ありがとね」


 何食わぬ顔をして姉は食卓に戻って行く。


 その場に残された悠の方は、恥ずかしいやら嬉しいやらで固まってしまうのだが。


(くうぅぅぅぅ~お姉ちゃん……頼むから親の前でだけはやめてくれ……。こんなの心臓が止まりそうになるぜ……)


 顔が赤くなったのを誤魔化す為、悠は手を顔にかざし、わざと中二病な感じで戻るのだ。


「くっ、鬼神王電撃旋風拳デモニックライトニングストライク! 吹けよ旋風! 轟け雷神の一閃!」


 絵美子の眉がピクピクする。


「あなた、悠がアニメばかり観て影響されてるのだけど……」

「まあ、アニメは最近の子は皆観てるし、これくらいの時期は影響されるのは普通だから大丈夫だよ」


 悠の中二病を心配する絵美子だが、幹也は理解のある父親だった。


 ニマニマ――――


 両親が話し合っている隙に、百合華が悠を見つめてニマニマと意味深な笑顔をする。

 そんな百合華に、悠は更に惚れてしまうのだ。


(くっ……こんなに毎日攻められているのに、お姉ちゃんが大好き過ぎて困っちゃうぜ。むしろ、どんどん好きになっているような……。お姉ちゃん、本当に悪魔の力でも持っているのか……)


 可視化できそうなほどの色気を撒き散らす姉は、やっぱりサキュバスのような魔力を持っているのかもしれない。



 ◆ ◇ ◆



 教室に入り席に着いた悠は、何かそれっぽいポーズで両手を組み、『ふっ、運命さだめか……』みたいな雰囲気を出す。

 さっそく面白いモノを見つけたような顔をした貴美が近寄って来た。


「悠、なに変なポーズしてんのよ」

「あっ、中将さん。おはよう」

「なになに? なんかあったの?」


 悠に興味津々だ。


「い、いや、特に何も……」


(マズい……お姉ちゃんと毎日キスしまくってますなんて言えないよな……。くっ……大人の階段上っちゃってるぜとか言いたいけど、姉とエッチなことしてますなんて絶対言えないし。相手が姉だとバレたら大変なことになってしまう)


「ねえっ、何か最近変じゃない? 教えてよ」

「本当に何でもないから」

「もったいぶってんじゃないわよ。さっきは、如何にも聞いて欲しいって顔してたのに」


 悠は、『最高に可愛いお姉ちゃんとキスしちゃってんだぜ!』とか自慢したいのに、絶対に言えない為に複雑な心境なのだ。

 ドーテーに違いは無いのだが、ちょっとだけ大人なんだぜと言いたいだけなのだ。


「どうせ、エッチな本がお姉さんにバレちゃったとかでしょ?」

「ぐはっ!」

「あっ、図星なんだ」


 実際に本棚をチェックされていて、エッチな本は姉が確認済みだった。

 姉萌えや年上お姉さんモノばかりなので安心なのだが、これが同級生モノや年下モノを集めたら、姉の嫉妬が爆発して禁書にされてしまいそうだ。

 姉系エロ本を入れておくだけで平和は守られるのだ。


「さ、最近は姉が荒ぶっていて、恐ろしいことになっているんだよ」

「あんたが悪さばかりするからでしょ」

「いや、俺は普通なんだが、最近お姉ちゃんがプロレスや総合格闘技に目覚めて、激しい締め技や関節技を俺で試そうとするんだよ」

「ぷっ、ええっ、なによそれ。小学生みたい」


 貴美が笑い出してしまう。

 プロレスごっこといえば小学生姉弟みたいなのだが、実際にやっているのはエッチな大人のプロレスごっこである。

 くんずほくれつスベスベでムチムチな姉のカラダで密着されたり、最高にエロティックな脚でオシオキされるご褒美だった。


「ねえ、また悠の家に遊びに行っても良い? お姉さんにも勉強教わりたいし」


「ダメダメダメダメ! ダメだって。最近お姉ちゃんの機嫌が悪いから、連れて行ったら後が怖いんだよ」


 普段は機嫌がとても良いのだが、女子を連れて行ったら一気に機嫌が悪くなりそうだ。

 最近は特に嫉妬深くなって、他の女性をチラ見しただけでオシオキされていた。

 触らぬ神の荒魂あらみたまお姉ちゃんに祟りなしだ。


「まっ、しょうがないか。悠のお姉さん怖そうだし」


 姉が怖いことにして何とか乗り切った。



 ◆ ◇ ◆



 悠は学校の帰りに買い物で街に出ていた。何故か貴美も一緒に付いてきたのだが。

 まるでデートだ。

 こんな場面を姉に見られたら、確実にオシオキ確定だろう。


「中将さんは、何か買い物なの?」

「ん? べつに。あんたをからかうと面白いから付いてきてんだけど」

「くっ……」


(どうして俺の周りには、こういう女子ばかりなんだ……)


 悠が思うように、実際、何故かイジってくる年上女性や小生意気系女子に絡まれてしまうのだ。

 人畜無害そうな弟系オーラを出しまくり、見るからに初心うぶな雰囲気童貞な悠が原因なのだが。

 まさに運命さだめだった。


 そんな悠に危機が迫っていた。



「ねえ、これって、あんたに似合いそうね」


 店のパーティーグッズ売り場にあったネコミミを見つけた貴美が、手に取って悠の頭に付けようとする。


「ちょっと、恥ずかしいって」

「いいじゃん。付けてよ。あんたはネコっていうより犬っぽいけどさ」

「くっ、俺って犬っぽいのか」

「あんたをペットにして私が飼ってあげようか?」


 ちょっとだけ貴美の顔がマジになっている。本当に悠をペットしたいと思っているのかもしれない。

 嗜虐心しぎゃくしんの強そうな貴美の目がキラッキラだ。


「ほらほら、ワンって言いなさいよ。ふふふっ」

「ううっ、犬扱いはやめてくれ~」

「あははっ、悠ったら面白い」

「近い! 近いって!」


 カタッ!

「悠、何をしているのかしら?」


 傍から見るとイチャイチャする同級生のように見えている二人に、後ろから冷徹でドSっぽい声がかかる。


 もう説明するまでも無く、賢者枠と呼ばれるエッチな短時間枠アニメに登場する、ドSな鬼畜女看守キャラのようになった百合華だった。


 後ろを向いた悠が恐怖で固まった。


「あ、あの……お姉ちゃん」

「あっ、お姉さん。こんにちは」


 悠がビビりまくる横で、貴美は普通に挨拶をする。


「あら、中将さん。こんにちは」

「はい、お久しぶりです。お姉さん」


 貴美の『お姉さん』という言葉に、百合華の眉がピキッとなる。


 百合華を羨望の眼差しで見つめる貴美は、憧れのお姉さんといった意味なのだ。しかし、百合華には悠と付き合っている彼女からの言葉のように聞こえてしまう。


「中将さんって、悠と仲が良いのね」

「はい、仲良くさせてもらってます」


 貴美が屈託のない笑顔で話す。

 普段はツンツンしているようでいて、実は悠と仲良くなりたいのだろう。


 ますます不機嫌そうなオーラを出している姉に、悠は後のことを考えると足がすくむ気持ちになった。


(うわぁ……中将さん……何でいつもはアタリがキツいのに、急に仲良しアピールなんかするんだぁぁぁぁ! お姉ちゃんが誤解しているぅぅぅぅ!)


 百合華は悠の方を向くと、厳しい顔になって話し始めた。


「悠、遊ぶのも良いけど勉強がおろそかになってしまってはダメでしょ。あっという間に受験の時期もやって来るのよ」


「う、うん……」


「最近の悠は、少したるんでいるようね。帰ったら厳しい躾けが必要みたい」


 ゾクゾクゾクッ――――


 冷徹なドS鬼畜女看守キャラのような表情の姉に睨まれて、まるで蛇に睨まれた蛙のように委縮する悠。

 しかし内心は、毎晩のように刻まれたエチエチ調教により、帰ってからのキッツいオシオキを期待して震えてしまう。


(くうっ~ドSっぽい雰囲気のお姉ちゃんも最高だぜ!)


 結局、お姉ちゃんは何でも最高だった。



 先に帰る姉を見つめたまま固まる悠に、貴美がニヤニヤしながら肩を小突く。


「やーい、怒られてやんの。後でコッテリ躾けられちゃいなさいよね」

「くっそ……だから怖いって言ったのに」


 恐怖と期待でドキドキしながら家路を急ぐ悠。

 当然この後、滅茶苦茶オシオキされた――――


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