第31話 大好きな気持ちもあそこも全て姉にバレてしまう

 静まり返った家の廊下を、足音を立てず歩く影が一つ。悠は風呂場へと忍び足で向かっているのだ。


 あれから、悠も百合華もグネグネと身悶えを続けていた。しかし、親の携帯と連絡もつき無事なのが確認されてからは、お互い恥ずかしさを誤魔化すよう部屋にこもり静かにしていた。


 そして今、こっそり風呂に入る為、悠は一階へと向かっているのだ。


(ふうっ、恥ずかしくてお姉ちゃんの顔が見れないぞ。どうしよう……)


 親の安否が分からない不安から泣き出した百合華を勇気づけようと、想いが爆発し勢い余ってプロポーズしてしまったのだ。

 責任が持てるようになるまで告白しないと誓っていたのに、思わぬアクシデントにより告白とプロポーズを同時にしてしまうことになる。


 今、悠は非常に姉と顔を合わせづらい気持ちだった。


(まさか、『俺は百合華の彼氏だ!』とか『俺の女に手を出すな!』発言からの『ずっと側にいて永遠に守り続けるから!』とか『絶対に、お姉ちゃんを幸せにしてやる!』とか『お姉ちゃんが大好きだからっ!!!!』とか……)


 思い出しただけで顔が熱くなる。


(ああああ! もう大好きとか言っちゃってるし……いや、大好きなんだけど。てか、大好き過ぎるよ! 大好き過ぎておかしくなりそうだよ!)


 キシッ、キシッ――


 音を立てずに浴室まで来て、そっと脱衣所への扉を開ける。


 ササァァァァァァ――――


「きゃっ!」

「うわっ!」


 そっと扉を開けると、そこには大好きな姉が立っていた。お互いにビックリし声を上げる。


「えっ、ええっ、お、お姉ちゃん?」

「ゆゆゆ、ユウ君?」


 かあぁぁぁぁぁぁ――――

 恥ずかしさで、お互い真っ赤になった。


 悠は、先刻のプロポーズを鮮明に思い出す。


(お、お姉ちゃん……マズい、思い出してしまう……大好きとか言っちゃったし……。まて、返事を聞いてないよな? もしかして、俺の片思いだったら? うわぁぁぁぁぁ! 気になる!)


 百合華は、先刻のプロポーズを鮮明に思い出す。


(ユウ君……ダメっ、思い出しちゃう……大好きって言ってたよね……絶対、言ってたよね……。私の片思いじゃなかったんだ。もう我慢しなくても良いのかな? うわぁぁぁぁぁ! どうしよぉおお!)



 二人はお互いの顔をチラチラとうかがっていたが、同時に口を開いた。


「お姉ちゃん」

「ユウ君」

「えっと」

「あっ、ゆ、ユウ君からどうぞ」

「お、お姉ちゃん……どうしたの?」

「えっ、あの、お風呂とか色々あって……」


 お互い考えていることは同じだった。恥ずかしくて顔を合わせづらいから、こっそりと入浴しようとしていたのだろう。


「じゃあ、お姉ちゃん、先に入ってよ」

「あっ、ユウ君が先で良いよ。私は洗濯をしてるから」


 百合華は昼間プレイしたナース服コスを指差す。確かに、このまま放置して親に見つかると怪しまれてしまうだろう。


 悠としては、母親にコス衣装がバレた時は、『お姉ちゃんは部屋でこっそり一人コスプレするのが趣味だから内緒にしてあげて』と、生あたたかい目で見守るように伝えるつもりだったのだが。


「えっと、お姉ちゃんが先で良いよ」

「ユウ君が先に入りなよ」

「…………」


 悠は警戒していた。

 先に入ると、興奮したエロ姉が乱入してくるのではないかと。

 ただ、後から入っても乱入してくる可能性があるので意味は無いのだが。


「ははは……」

「えへへ……」


(いや、まさかな……いくらエッチなお姉ちゃんでも、もう子供じゃない俺の風呂に突撃したりしないよな……)


 悠は気付いていなかった――――

 その、まさかをやってしまうのが百合華だということに。


「じゃ、じゃあ、先に入ろうかな」

「うん、お姉ちゃんは部屋に戻ってるね」



 脱衣所で一人になった悠が、洗濯しようと広げた姉のナースコスと下着を、チラチラと気にしながら服を脱ぎ始める。

 やっぱり『くんかくんか』の衝動が沸き起こるが、もし姉にバレて『ユウ君サイテー』とか言われたら立ち直れないのでやめた。



 ジャアアアアアアアア――


 悠がシャワーを浴びていると、脱衣所でカタカタと音がしたのに気付いた。姉が洗濯をしているのだろう。


「ユウ君」

「えっ、な、何?」


 突然ドア越しに話しかけられて、悠は超動揺する。


「さっきの事なんだけど……」

「あっ、その……良かったね二人とも無事で」

「うん」


 少し沈黙になる――


「あの……ユウ君、私のことを……」


 百合華が核心に迫ろうとした。


「えっと……ユウ君は……と、とりあえず入って良い? ここだと話しづらいし」

「だ、だ、ダメに決まってるだろ!」

「入るね」


 ガチャ!


「うっわぁ! 何で入ってくんの!」


 本当に百合華が入って来てしまった。

 いくら鉄壁の防御を誇る悠の貞操でも、全ての防具を外した風呂場では防御力を発揮できないだろう。

 すっぽんぽんでは、簡単に百合華の侵攻を受けてしまいそうだ。


 悠は両手で顔を隠す。


 子供の頃に一緒に入った時はチラ見していたのに、今の方が完全に目を隠していた。

 今、姉の裸を見てしまったら、絶対に我慢できないと思うからだ。


「見ても大丈夫だよ。水着だし」

「へっ?」

「部屋から水着を持ってきたの。ユウ君と話がしたくて」


 悠が恐る恐る目を開ける。

 そこには、まるで女神のように美しい水着姿の姉が立っていた。


 全体的に布面積が小さいビキニタイプの水着で、トライアングルタイプのトップスからは、こぼれそうな巨乳が谷間を際立たせ、張り艶が素晴らしい下乳や横乳が見えている。


 ボトムスは何故かローライズになっていて、下腹が完全に露出していてセクシー過ぎだ。

 ウエストがキュッと細い為に、ムッチリした尻と露出した下腹がエッチな事この上ない。


 ヒップラインは強調され、微妙に水着が尻に食い込んでいて、お尻フェチの悠には刺激的でたまらない気持ちになってしまう。


「ぐっはっ! 凄い破壊力だ!」

「えっ、ええっ~これならセーフだよねっ」


 ※セーフです


「全然セーフじゃねぇぇぇぇーっ!」


 水着と聞いて安心したのも束の間、恐ろしく攻撃力の高い水着姿で驚愕する。

 こんな超破壊力の姉の水着は、ギリシャ神話に於いてヘクトールの必殺の槍を防いだとされる、アイアスの無敵の七枚盾でも防ぎきれないだろう。


「も、もうっ、ユウ君ってばエッチなんだから。エッチなのはダメだよ」

「エッチなのは、お姉ちゃんの水着だよ」


 エッチなのは水着ではなく、百合華の魅惑のボディなのだ。

 超魅力的で超官能的な水着姿に、悠は漫画のように鼻血を噴きそうな感覚になった。


「ほらっ、背中洗ってあげるね」


 百合華がボディソープを手に取ると、手のひらで軽く泡立ててから悠の背中へ伸ばした。相変わらず手で洗うようだ。


「ちょ、待て……くぅ」

「いいからいいからぁ」


 細く綺麗な百合華の指先が悠の背中を滑る。

 ヌルヌルと背中を洗いながら、たまに前の方へと滑り込んでしまうのはご愛敬だ。


 超破壊力の水着姿とエッチな手つきの洗体攻撃で、悠の防御力は完全にそぎ落とされ抵抗不可能になってしまった。



(あああ……お父さん、お母さん……ごめんなさい……。もう、俺は背徳的な禁断の世界に足を踏み入れちゃいそうです。親に隠れて姉とエッチをしちゃいそうです。もう……ダメかも…………)


 悠が限界寸前になっているのを知ってか知らずか、百合華は手を止めてカラダを寄せてくる。

 そのまま抱きつくと、顔を耳元に寄せて囁いた。


「ユウ君、ありがとう……」

「えっ?」

「嬉しかった……」


 ギュッ!

 両腕を首から前に回して完全に抱きしめる形になった。


「私が泣いていた時、ユウ君は、私を永遠に守るって言ってくれたよね。ずっと側にいるって。幸せにするって」


「う……うん……」


「嬉しかったよ。ユウ君が、凄く私のことを想っていてくれているんだって。凄く大切にしてくれているんだって。気持ちがいっぱい伝わってきたから」


 百合華はそう言って、悠を抱きしめる腕をギュッとする。もう離さないと言わんばかりに。


「ナンパ男から守ってくれたのも嬉しかったよ。もう、ユウ君は小さな弟じゃなく、私を守ってくれる一人前の男だよね」

「お姉ちゃん……」


 悠は報われたと思った。

 憧れている姉に、一人前だと認めて貰えたのだと。

 それは、どんな財宝にも勝る栄誉なのだと。

 神聖Holy百合華lily騎士団Knightsなどと勝手に神聖視していたが、大好きな姉に認められることこそ最高の栄誉なのだ。



「そういえば……ユウ君、お姉ちゃん大好きって言ってたよね?」

「ギクッ!」

「ふ~ん、そんなにお姉ちゃんのコト大好きだったんだぁ~」

「っ~~~~~~」

「ねえねえ、もう一度言ってよぉ~お姉ちゃん大好きなのぉ?」


 前に回した手で悠の胸板をヌリヌリする。


「ほらぁ、もう一回言ってよぉ~言ってくれないと、すっごいコトしちゃうぞぉ~」


 ヌリヌリしている手が下に降りてくる。


「い、言います! お姉ちゃん大好き! 大好きだよ! 世界で一番大好きだよ! お姉ちゃぁぁぁぁーん!」

「くっうっ、あうっ、あふぁぁ……っ」


 大好きだと言われて、攻めていたはずの百合華が陥落する。

 大好きな悠からの『大好き』という言葉で、全身に幸せ物質が満ち溢れてヘブン状態なのだ。


「ゆ、ゆ、ユウ君……わ、私も大好きだよ。ユウ君が大好きっ!」

「………………」

「あ、あれ?」

「………………」



 ◆ ◇ ◆



 風呂場から運ばれた悠は、リビングのソファーに寝かされていた。余りの興奮で失神して伸びてしまったのだ。


 今は百合華にうちわで扇いでもらっている。


「ユウ君、大丈夫……?」

「う、うん。ちょっと興奮し過ぎて……」

「もうっ、心配したんだから。急にぐったりしちゃうし」


(お姉ちゃん……確か……記憶が飛ぶ直前に……お姉ちゃんが、私も大好きって言っていたような……。あれ、夢だったのかな……? どっちなんだろ……)


 甘く蕩けるような想いに浸っていた悠だが、冷静に考えて大問題だったと気付く。


(いや、ちょっと待て! 風呂場で裸で倒れたってことは……もしかして、全部見られたとか?)


「お姉ちゃん……」

「あっ、そのっ、ゆ、ユウ君って、けっこう凄いんだね。大人だねっ……」

「うっわぁぁぁぁーっ! やっぱ見られてるし!」


 全部見られていた。

 もう、大好きな気持ちもあそこも、全て姉に知られてしまった。

 さすがに恥ずかし過ぎる。


「じゃあ、ユウ君……寝よっか?」

「へっ…………」


 百合華に引っ張られて部屋へと連れ込まれそうになる悠。ピンチは続く。


 この混沌と甘美と背徳と幸福を混濁こんだくしたような長い一日は、いまだ淫靡いんびと純真の夜を残し続くのだった。

 もはや全てを曝け出した悠を待ち受けるのは、荒ぶるエロ姉の合体か聖なる安らぎの抱擁ほうようなのか。

 完全にスイッチが入ってしまったエロ姉を止める術はあるのかは誰も知らない。


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