第3話 どきどきわくわく二人っきりの夜
なんやかんやあってお互いの親が再婚し、悠も百合華も新たな生活が始まった。
悠と絵美子が明石家に入り、四人は正式に家族になったのだ。
それはまるで、悠と百合華が新婚生活を始めるような、初々しいくもぎこちない甘美な果実を絞るような毎日。
寝ても覚めてもドキドキとムラムラが止まらない、二人の長く熱い恋愛戦国時代の幕開けなのだ。
そして、再婚した両親は早速ハワイへの新婚旅行に出かけ、五日間も家を留守にする事になる。
幹也は心配そうな顔を百合華に向けた。
「じゃあ百合華、家のことは頼むぞ」
「分かってるって。家事は私の方が得意でしょ」
絵美子に至っては、百合華に全幅の信頼を置いているようである。
「百合華さん、悠のことをお願いしますね」
「任せて下さい、絵美子さん。ユウ君は、私が責任を持って育てますから」
「な、何だか頼もしいわね……」
こうして、幹也と絵美子は家と悠のことを百合華に任せ、南国リゾートへと旅立って行った。
ガチャ――――
扉が閉まり、家の中には百合華と悠の二人きりになった。
今から五日間、この家はお互いに好みがドストライクな相手と同棲する愛の巣へと
(ぐへへ~ユウ君と二人っきりだぁ~! チャンス到来! ヘヘイヘイッ!)
百合華が心の中でヘンテコな掛け声を発する。
見た目は超美人なのに、性格はちょっとアレなようだ。
「ねえねえ、ユウ君。何して遊ぶ?」
「うっ……ひ、一人で遊ぶから」
「えええーっ! 一緒に遊ぼうよぉ~」
本当は、綺麗な年上のお姉さんに興味津々で構って欲しいのに、思春期で微妙なお年頃の悠としては、恥ずかしくて逆な態度をとってしまうのだ。
そんな素直になれないのが、繊細で素直じゃない
◆ ◇ ◆
悠は自室に行って、一人でゲームを始めた。
勿論、そんなのを百合華が許すはずもないのだが――――
「くううーっ! あのお姉ちゃんエロ過ぎるよ……話すたびにおっぱいが揺れるし……」
思春期の悠にとって、フェロモン全開の百合華は刺激が強すぎた。
そんな都合よく胸が揺れるはずがないと思うかもしれないが、それは百合華が悠の前でだけわざと揺らしているのだから。悠からしたら毎回揺れていると思ってしまうのも無理はない。
百合華の策略も知らない悠は、もう揺れまくるおっぱいにドギマギしまくっていた。
コンコン!
「ユウ君、お菓子持ってきたよ~」
廊下から百合華の声が聞こえて、悠は姿勢を正す。
「うわっ、来たっ!」
ガチャ!
百合華は、お菓子と紅茶を持って、悠の部屋に進撃してきたのだ。
そう、これは百合華流風林火山である。
【
【
【
【動かざることツンデレ姉の如し】
この戦法で、百合華の脳内シミュレーションでは130戦130勝なのだ。
常勝不敗無敵の姉とは百合華のことである。
だが、実戦は皆無なので、実際につよつよかどうかは誰も知らない。
ついでに――
【知り難きこと賢者姉の如く】
【動くことヤンデレ姉の如し】
と、まだ続きもあった。
百合華は悠の遊んでいるスマホゲームの画面を覗き込むと、少し肩と肩と密着させて寄りかかるように身を寄せる。
悠の肩に義姉の体温が伝わり、シャンプーの良い匂いが漂ってきた。
(ううっ……すっごい良い匂い……。何だか甘くて柔らかくて……。だ、ダメだっ! 刺激が強すぎるよ~)
「ねえねえ、どういうゲームなの? お姉ちゃんに教えてよぉ」
「ううっ、うううっ……」
悠は、恥ずかしさで耳まで真っ赤になった。
百合華の方といえば、悠の初々しい反応にキュンキュンしまくり、もう独占欲やら支配欲やらで危険な感じになってしまう。
(うふふっ、ユウ君ってば、真っ赤になっちゃって可愛いぃ~っ。ぐへへぇ、もっとイチャイチャしたくなっちゃうもんね~っ!)
心の中ではグヘヘ姉なのに、そんな素振りは見せず百合華は優しそうな笑顔を浮かべた。
「ふーん、ユウ君ってば、こういうキャラが好きなのかな?」
ぷにっ――ぷにっ――
もう、後ろから抱きしめるような形になり、肩だけではなく百合華の柔らかい膨らみが当たりまくっている。
「うわあああぁぁぁーっ! もうっ、あっち行けぇぇぇーっ!」
やり過ぎてしまったのか、悠は離れて机の方に移動してしまった。
「ちぇ~っ、ちょっとくらい良いじゃん」
百合華が欲求不満な感じに文句を言う。
悠はゲームに集中して相手をしてくれないようだ。
仕方なしに、百合華は部屋の中を物色し始める。可愛い義弟の趣味は把握しておきたいものなのだ。
(絵美子さんにも、ユウ君のことをお願いされたからね。ユウ君の趣味とか性癖とかチェックしておかないと)
百合華は話を曲解して、悠のエッチの趣味をチェックしようと動き出した。
本棚の前に立ち、漫画やラノベのタイトルをチラ見する。
悠はゲームに夢中で気付いていないようだ。
(今がチャンス! 本棚って、絶対二重に並べていて、奥にエッチな本を隠してるんだよねっ!)
百合華は手前に並んでいる少年漫画を何冊か抜いて、奥に隠してある本を確認しようとする。
自分がエッチな本を奥に隠しているからといって、他人も隠しているとは限らないのだが、何故か百合華はエッチなモノを探し当てる嗅覚が鋭いのだ。
「あっ……」
実際に本棚の奥にエッチな本があった。
エッチといっても18禁ではなく、ちょっとエッチな青年誌のラブコメなのだが。
問題なのは、そのタイトルだった。
百合華は、見てはいけない物を見てしまった気持ちで急に恥ずかしくなり、急にあたふたとして自室に逃げてしまう。
「あ、あの、ユウ君……お姉ちゃんは部屋に戻ってるから」
バタン!
自室に戻った百合華は、体をグネグネと身悶えさせながら、先程の少しエッチな漫画のタイトルを思い出す。
「何あれ! 何あれ! ヤバい、ヤバい、ヤバいって!」
本棚の奥に隠してあった漫画のタイトルは、『ボクの彼女は義理の姉』と『エッチなお姉ちゃんと禁断の関係』と『乙姫寮の管理人お姉さん』と『ギャルお姉ちゃんが攻めてくる』だった。
百合華はタイトルを一字一句間違わずに目に焼き付けていた。
「あ、あれって、そうだよね……。ユウ君って年上のお姉さんが好きってコトだよね。し、し、しかも、義理の姉のエッチなラブコメ読んでるって……。そ、そ、それって、私を狙ってるってことでしょぉぉぉぉぉぉぉーっ!」
さっきまで百合華流風林火山で攻め攻めだったのに、義弟が姉萌えフェチと知った途端によわよわになってしまう。
それもこれも、実戦経験皆無で妄想だけ人一倍なのが原因なのだ。
そう、この女――――
見た目はエロエロで経験豊富そうなのに、実は恋愛経験皆無なバキバキの処女だったりする。
「うううっ、ユウ君……私のコトを、そんなエッチな目で見てたなんて……。ま、負けてなるものか! やっぱり、姉の威厳を見せつけないとねっ!」
何がどうなってこうなったのか、姉の威厳と大人の余裕を見せつける為に、ちょっと無理してでも悠を誘惑して虜にしてしまおうと決意した。
(ふふっ、ふふふっ、ぐへへっ~! 姉弟なんだから。ちょっとくらい良いよねっ! セーフだよねっ!)
※アウトです。
◆ ◇ ◆
時間は夜に入り、食卓で二人だけの夕食をとる。
実の母親が離婚して出て行ってしまってから、色々と家事をしてきた百合華にとって料理は得意分野である。
冷蔵庫の食材でパパッとカレーを作り、悠に食べさせていた。
「ユウ君、味はどうかな?」
百合華が、少し緊張して優に感想を聞く。
「う、う、うう……」
「う?」
「う、美味い!」
「ほんと~嬉しい~」
悠はパクパクとカレーを食べる。
母子家庭だった悠は、母親が仕事で留守がちだった為に、あまり温かい出来立て料理を食べたことがなかった。
自分でもたまに作っていたのだが、百合華のそれは自分で作ったカレーとは雲泥の差だ。
久しぶりに愛情のこもった手料理を食べた悠は、優しくて幸せな気持ちになった。
(このお姉ちゃん……。ただのウザい系のエロ姉じゃなかったんだ……)
若干失礼な感想を持っているが、家族の愛情に飢えていた悠にとって、この美人で可愛い義姉の存在が大きなものとなっていた。
初対面で一目惚れのように心惹かれ、その後のウザウザ攻撃で若干ひいてしまう。そこから優しく世話をしてくれる義姉に対して、好き好き大好きお姉ちゃんな感情になってしまうのは自然な成り行きなのだ。
◆ ◇ ◆
「ユウ君、先にお風呂入っちゃって」
「はーい」
食事が終わりリビングで
悠は何の警戒心も持たず脱衣所で服を脱ぎ、一人で浴室へと入って行く。
「はぁ~っ、あんなエロいお姉ちゃんと二人きりで一時はどうなるかと思ったけど、なんかと上手くやっていけそうなのかな? これならポリスメンにタイホされなくて済みそうだ」
湯船に浸かり伸びをしながら、悠は突然できた姉の存在について素直な感情をつぶやく。
微妙なお年頃の男子としては、あんなエロエロな女が『姉ですよ』とか言われても、興奮と戸惑いでいっぱいになってしまい簡単に受け入れられないものだ。
そんな、新しい家族と上手くやっていけそうだと思っていた矢先に、その考えを打ち破るような嵐が乱入して来た。
ガラガラガラ!
「ユウくぅ~ん、一緒に入ろっ!」
百合華が、
つまり、すっぽんぽんである!
「な、ななな、なななななっ! 何で入って来るの!」
「だ、だって~ ほ、ほら、新婚さんでよくあるじゃない。『あなたぁ、御飯にしますか? お風呂にしますか? それとも、わ・た・し?』な、なんっちって~」
何が『なんっちって~』なのか分からないが、二人っきりのスイートホームの風呂という聖域で、無防備の状態からエロ姉の侵攻を受け、悠の幼きドーテーライフも風前の灯火のようであった。
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