第14話 六条さんの猛攻撃、だが姉の攻撃力が強すぎる!

 悠が学校から帰宅すると、すぐ百合華が居間から顔を出すのが日常だ。

 ただそれだけで一日の疲れなど吹っ飛んでしまいそうになる。悠にとって、姉の笑顔が一番の活力なのだから。


「あっ、ユウ君おかえり~」

「ただいま」


 今日も、いつものように百合華の笑顔が迎えてくれる。


 親が再婚する前は、家に帰っても一人きりだった。ドアを開けた時に『おかえり』を言ってくれる人がいるのが、こんなにも嬉しいことだとは思ってもいなかったのだ。

 それが、大好きな姉となれば喜びもひとしおである。


 この男――――

 姉の言葉に何食わぬ顔で澄ましているが、本当は『お姉ちゃ~ん』と猛ダッシュで飛び込んで行き、ぎゅ~っと抱きしめてスリスリしたい衝動に駆られているのだ。

 もちろん、そんな恥ずかしいことはしないのだが。



「ねえねえ、ユウ君。今日は学校どうだったの?」

「ん? 特に何もないけど」

「ええっ~ユウ君に悪い虫がつかないようにチェックしないと」

「またそれかよ。そんなの無いって。俺がモテるわけないだろ」

「ホントかなぁ~?」


 貴美との誤解は解けたのだが、どうもあれ以来百合華は悠の周囲の女に敏感になっていた。


 ピコッ!

 突然、悠のスマホにメッセージの着信音が鳴る。


「んっ、誰だろ?」


 悠がスマホの画面を見る。


『私がメッセージを送ってやったのよ! 嬉しいでしょ』

 送り主は葵となっている。


「は? 葵って……もしかして六条さん?」

(なな、なんで、俺のアプリのID知ってるんだ?)


 悠が不思議に思って画面を覗いていると、百合華がジト目で見つめているのに気付く。


「えっ? 何?」

「ユウ君……葵って誰? 女? 女の子だよね?」


 何やら疑っているようだ。


「あ、たいした用件じゃないから。何でもないよ」


 スマホをしまって二階に行こうとすると、再びメッセージの着信音が鳴る。


 ピコッ!

『何で返信しないのよ! 無視してんじゃないわよ!』


 葵の追撃が来た。


「えっと…………」

「ジィィィィィィィ――――」


 更に追撃メッセージが連発する。


 ピコッ!

『だから、返事しなさいよ!』

 ピコッ!

『この私を既読スルーするなんて勇気あるわね!』

 ピコッ!

『何で返信しないのよ! もうやだぁ~』

 ピコッ!

『もしもーし! 聞こえてますかー!』

 ピコッ!

『何で返信してくれないの? これじゃ、私が脈ナシ彼氏に送ってるみたいで惨めじゃない!」


 怒涛の連撃に、悠は茫然とする。


「う、うわぁぁっ! めんどくさっ!」


 ピロリピロリピロリ♪

 遂には電話による直接攻撃に出たようだ。


「出ないの? 電話」


 百合華が完全に怪しんでいる目を向ける。

 ここで電話に出ないと余計に怪しくなりそうなので、悠は仕方なく電話に出た。


 ピッ!

「もしもし」

『やっと出た! いつまで待たせるのよ!』


 姉がジッと見つめる中で葵の電話を受け、悠は緊張し言葉を選びながら会話をする。


「何で俺のID知ってるの?」


『そんなの調べたに決まってるでしょ! それより、私のメッセージを既読スルーするなんて勇気あるわね! クラスの男子なんて、私から話しかけられたら泣いて喜ぶんだからね! あなたも私の声が聞けて嬉しいでしょ! だったら少しは――』


 ピッ!


 姉の視線が気になったり、葵の話が長かったりで、悠は咄嗟とっさに電話を切ってしまう。


「ユウ君……話、途中じゃなかったの?」

「えっと……」


 ピロリピロリピロリ♪

 また葵から電話が掛かってくる。


(あああああっー! 変な女子に目をつけられてしまったぁぁぁーっ! どどど、どうすればいいんだ! お姉ちゃんが疑惑の目を向けているぅぅぅ!)


「早く電話出たら?」

「えっ、あ、うん……」


 ピッ!


「もしもし」

『ちょっと! どういうつもりよ! 私の電話を切るなんて失礼でしょ!』

「ご、ごめん……」

『私が連絡したら20秒以内に返信すべきなんだからね!』

「あの、それで何の用なの?」

『用なんて無いわよ』


(ええええっ…………これ、一体どうしたら良いんだ? 彼女のプライドを傷つけてしまったのが原因なんだよな)


これは、もう彼女の自尊心が満足するまで褒めちぎらないとダメかもしれない――と、悠は考えた。


「あの、六条さん」

『何よ』


 悠は息を吸い、一気に捲し立てた。


「俺が間違ってました。六条さんは学校一の美少女で皆のアイドルです。俺のような一般人が、六条さんと話せるだけで感謝するべきです。これからは、六条さんの美しさに敬意を表し毎日感謝して生活します」


『えっ、何よ急に。ま、まあ、分かれば良いのよ。これからは、ちゃんと私を敬うのよ!』


「はい。じゃあ、そういうわけで」


 ピッ!


「はあっ、これで一件落着かな……」


 ほっとしたのも束の間、悠はジト目で見つめる百合華を見て、自分の作戦の失敗に気付く。


「ふぅ~ん、ユウ君って、その葵って学校一の美少女の子が好きなんだ?」


(し、しまったぁぁぁぁぁーっ! お姉ちゃんの前で、俺は何を言ってるんだぁぁぁぁーっ!)


「こ、これは……色々と事情があって……」

「ふ~ん、ユウ君、女の子と情事があるんだぁ~」

「情事じゃなく事情だよ! 逆だよ! それ、わざとだよね!」

「イケナイ子のユウ君は、きついオシオキが必要かな?」


 百合華に捕まって部屋まで連行される。


「へっ、ええっ、ええええーっ!」


 百合華の部屋に入ると、悠はベッドに倒される。

 何処からともなく玩具の手錠を取り出し、両手をベッドに固定され動けなくされてしまった。


「あれ? 何でそんなの持ってるの?」

「うふふっ、そんなのユウ君をオシオキする為に決まってるじゃん」


 百合華はイケナイ妄想が暴走し過ぎて、ついつい出来心で変なアイテムを通販でポチっていた。


「じゃ~ん! 羽箒はねぼうき~!」


 何かのキャラっぽい声真似をしながら、義姉がヘンテコなアイテムを取り出す。


「えっ、そ、それで何をする気なの……」


「ぐへへ~ ユウ君、もう逃げられないよぉ~」


 百合華は、悠の上に乗っかり動けなくしてから、羽箒をフリフリとして迫って来る。

 もう、完全に追い詰められた悠は、エロ姉の猛攻撃でされるがままになってしまいそうだ。


「ほ~ら、こちょこちょこちょこちょ~!」


 悠のシャツを捲ると、羽箒で脇やお腹をコチョコチョとくすぐり始める。


「ぐわぁーっ! くすぐったい! やめろぉぉぉぉぉーっ!」


 義姉のムチムチの太ももやお尻が密着し、もうそれだけで極度の興奮状態なのに、その上に羽箒のくすぐり攻撃を受け、悠の色々な部分が限界突破しそうになる。


(だ、ダメだ……。お姉ちゃんのオシオキが刺激的過ぎて、エッチなことを考えているのがバレちゃいそうだ……。耐えろ、耐えるんだ俺!)


「ほらほら、反省しないと大変な事になっちゃうよ~」


 大変な事になりそうなのは、悠の体の一部分なのだ。

 体の上に百合華のムッチリとした尻が乗っており、もう少しの変化でも気付かれてしまいそうである。


 羽箒が胸板から腹へ、そして下腹へと降りて来る。

 ニコニコと楽しそうな笑みを浮かべた百合華が、意味深な感じに下腹の辺りをクルクルと羽箒を回して刺激する。

 そして、羽箒が徐々に下に降りてきて――――


「わわわ、分かりました! もう、お姉ちゃんの命令に絶対服従します!」


 これ以上はヤバいと感じた悠は、姉に完全屈服してしまう。

 まるで女王様に忠誠を誓ってしまうみたいに。


「えへへ~ユウ君ってば可愛いっ。まあ、冗談はこれくらいにしてあげる」

「は? 冗談……」


 ノリノリで攻めていた百合華だが実際は冗談だったようで、いつもの優しい姉に戻って手錠を外してくれる。

 ドS女王なのは演技だったようだ。


「ちょっと! 何してんの! もうっ!」

「えへへ~ごめんごめん。ユウ君が、あんまり慌ててるから、ついからかいたくなっちゃって」


 冗談とか言っているが、実際かなりノリノリになっていたので、本当はその気があるのかもしれない。


「まったく……」

「でも、変な女には気をつけないとダメだよ。女は怖いんだからね」

「はーい、分かってるって」


 悠は、目の前の女も、ちょっと変で怖いと持ったが黙っていた。



 ◆ ◇ ◆



 自室に戻った悠は、ベッドに寝転ぶとグネグネと見悶えた。

 大好きなお姉ちゃんに馬乗りにされて、色々と危険な部分が密着しまくったり、羽箒でくすぐられ、カラダの芯の方からウズウズとした感覚が込み上げてくる。


「ううっ、酷い目にあった……あれ、無意識にやってるのかよ。あんなエッチなオシオキ、もう耐えられないよ……」



 その頃、当然ながら百合華の方も、ベッドにうつ伏せになりグネグネと見悶えた。

 大好きな弟君に色々しちゃって、カラダの芯の方からウズウズとした感覚が込み上げてくる。


「はああっ、ユウ君……危なかったぁ……ついつい、やり過ぎちゃいそうだったよ。ユウ君の反応が良過ぎるのが悪いんだよ」



 お互いに意識しまくっていて、悶々として熱くなったカラダを冷ましていた。

 悠は変な性癖を受けつけられそうだと思い、百合華もクセになりそうだとちょっと反省する。

 壁を隔てた両隣の部屋で、似た者同士の義理の姉弟が益々思いを募らせているのだった。


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