第8話 嫉妬ファイヤー! ユウ君は誰にも渡さない!

 悠が学校から帰ると、玄関に見知らぬ靴があった。

 学生のローファーに見えるので、姉の友人が来ているのだと悠は思った。


「ただいまー」


 悠が家に上がると、二階から話し声が聞こえてきた。

 そのまま自室に行くため階段を上ると、姉の部屋のドアが少し開いていて、何やらJKトークのようなものが聞こえてくる。


「ほらっ、あの翔馬君、サッカー部の」

「えっ、べつに何にも無いよ」

「えええーっ! イケメンだし背高いし、女子に凄い人気だよ」

「うーん……あんま好みじゃないかな?」

「ちょっと、百合華の理想ってどうなってんのよ! 凄いコクられてんのに、全部断っちゃってるじゃん」


 姉が男子から告白されているとのワードが聞こえてきて、悠は少し心配になってオロオロしてしまう。


(そうだよな……お姉ちゃんは凄い美人なんだから、男子が放っておくわけないよな……。何だろう……? 凄く心がモヤモヤする)


 カタッ!


 悠が自室に入ろうとした時に、音を立ててしまい姉たちに気付かれた。


「あれ? ユウ君、帰ってるの?」


 ドアからひょっこりと百合華が顔を出す。


「う、うん」


 何だかモヤモヤした気持ちで返事をすると、百合華の後ろから友人も顔を出した。

 ちょっとオシャレな今時のJKといった感じだ。


「え、なになに? これが噂の新しくできた弟君? 紹介してよ!」


 部屋を出た友人が、悠の手を取ろうとする。


「わ、分かったから。もう、しょうがないなぁ」


 百合華は友人の手より先に悠の手を掴むと、遮るようにして部屋に連れて行く。

 その行為はまるで、友人に悠を触らせたくないようにも見える。



「はい、こっちの可愛い弟がユウ君です。で、あっちの女が柏木かしわぎマキね」


「マキでーす! って、ちょっと、私の紹介テキトー過ぎない?」


 悠を紹介する時はデレッデレな感じなのに、マキを紹介する時は明らかに声のトーンが違う。

 そんな姉に苦笑いしながら、悠は挨拶をした。


「初めまして。姉がお世話になってます」

「ええーっ! かっわいい~! よくできた弟君じゃん!」


 丁寧に頭を下げ挨拶した悠に、マキのテンションが上がった。


「ちょっと! ユウ君は、わ・た・し・の弟なんだからね! 取らないでよ!」


 百合華が謎の主張をし出す。


「取らないって、百合華じゃあるまいし。ほんと、ブラコンの姉をもって、弟君も大変だよねー」

「ぶ、ぶ、ブラコンじゃないし」


 明らかに、さっきから百合華の態度がおかしい。まるで自分の彼氏が取られるのではないかと焦っているようだ。



一通り自己紹介を終えると、マキが飲み物を欲しがった。テンションが高くて喉が渇いたのだろう。


「ねえ、ちょっと、のど渇いたかな。弟君も何か飲みたいよね? 百合華、何か持ってきてよ」


 仕方なしに百合華が立ち上がり、一旦ドアを出てから顔だけ見せて念を押す。


「いい! 取らないでよ!」

「だから、取らないって」



 姉が出て行き、部屋には悠とマキだけが残された。

 悠としては、年上女性と二人っきりで緊張してしまう。


「え~っと、ユウ君だっけ?」

「は、はい……」

「ねえっ、学校に彼女とかいるの?」

「えっ、いないけど……」

「ふ~ん、ユウ君って可愛いからいそうなのにね」


 グイッ!


 マキが体を寄せた。

 そう、悠は同年代にはモテないのだが、何故か年上女性には気に入られることが多いのだ。


「ええっ、恥ずかしいの?」

「ううっ……」

「おーっ、良いね~わしゃわしゃわしゃ~」


 頭をわしゃわしゃされた。

 年上女性に構われて、悠の顔が赤くなる。


「ええ~っ、赤くなってる。かわいい~」

「ううっ……」


 マキに気に入られてしまったのか、やたらベタベタと触ってくる。

 ちょうどそこに百合華が飲み物を持って帰ってきた。


「持ってきたよ……って、なに触ってんのよ!」

「ええ~ちょっとくらい良いじゃん」


 百合華は少し熱くなって、お盆を音を立ててテーブルに置くと、悠を取り返そうとする。


「良いじゃん良いじゃん。ユウ君かわいいーし! ほっぺにチューしちゃおーかな? チュッ!」

「あっ…………」


 マキが悠の頬にキスをした時、百合華の表情が一変しマジギレした。


 パチッ!

 マキの頬に、百合華の平手が飛んでいた。


「えっ、あれっ? 何で?」


 マキは一瞬なにが起きたのか理解できないような顔をする。

 しかし、叩いた百合華の方が動揺が激しい。わなわなと肩を震わせる。


「うっ、ううっ、うううっ……うわぁぁぁぁ~ん! ユウ君が汚されたぁぁぁぁーっ! 初めてのちゅーは、私がしようとしてたのにぃぃぃ!」


「「えええ…………」」


 呆然とする悠とマキを他所に、百合華が涙をポロポロ流して大泣きする。

 もう、子供のようにギャン泣きだ。


「お、お姉ちゃん。俺は何とも無いから! 取られてないから! 大丈夫だから」

「うわぁぁ~ん、ユウくぅぅ~ん! やだぁぁぁぁ~」



 悠が泣き続ける百合華を優しく抱いて背中をぽんぽんしていると、次第に泣き止んで静かになっていった。


「ぐすっ、ぐすっ、ユウ君、何処にも行かない? ずっと、お姉ちゃんの側にいる?」

「行かないから。もうっ、しょうがない姉だな……柏木さんにも謝らないと。叩いちゃったんだから」


「あっ、私はいいよ。そんなに痛くなかったし」


 マキも困った顔をしている。


「えぐっ、ううっ、ごめん、マキ……」

「えっ、私は大丈夫だから。それより、百合華がそこまでブラコンだったなんて知らなくて……私の方こそごめんね」

「う、うん……」


 百合華のブラコンが予想以上で、マキが少々ひいているようだが、悠のおかげで仲直りができたようだ。

 しかし、義姉のブラコン度合いが益々アップしているようで、悠は少し先行きが不安になってきた。



 ◆ ◇ ◆



 とりあえず場は収まったので、悠は自室に戻り宿題をやり始めた。


 マキといえば、百合華のブラコンを笑いのネタにしていたようで、その後も仲良く部屋で話をしてから帰ったようだ。

 とにかく二人の友情にヒビが入らなくて、悠は安心した。


 マキが帰ると、百合華が悠の部屋にそっと顔を出した。


「ユウ君……さっきはごめんね……」


「お姉ちゃん、あんなことしちゃダメだよ。友情というのはね、壊れてしまったら――――」


「ち、違うから。いつもは、あんなんじゃないんだよ。さっきはユウ君がマキとイチャイチャするから。ユウ君が取られちゃうと思ったら、頭がいっぱいいっぱいになっちゃって! もうっ! ユウ君は女の子と話すの禁止ね!」


「はあ? そんなの無理に決まってるだろ。もう、俺に彼女とかできたらどうするんだか……」


 彼女というワードで、百合華の顔が一変する。


「ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、そんなのダメっ! かかかかか、彼女とか、そんなのダメに決まってるでしょ! 彼女なんてできたら、毎日のようにちちくり合ったり、ちゅっちゅしちゃったり、アレが〇〇してあんなコトやこんなコトをしちゃうんだよ! 絶対ダメっ!」


 毎日ちちくり合うのはエロ姉だけだと言いそうになったが、悠自身も淡い恋心を抱いている義姉とイチャイチャしたいと思っていたので黙っていた。

 そう、悠の理想の女の子は、目の前の百合華なのだから。


「あ、あの……ユウ君、お姉ちゃんとチューしよっ!」

「だだ、ダメに決まってるでしょ!」

「ええーっ! ちょっとだけだよ~」


 逆光源氏計画のはずが、すでに手を出したいエロ姉になっていてアウト過ぎる。


「ほ、ホントにちょっとだけ! さきっちょだけ……じゃなかった、ほっぺで良いから! お願いぃぃ~っ!」

「ダメ、恥ずかしいし」

「えええーっ! マキとはしてたのに! ずるい! ずるい!」

「あれは事故みたいなもんだし……エロ姉改めウザ姉」

「そんなコト言わないでよぉ~ユウくぅ~ん!」


 益々拍車がかかる義姉のブラコンとエッチな進撃に、憧れのお姉ちゃんである百合華が好き好き過ぎてタジタジになる悠。

 しかし、義姉がアウト過ぎてポリスメンの御厄介になってしまわないかと、ちょっとだけ百合華の心配をする悠だった。


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