第13話 告白もしていないのに学年一の美人にふられる!
学校の廊下を
誰もが振り返り注目の的だ。
すらっとしたスレンダーでしなやかな体に、ハラリと揺れる美しい髪。
まるでアニメのお嬢様姫カットのヒロインのような、彼女の名前は
少し無口でクールな、その美少女は学校のアイドル的存在だった。
「うひょ~ やっぱ六条さんは可愛いよな」
「そ、そうかな?」
クラスメイトの男が、悠に話し掛ける。
その男も、葵の美しさに一目惚れしているようだ。
「おい! あんな美人を興味無さそうな態度ってどんだけだよ! あっ、オマエは中将さんだったか?」
「いや、彼女とはそんなんじゃないし」
中将貴美にやたらと絡まれている悠は、クラスの一部から誤解されているようだった。
重度のシスコンで、好き好き大好きお姉ちゃんの悠にとって、姉以外の女など誰も彼も似たようなもんに見えているのだが。
しかし、そんな悠に厄介事が飛び込んで来る。
◆ ◇ ◆
昼休み――――
一体何が起きたのか話題の六条葵が、悠のクラスにやってきたのだ。
一気にクラスが騒然となる。
男子たちは、葵の出現にテンションが上がって勝手に盛り上がってしまう。
そして、話題の彼女はキョロキョロと辺りを見回し悠を見つけると、真っ直ぐに歩いて来て悠の席の前に立つ。
「えっ…………?」
突然現れたクールな美少女に、悠は少しだけ警戒する。
切れ長の瞳に鼻筋が通りハラリと揺れる髪、クールな表情には少しだけ威圧感がある。
「明石悠君ね? ちょっと話があるのだけど。来てもらえるかしら?」
「えっ、ええっ……は、はい」
有無を言わせないような迫力に気圧されて、悠は葵の後を付いて行った。
人のいない屋上に出ると、葵は話を切り出した。
「あの、私ってけっこうモテる方なのよね」
「はい……」
「色んな人から告白されて迷惑してるの」
「そうなんですか……」
「だから、明石君の気持ちも理解できるけど、その期待に応えられないの」
「えっ?」
「つまり、告白の返事はNOよ。ごめんなさい」
「はあ?」
いきなり『ごめんなさい』されて、悠の頭の中は混乱する。
「えっと……何のこと?」
悠は真顔で質問した。
「は? あなたが私のことを好きだと聞いたから断っているんじゃないの!」
「えっ? 誰が誰を好きだって?」
「だから! あなたが私を……って、違うの?」
「はい、違います」
葵の頭の中まで混乱する。
「は? はあ? 私よ! 学校のアイドル的存在の!」
「そうなんですか……」
「だから、私のことを好きじゃないの?」
「いえ、全く……」
かあぁぁぁ――――
葵の顔が急速に赤くなる。
盛大に誤解していた上に、自意識過剰な感じを出してしまい、恥ずかしさでピクピクと震え出しているのだ。
「あの、誰に聞いたんですか?」
「あの、その……う、噂よ噂!」
「噂ですか……」
「い、いいこと、今の全部忘れなさい!」
「いや、無理ですって」
最初のクールな印象は崩壊し、今ではお茶目なキャラになってしまっているようだ。
綺麗な髪を振り乱して怒っている。
「もう! 何なのよ! く、屈辱だわ! 何であなたなんかに! 覚えておきなさいよ! もおぉぉぉぉぉぉ~」
葵は顔を真っ赤にして走り去ってしまう。
「そんな理不尽な……」
悠が一人屋上に取り残された。
階段を下りながら悠は考える。
(あれ? もしかして……先日のワックで中将さんと話した……? でも、あれは『誰にも言わない』って話だったし……)
悠は、ワックで貴美と話した事を思い出した。
シスコンがバレないように、学園のアイドルの名前を出したのだが、内緒の話が広まっているのだろうかと?
◆ ◇ ◆
悠が教室に戻ると、貴美が凄い勢いで迫って来た。
「ちょっと! 悠! 何で六条さんがアンタを呼び出してんのよ!」
「し、知らないし……」
「知らないわけないでしょ! ちょっとコッチに来なさい!」
今度は貴美に引っ張られて、
「あの六条が男を呼び出すなんて、よっぽどのことなんだからね! キッチリ説明してもらうから!」
貴美は『六条さん』と敬称を付けるのも忘れて、いつの間にか呼び捨てになっている。
クラスで人気の貴美にとって、学年一番人気の葵に対してライバル意識のようなものがあるようだ。
しかし、悠としては人気女子など眼中にない。
「そ、それより、この前ワックで話したこと、誰にも話してないよね? ここだけの話ってやつ!」
「えっ、あっ……と、当然でしょ! アユに『ここだけの話』って話しただけだし!」
話していた――――
「えぇ……話しちゃってるじゃん」
「ここだけの話だから良いのよ!」
女子の『ここだけの話』を信用してはいけない。
ここだけの話は連鎖するのだ。
「中将さんが話した噂が広がって、六条さんの耳に入って断りに来たんだよ」
「何で私が話したって決めつけるのよ……って、断わられたんだ……ふっ、ふふっ、そうなんだ~」
急に貴美がニヤニヤとした顔になる。
「へぇ~振られたんだぁ~そうかそうかぁ。まっ、元気出しなよ!」
ポンッ!
貴美が悠の肩を叩く。
「ふふっ、まっ、最初から高望みし過ぎなんだって! 悠はもっと身の程を弁えないとね。六条みたいに人気で、お高くとまっている女なんかじゃなく……も、もっと身近で探した方が良いと思うよ」
貴美が嬉しそうに笑う。
悠としては、告白してもいないのに勝手に振られて笑われるのだから納得いかない。
ただ、最後の方に貴美が恥ずかしそうな顔で話した内容は聞き逃してしまっていた。
(理不尽過ぎる……何で俺、失恋したことになってるんだ……)
◆ ◇ ◆
放課後、悠が帰宅しようと昇降口で靴を履き替えていると、葵とバッタリ鉢合わせしてしまう。
「あっ!」
「あっ!」
二人の間に気まずい沈黙が流れる。
「じゃ、そういうことで」
帰ろうとする悠に、後ろから葵が声をかけた。
「待ちなさいよ!」
「えぇ……何か用?」
「何か用ですって! この私に恥をかかせて、ただで済むと思ってるんじゃないわよね!」
「えぇぇぇ……」
変な女に絡まれてしまったようだ。
美人で可憐な学年一のアイドルは、実は粘着質で面倒くさい女なようだった。
「私なのよ! この美少女で人気の! 私と付き合いたい男はごまんといるのよ! あなたのような平凡な男は、私と会話できるだけで感謝するべきなのよ!」
「いや、早く帰りたいので」
悠の反応に葵が焦り始める。
「はああ? ちょっとあなた、私と話せて嬉しくないの? 私とお話できるだけで嬉しくて天国に昇った気分になるべきなのよ。本当は私のことが大好きなんでしょ!?」
「いえ、六条さんのことは好みじゃないので。ごめんなさい」
「何で私が振られたみたいになってんのよ!!」
悔しがって葵が
クールで完璧美少女の葵が変な動きをしていて、彼女のファンが見たらビックリすることだろう。
「そんなの言われても……」
「く、屈辱だわ……この私を振るだなんて……」
興奮して言っていることが滅茶苦茶になっている。いつの間にか、告白しているのが逆みたいだ。
「あ、あの、六条さんは美人で人気があるみたいだから、他にもっと良い男がいますよ。元気出して」
「だから、何で私が振られてるのよ! もうっ、絶対許さない! 必ず私のことを大好きって言わせてやるんだから! 覚えておきなさいよ! もぉぉぉぉぉぉぉ~」
葵は、まるで悪役みたいな捨て台詞を残して去って行った。
私のことを大好きにさせるという言葉が、超シスコンの悠にとっては面倒ごとが舞い込んだようにしか思えない。
学年の美人アイドルより、早く家に帰ってお姉ちゃんと話がしたいだけなのに。
好き好き大好きお姉ちゃんの悠が家路を急ぐ。
早くお姉ちゃんに会いたくて仕方がないのだ。
だが、悠は知らなかった。
六条葵の、本当の面倒くささを。
暴走した葵によって、悠の身にとんでもないことが降りかかってしまうのだと。
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