第12話 ユウ君は誰にも渡さない! お姉ちゃんの逆襲!
悠と貴美が二人並んで歩いて行く。その後ろ姿を見つめる百合華は、足元から崩れ落ちそうな気持になっていた。
「ユ、ユウ君……なんで……」
◆ ◇ ◆
悠が家に帰り自室でくつろいでいると、玄関の方から姉が帰宅した音が聞こえてきた。
大好きなお姉ちゃんの帰宅に、悠の心もドキドキワクワクと高鳴るのだ。
「あっ、お姉ちゃん帰ってきた」
階段を上がってくる足音が聞こえ、悠の部屋の前で足音は止まる。
コンコン!
「ユウ君、いる?」
百合華の声が聞こえる。
いつもと違い、少し沈んだ声だと悠は思った。
「いるよ」
ガチャ!
悠がドアを開けると、そこにはいつもの笑顔の百合華ではなく、暗く沈んだ表情の姉が立っていた。
「あれ? お姉ちゃん……どうしたの?」
そのまま部屋に入ってきた百合華が、悠の肩をガシッと掴んだ。
まるでアニメのヤンデレヒロインのような目を向け迫る。
「ユウ君……正直に言ってね……今日、ワックで一緒だった女の子って誰? デートなの?」
「えっ、あれは……」
予想外の質問が来て、悠は頭をかいた。
(えええっ、なに? あれ、見られてたのか……。でも、何もやましいことは無いし……。嫉妬してるのかな?)
「ねえ、ユウ君は若い子の方が好きなの?」
「そ、そんなこと無いから! あの子は、ただのクラスメイトだから!」
百合華の目に涙が溜まって溢れそうになる。
「だって……あの子、可愛かったし……。ユウ君が同世代の子と付き合っちゃったりしたら……もう、お姉ちゃんのコトなんか要らなくなっちゃうのかな? やだよ……ユウ君が、お姉ちゃんから離れていっちゃうのなんて……」
百合華は気付いた。
思春期の若者は、学校で出会いが多いことを!
クラスの半分は女子だということを!
遂に、姉の目から大粒の涙が零れる。
泣いている姉の姿でさえ、悠にはとても美しく尊く見えた。
だが、姉を泣かせてしまったという事実に混乱する。
(えっ! えええっ! どどどど、どうしよう! お姉ちゃんが泣いちゃった!)
「だから、あの子とは何でもないから……」
「ううっ、えぐっ、ぐすっ…………ううう、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ~ん! やだぁぁぁぁぁぁぁ~! ユウ君が酷いぃぃぃぃぃぃぃ~!」
「ええっ! ちょ、ちょっと、泣き止んでよ……」
姉のギャン泣きに、一階にいた絵美子が上がって来る。
ドタドタドタドタ――
「ちょっと、悠! ダメじゃない、お姉ちゃんを泣かせたら」
「えええええっ……」
母親の理不尽な説教に、ちょっと反論したくなる悠なのだが、自分のシスコンがバレそうなので黙るしかなかった。
そんな息子の気など知らない絵美子は、泣いている百合華に話し掛ける。
「百合華さん、どうしたの? 何かあったの?」
「違うんです。ユウ君は悪くないんです。私が……えぐっ、ぐすっ……」
「あっ、もしかして……今朝の、悠に勉強を教えるって話なの?」
何やら話は悠の知らないことに及んでいるようだ。
「悠、せっかくお姉ちゃんが勉強を教えてくれるっていうのだから、素直に言うことを聞かないとダメでしょ」
母親が何やら誤解しているようだが、シスコンがバレるよりは良いと思って悠は話に乗ることにした。
「分かったから。ちゃんとお姉ちゃんの言う事を聞いて勉強するから」
「そう、それなら良いけど。もう、お姉ちゃんを泣かしちゃダメよ!」
それだけ言うと、絵美子は階段を下りて行った。
二人の間に沈黙が流れる――――
「あ、あの」
「あ、あの」
二人の声が重なる。
「お姉ちゃんからどうぞ……」
「じゃ、じゃあ……ごめん! 私、取り乱しちゃって……。ユウ君がいなくなっちゃうんだと思ったら、何だかとても怖くなってきちゃって……。そうだよね、学校で好きな子とかできちゃうよね……うっ、ううっ……」
再び涙が溢れてきて、泣き出しそうになる。
「違うから! あの子は同じ委員会の話をしていただけだから! 好きでも何でもないから!」
「ほ、ほんと?」
「本当だから! そ、それに、俺の好みは、前に見た本棚の奥の漫画で知ってるでしょ」
「あっ…………」
百合華は思い出した。
悠が本棚の奥に隠していた、エッチな姉萌え漫画のことを。
「ふふっ、ふふふっ、ユウ君のエッチ」
「何でだよ、理不尽だ」
姉の顔に笑顔が戻る。
エッチな本のおかげで仲直りができた。
もう、エッチな姉萌え漫画に感謝するばかりだ。
「ところで勉強を教えるって何だよ?」
「私がぁ~ユウ君のエッチの先生になってぇ~手取り足取り色々教えちゃうってことだよ」
「アホか」
「えへへ~恥ずかしがってるユウ君も可愛いねっ!」
安心した百合華が、いつものようにからかってくる。
「もうっ、ユウ君が同級生の子とイチャイチャするのを見せつけるイジワルをしたから、罰として今夜は一緒に寝てもらいます」
「は? はああ?」
全くイチャイチャも見せつけもイジワルもしていないのだが、暴走気味な義姉の罰を受けることになってしまった。
超攻撃力のフェロモン出しまくり色んなところが出まくりの百合華と添い寝など、想像しただけでも余りのエッチさに足が震えそうな気がする悠だ。
「あ、あの……俺はもう子供じゃないんだけど……」
「ふ~ん、もう大人なんだぁ~じゃあじゃあ、エッチなコトは禁止だよ」
「うっ、ううっ……はぁ」
ニマニマとイケナイコトを企んでいそうな義姉の顔を見て、悠は今夜のまるでエッチな拷問のような時間を想像して溜め息をつく。
思春期真っ只中の悠にとって、こんな超絶可愛くて色っぽい義姉と添い寝など、もう色々と我慢の限界なのだ。
◆ ◇ ◆
夕食の時間――――
ふいに義父の幹也が悠に話し掛ける。
「悠君、男にはな、時に理不尽に耐えねばならないことが有るのだよな」
「えっ? は、はい」
多分、姉弟喧嘩のことを絵美子に聞いたのだろう。
幹也にとって、元嫁の理不尽な言動に散々振り回された経験からなのか、娘の理不尽な我儘でも受けたことがあるのか、男は例え理不尽だと思っても女性に謝らねばならないのだと言いたげだ。
きっと幹也だけは、姉弟喧嘩の原因が百合華の我儘なのだと思って、悠の味方をしてくれているのかもしれない。
前に一度だけ会った百合華の実母を思い浮かべ、悠は理不尽に耐えた幹也を労わりたい気持ちになった。
「男は大変ですね……」
「ううっ、悠君、分かってくれるか」
男二人で意味不明な話をし、女性陣からは変な目で見られてしまった。
◆ ◇ ◆
深夜、両親が寝静まった頃になって、百合華は悠の部屋にやってきた。
「ユウ君、おまたせ~添い寝の時間だよっ」
「い、いや、待ってないし」
「またまた~ホントはお姉ちゃんと一緒に寝たいくせに~」
図星なのだ。
実際のところ、姉に添い寝して欲しくて仕方がないのだが、そんなことは絶対に言えなかった。
「おじゃましま~す」
百合華がベッドに入ってくる。
久々の怒涛の進撃だ。
もう誰も、この地上最強のエロ姉を止めることなどできないのだ。
四つん這いになって悠を跨ぎ奥に入る時に、百合華の腕や太ももが当たりシャンプーの匂いがしたりと、もうそれだけでたまらない気持ちになってしまう。
百合華に触れられた個所が熱を持ち、ドクンドクンとカラダの奥の方を刺激してくるような感じになる。
もう、姉への想いが爆発して、思い切り抱きしめてしまいたい衝動に駆られてしまう。
(ううっ! す、凄い! お姉ちゃんが、最近ますます色っぽくなっている気がする……。もう、自分の気持ちを抑えるのが我慢出来なくなりそうだ……。お姉ちゃんのことが好き過ぎて、この想いを止められないよ……)
「えへへ~ユウ君、温か~い」
百合華が背中から抱きついてきた。
「こうして、くっついてると安心するね……すぅ」
悠と添い寝して安心したのか、百合華はすぐに寝息を立て始める。
背中に義姉の体温を感じながら、悠は永遠のような時間の中にいた。
胸の鼓動がドクドクと脈打ち、カラダの奥の方からズンズンと
もう、全てを忘れて百合華と一つに溶け合ってしまいたいほどに。
どれだけ時間が経ったのだろうか――――
悠が振り向くと、無防備にカラダを広げ気持ちよさそうな寝顔の百合華が見えた。
完全に信頼しきっているかのような、悠にだけに見せる安心した顔だ。
(お姉ちゃん……無防備過ぎるよ……)
目の前に大きく張りのある膨らみが見える。
今なら気付かれずに触ることも可能だろう。
(ダメだ! 俺は、お姉ちゃんを守るって決めたんだ! 他の男みたいにカラダ目当てだなんて思われないように、お姉ちゃんの信頼を勝ち取るんだ! 大きくなって、告白して……お姉ちゃんと絆が結ばれてから……)
悠は無防備な百合華に布団をかけた。
(それまで……俺は、どんなエチエチ攻撃だって耐えてみせる!)
◆ ◇ ◆
チュンチュンチュン――――
朝になると、ベッドの中から百合華の姿は消えていた。親にバレないよう自室に戻ったのだろう。
その辺は抜かりない百合華だった。
義姉の誘惑にも無防備すぎる添い寝にも、悠は大きくなって告白するまで耐えると決めた。
だが、果たしてどこまで耐えられるのだろうか。
日々攻撃力を上げ続ける地上最強の姉に、悠の我慢と防御はどこまで通用するのか。
姉と弟のラブラブでイチャイチャな戦いの火蓋は切られたのだ。
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