第22話 不純異性交遊は許しません! ユウ君の貞操は絶対死守!

 貴美と葵は当初の威勢も何処へやら、完全に百合華の雰囲気に呑まれて静かになってしまう。

 そのまま大人しく悠の部屋に移動し、三人になったところで急に会話が始まった。


「ちょっと、悠! お姉さんって怖そうな人だね。何だか先生みたい」


 真っ先に貴美がツッコむ。


「うっ……そ、そうかな? 教師志望だからかな……?」

「あっ、やっぱり先生になるんだ」


 姉が何をしでかすのか分からないので、下手なことは言えず困ってしまう。

 何となく話を合わせておいた。


 一方、葵はまだ茫然としていた。


「お、おっぱいが……」


 美少女の口から『おっぱい』という言葉が出てくる。

 プライドの高い葵が、初めて敗北を知ったのかもしれない。

 面倒くさいことになりそうなので、悠はそっとしておいてあげた。



 コンコン!

「悠、入るわよ」


 ガチャ――


 百合華がお茶を持ってきた。

 悠の予想通りだ。絶対に何か関係を聞き出そうとするはずだと思っていた。


 案の定、百合華はテーブルにお茶を置いてから、悠の交友関係の聴取に取り掛かる。


「ねえ、貴女たち、悠とはどういう関係なのかしら?」


 さり気なく質問しながらも、百合華は二人の顔と名前をしっかりチェックしていた。


(この子、前にワックでユウ君と一緒だった子だよね……要注意人物だよ! あと、こっちの子は葵って言ってたから、何度も電話を掛けてきた子だ……。こっちも要注意人物だよ!)


 貴美と葵が要注意人物認定されてしまった。


「えっ、あの……と、友達です」


 貴美は、何と答えたらいいのか迷いながら『友達』と答えた。

 その初々しい反応が、逆に友達以上を狙っているかのように見えてしまう。


「私は、ただの同級生・・・です」


 葵は同級生を強調する。

 余りにも『同級生』を強調し過ぎているようで、逆に何かあるのではないかと勘繰ってしまう。


 とりあえず、悠に近付く女は全て要注意人物なのだ。



「お、お姉ちゃんは下に行っててよ。勉強会するから」


 悠が姉を部屋から出そうとする。しかし百合華はテコでも動かない。


「勉強会は偉いわね。でも、先に一つ言っておきたいことがあります。貴方たちは、これから勉学に進学にと色々重要な時期なのよ。大丈夫だとは思うけど、私が居る限り不純異性交遊や破廉恥ハレンチなことは認めませんからね!」


 百合華がツッコミどころ満載の発言をする。『一番破廉恥なのはお姉ちゃんだよ』と、悠は心の中でツッコんだ。


「分かってるって。こっちは大丈夫だから」

「そう、分かったわ。あと、お菓子があるから取りに来て」

「うん……」


 悠は、姉の後をついて階段を下りて行く。




 ダイニングに入り二人っきりになったところで、OLお姉ちゃんからいつものお姉ちゃんに戻る。


 グイッ!


「ちょっと、ユウ君! 何で二人も連れてくるの? 二股なの?」

「ち、違うから! ただの同級生って言ってるだろ」


 おっぱいが密着しそうな距離まで詰められる。

 至近距離から見る、メガネ姉がドストライク過ぎて悠の顔が赤くなった。


(くっ……スーツ姿にメガネのお姉ちゃんも最高だぜっ! 知的な感じのメガネにタイトなパンツスーツ、こんなのセクシー過ぎるぜっ! 全国のメガネフェチの皆! 今日から俺も仲間だぜ!)


 百合華のせいで、悠に新たなフェチが増えてしまった。


 しかし百合華は悠のフェチを誤解する。


「もしかして……ユウ君ってセーラー服が好きなの?」

「は?」

「お、お姉ちゃんもセーラー服着てあげようか?」

「いやいやいや、何言ってんの?」

「今度、セーラー服コスプレして添い寝してあげるねっ」

「ぐっはっ!」


 姉のセーラー服コスプレを想像して、悠は思い切り昂ってしまう。同級生女子とは違う大人の魅力の制服は一味違うのだ。


「と、とにかく、勉強するから入ってこないでよ」

「変なコトしてなければ入っても問題無いよね」

「うっ……」


 悠がお菓子を持って二階に上がろうとすると、後ろから百合華が引き留めた。


「ユウ君、忘れ物だよ。ちゅっ!」


 後ろから優しく抱きしめられ、柔らかな膨らみを背中に感じながら、頬の少しくちびるに近い場所にキスをされた。


 かあぁぁぁぁ――――


 一瞬で悠の顔が赤くなる。

 不意討ちをくらって動揺が隠せない。


「ふふっ、いってらっしゃい」

「っ~~~~~~」


 百合華に自覚があるのか分からないが、悠は完全に調教済みかのようにキスで愛奴隷の刻印マーキングされているのだ。

 カラダの奥からゾクゾクとした感覚が溢れ出し、もう姉以外の女のことど考えられなくなってしまう。

 本当に罪な女なのだ。




 悠が部屋に戻ると、さっそく貴美が根掘り葉掘り聞いてきた。


「悠、何かあった? 顔赤いけど大丈夫?」

「えっ、そうかな?」

「もしかして、お姉さんに怒られたとか?」


 誤解しているようだ。貴美たちは、本当に姉が少し怖い性格だと思っているらしい。

 もう、面倒なので怖い姉ということにしておいた。



 そのまま勉強会はスタートする。

 優等生で成績優秀な葵はスラスラと問題を解いて行く。

 一方、貴美は少し苦戦しているようだ。


「あら、新庄さん。性格もガサツだけど頭もガサツなのかしら?」

「頭がガサツって何よ! あと中将だから!」


 もう、オヤクソクのように貴美の名前を間違えつつからかっている。

 本当は仲良しなのではないかとさえ思えてしまうくらいに。


「中将さんと六条さんって仲が良いの?」

「そんなわけないでしょ!」

「そんなわけないです!」


 悠の問いかけに、微妙にユニゾンして息もピッタリだ。


「もうっ! 休憩しよ。悠の隠してるエッチな本でも探そうかな?」


 貴美がとんでもないことを言い出した。


「ちょ、待てよ!」


 悠が止めようと貴美の手を掴んだ。


 ベッドの下を漁ろうとする貴美を、悠が必死に止めようとする。傍目はためには、二人がイチャついて絡まっているように見えなくもない。


「良いじゃん。何とか寮だっけ? エッチなの見せてよ」

「ダメだって! そこには無いから」

「ちょっと、悠、さわり過ぎ! エッチ」


 悠が貴美を止めようとして、後ろからお腹に手を回す。

 エッチな気など皆無だが、必死に止めようとして抱きつくような格好になっているのだ。


 ガチャ!

 そこに、突然ドアが開いた。


「あっ……」

「あっ……」


 眉間をピクピクさせた百合華に睨まれ、悠と貴美が同時に固まった。


「悠! 不純異性交遊は……」



 ◆ ◇ ◆



 二人は百合華の説教をくらって、姉監視の下で勉強することになってしまう。

 まるで学校の授業みたいだ。


 しかし、悠がまだ小さい頃に、泣きながら友人であるマキの頬を叩いた頃とくらべれば、少しは百合華もマシになっているのかもしれない。


(ユウ君……まったく、油断も隙もないんだから……。ちょっと目を離すとエッチなコトをしたがるお年頃なのよね。やっぱり私が、ユウ君の射〇管理しておいた方が良いのかしら?)


 百合華は、とんでもないことを考えていた。

 完全にアウトである。

 マシになるどころか、ヤバくなっていた。


 ※考えるだけならセーフです。



 監視しているだけだと暇なので、百合華は皆の勉強を見て回った。


「六条さん、凄いわね。全問正解だわ」

「えっ、あ、はい」

「でも、こっちのやり方の方が良いわよ」

「あっ、本当だ。ありがとうございます」


 葵は成績優秀なので、特に教えることも無さそうだ。

 初対面で敗北を知った葵は、高飛車なところも控えて大人しくなっていた。

 続いて貴美を見る。


「ここをこうするとyが消えるでしょ。で、こっちに代入すると――」

「あっ、解けた」

「これで他の問題もやってみると良いわよ」

「ありがとうございます。お姉さん、勉強教えるの上手いです」


 貴美が羨望の眼差しで百合華を見つめる。

 つまづいていた問題の解き方をを分かりやすく説明されて、少し憧れのような感情を持ったのかもしれない。


 ただ、百合華の方は心の中で貴美の言葉にツッコんでいた――――


(おおお、お義姉さんですって! あなたに『お義姉さん』なんて言われる筋合いはないのよ!)


 まるで小姑こじゅうとみたいなことを考えていた。

 もし、悠と貴美が結婚したら、嫁小姑問題で大変な事態になりそうだ。

 そんなことには、百合華が絶対させないだろうが。


「こっちは、この係数をそろえて――」

「はい」


 小姑みたいなことを考えながらも、百合華はちゃんと勉強を教えてあげていた。

 なんだかんだいっても優しかった。


 だが、安心する悠にエロ姉の魔の手が伸びる。

 百合華は右側で貴美の勉強を見ながら、左手で悠の太ももを撫で始めたのだ。


 大人しく勉強を教え始めた姉に安心していた悠だが、急に攻めてきた姉の手に狼狽する。


(ぐっ……お姉ちゃん……同級生女子の前でエッチなイタズラはやめてくれぇぇぇ……)


 テーブルの下で見えないのを良いことに、かなり際どい場所をナデナデしている。

 悠は、教科書に顔を伏せ、ピクピクと小刻みに震えながら耐え続けていた。


(そこは危険すぎる! 何処を撫でているのか分かってるのかよ……。ヤバい、このままでは大変な事態に……。中将さんや六条さんの目の前で爆発するわけにはぁぁぁ!)


「あら、明石君どうかしたの?」

「ちょっと悠、体調でも悪いんじゃない?」


 顔を伏せてピクピクしている悠を気にして、葵と貴美が声をかけた。


「ちょっと……トイレに……」


 悠は少し前屈みになりながらトイレへと向かった――――



 ドタドタドタ

 バタン!


 勢いよくトイレのドアを閉める。

 ギリギリで間に合った。


「ううっ」


 カタッ!

「ユウ君、大丈夫?」


 薄いドア一枚隔てた向こうから、心配する姉の声が聞こえた。


「だ、だ、大丈夫だから。あっち行ってて」

「でも、ユウ君が心配で……」

「うっ…………ふぅ…………」

「ユウ君……? 何してるの?」

「な、何でもないから!」


 ちょっと自主規制になりそうで焦りまくる悠に、心配して声をかけ続ける百合華。

 無意識なのかわざとなのか、姉のイタズラには困ったものである。


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