第10話 お姉ちゃんをエッチな魔の手から守るのは俺だ!

 悠と百合華は、二人仲良く手を繋いで歩く。


 街は色とりどりのネオンが輝き、あちらこちらから美味しそうな匂いが漂ってくる。

 百合華は悠の顔を覗き込み笑顔になった。


「ねえ、ユウ君。助けに来てくれたお礼に何か食べに行こうよ。お姉ちゃんが奢ってあげる」

「ほんと?」

「確かこの近くにケーキが美味しい店があったような?」


 二人は、ちょっと良い雰囲気の喫茶店に入った。


 入り口付近のショーケースに綺麗にデコレーションされた美味しそうなケーキが並んでいる。どれも飾られたフルーツが鮮やかで、見ているだけでお腹が空いてきそうだ。



 悠は、メニュー表を見て迷っていた。


(うーん……ショートケーキ、レアチーズケーキ、モンブラン、ガトーショコラ、フルーツタルト、苺ミルフィーユ……いや、こっちのフルーツたっぷりのロールケーキも美味そうだ)


「はっ!」

 そこで気付く。


(いや待て! こんなに迷ってたり色々頼んだら、子供っぽいとか思われそうだ。やっぱり男なら、ほろ苦ビターなガトーショコラにブラックコーヒーなのか……。でも、フルーツや生クリームたっぷりなのがぁぁぁ!)



 百合華の方といえば、どのケーキにしようか迷っている悠を見てニマニマしていた。


(やっぱりユウ君は良いなぁ~あんなに真剣にケーキを選んじゃって……。さっきの新歓コンパの男たちとは大違い。あいつらってば、下心見え見えでホテルに連れ込もうとしてたし)


「ふふっ」

 悠の横顔を見て微笑んだ。


(でも、ユウ君は違うもんね。まだ小さいのに、一生懸命に私を守ろうとしてくれる。私を大切に思っていてくれる。いつも私の気持ちを考えていてくれる。ふふっ……ふへへっ……ぐへへっ……じゅるり……)


 最後は若干下心になっていたが、百合華は悠のことをかなり意識してしまっていた。




「お待たせいたしましたー」


 ウェイトレスが悠の目の前に綺麗なケーキを並べてゆく。

 結局、悠はフルーツタルトとモンブランを注文した。ほろ苦ビターは、もう少し先延ばしになったようだ。


「えへへっ、美味しいね。ユウ君」

「うん」


 二人だけの楽しい時間が流れる。

 悠にとっても百合華にとっても、まるで夢のようなデートのような一時ひとときだった。



 ◆ ◇ ◆



 店を出た二人は、帰宅する為に駅に向かった。ちょうど帰宅ラッシュと重なったのか、駅のホームは凄い人だかりだ。


 ガタンガタンガタンガタンガタン、キキィィィィ!

 プシュゥーッ!


 電車がホームに到着すると、一斉に人が乗車し車内はギュウギュウだ。

 二人は何とか電車に乗れたが、狭い車内でドア際まで押されてしまう。向き合うように密着し、悠は百合華の体に埋まるように抱きつく形になってしまった。


「狭い……」

「ユウ君、大丈夫? キツかったらお姉ちゃんの方に寄りかかっても良いんだよ」

「う、うん……」


 悠には、百合華の方に寄りかかれない理由があった。


(近い! 近い! 近い! 近い! おっぱいが~!)


 そう、ちょうど悠の顔の前に百合華の胸があるのだ。胸を触るのはイケナイコトだと思って、頑張って距離を空けていた。

 しかし、後ろから押されて更に二人の距離は近付いてしまう。


 ガタン、グイッ!


(うわあっ! もうダメだ! あの柔らかそうなのが顔に当たってしまう!)


 悠の眼前に、柔らかそうな膨らみが迫って来る。

 それは、楽園への誘いか、悪魔の囁きか――

 ぷにっ!


「きゅぅぅぅぅぅ~」


 まるで大地の女神の寵愛を受けるように、柔らかで温かな大地に溶け込むように、悠は百合華のカラダに沈んでいった。


(ら、楽園だったぁ~!)


「ユ、ユウ君、大丈夫? お顔が真っ赤だよ」

「ふぁ、ふぁいじょぶ大丈夫……」


 ただでさえフェロモンむんむんでエチエチ攻撃力絶大な義姉なのだ。そんな百合華と密着して、甘い匂いやら柔らかな感覚やらと、もう五感全てがフルバーストしそうな勢いなのは仕方ないだろう。


(す、凄い……柔らかくて気持ちいい……お姉ちゃんがエチエチすぎて天国か異世界に行ってしまいそうだよ……)


 義姉のおっぱいで異世界転生しそうになっていた悠だが、ふと百合華の後ろに視線を向けると、怪しげな男が不審な行動をしているのが見えた。

 まるで如何わしい事をしようとしているようだ。


(ハッ! あれは、もしかしてチカン? ううっ、お姉ちゃんが魅力的すぎるから、やっぱり電車内だと狙われちゃうのか? くっそ! お姉ちゃんは誰にも触らせないぞ!)


 悠は満員で動きづらい人混みから両手を引き抜くと、百合華のお尻を守るように手を回した。

 まるで抱きついて尻を触っているような体勢になってしまうが、決して如何わしい気持ちなどではない。

 姉を守りたい一心なのだ。


「ひゃん!」


 百合華が声を上げた。


(ちょちょちょ、ちょっと、ユウ君? ななな、何でお尻触ってるの? えっ、もしかして我慢できなくなっちゃったとか? でもでも、まだ心の準備が~)


 盛大に誤解していた。


 悠の顔は百合華の柔らかなところに埋まり、両手でお尻を抱きしめるような恰好になる。

 完全に熱々カップルが電車内でイケナイコトをしているみたいだ。


(はうぅぅ~っ! ダメだよ、ユウ君……お姉ちゃんまで我慢できなくなっちゃうよぉぉぉ~!)


 姉がイケナイ妄想に耽っている頃、悠は迫りくるチカン男との静かなる格闘をしていた。

 さり気なく百合華の尻を触ろうと伸ばす中年男性の手の甲を、悠は手でガードして触らせまいとしているのだ。

 手を上下左右に動かし迫りくる男性の手をガードしている為、まるで悠が百合華の尻をナデナデしているみたいになってしまう。


(くそっ! このジジイ、やっぱり触ろうとしてやがる! 神聖不可侵なお姉ちゃんのカラダは、絶対に触らせないからな!)


 ぎゅうぅぅぅ~


 悠は更に強く激しく姉のカラダを抱き、向きを入れ替えるように回転し、姉をドア側に押し込み自分が中年男性側になるようにした。

 ちょっと壁ドンみたいな体勢だ。

 ただ、悠の顔は百合華の胸に当たっているのだが。


 そんな悠の奮闘に、もう、百合華は色々と危険なレベルになってしまう。


(ダメダメダメダメぇぇぇーっ! ユウ君、積極的すぎるよぉぉぉ~! そんなに強引にされたら、お姉ちゃん……おかしくなっちゃうよぉぉぉ~!)

 

 百合華の火照ったカラダに情欲の炎が灯り、腰の奥の方からドロドロとしたマグマのような感情が沸き上がる。

 ビクビクと足が震えて立っていられないほどに。


「あっ、うぐっ……あふぁあっ……もう……ダメっ……ぐっ、あぁーっ!」

 ガタンガタンガタンガタンガタン、キィィィー!

 プシュゥーッ!


 百合華の嬌声は、電車の騒音にかき消された。


 電車の到着メロディが鳴りアナウンスが入る。

 百合華の危険レベル最高潮一歩手前で、電車のドアが開きおあずけになった。

 多くの乗客と同じように二人も電車を降りる。



 改札を抜けたところで悠は百合華に声を掛けた。


「お姉ちゃん、大丈夫だった? チカンみたいなオッサンがいたから、俺が触らせないようにガードしてたんだよ」


「えっ、ええっ、えええええーっ! そうだったの? 私、てっきり……」


 そう言うと、百合華は両手で顔を隠して恥ずかしがる。


(あああーっ! 私のバカバカ! ユウ君は、私を守る為に必死になってくれていたのに、私はエッチなコトばかり考えていて……これじゃ姉失格だよぉ~)


「えっ、てっきりって?」

「何でもない、何でもないから! ユウ君、ありがとね。えへへ~」


 恥ずかしい妄想は誤魔化して、百合華が悠の手を取って歩き出す。

 ちょっとだけ二人だけの世界になり、街の雑踏も聞こえないくらいお互いの想いでいっぱいになって。



 悠は少しだけ誇らしかった。


(良かった、お姉ちゃんが無事で……。本当に世間は、ウェイ系のヤ〇サー男とか電車のチカン男とか危険がいっぱいだな。こんなに綺麗で可愛いお姉ちゃんなんだから、悪い男がウジャウジャ集ってくるんだ。悪い男共の魔の手から俺がお姉ちゃんを守らないと!)


 百合華はムラムラが収まらなかった。


(ユウ君……そんなに私の事を大切に思ってくれてるんだ……嬉しいよぉ~! でもでも……体が火照ってムラムラが止まらないよぉ~! どうすんのコレ! ユウ君と添い寝したかったのに、こんなんじゃ一線を超えちゃいそうだよっ! 我慢しなきゃならないのにぃぃぃ~!)



 百合華のムラムラは当分収まりそうになかった。

 今夜は、きっと眠れないだろう――――


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