第一章 運命の出会いと大好きな気持ち

第2話 出会いは突然に、おねショタ心を撃ち抜かれる運命の邂逅

 六年前――――

 明石百合華は終始不機嫌な顔をしながら、再婚相手になる予定の女性に会う為に、父親と一緒に待ち合わせ場所のレストランに向かっていた。

 両親の離婚から数年、特に不自由もなく自由な時間を謳歌していた百合華だったが、父親の突然の再婚宣言で平和な暮らしに嵐が巻き起こった。


 特に別れた母親に思い入れもなかった。

 問題ばかり起こし、とても褒められた人ではなかったし、いなくなればなったで自由気ままに暮らせていて快適なくらいだ。

 独身に戻った父親が誰と付き合おうが関係無かった。

 しかし、自分の家に赤の他人が入って来るとなれば話は別だ。

 自由気ままな自分のテリトリーが壊される。

 自分の聖域である家を、他人に侵食されるのは許せない。


 だが、何度も父親に懇願され、会うだけ会う事になった。

 そこで直接お断りを告げてやろうとさえ思っている。

 とにかく、今のままで上手く行っているのに、わざわざ余計な問題を家庭内に入れたくないのだ。



「百合華、そんな怖い顔するなよ。初めての両家族の対面なんだから」


 余りにも不機嫌そうな顔をしている百合華に、父親が娘の気をなだめるように話しかける。

 こんなピリピリした感じでは、初対面が台無しになってしまいそうだ。


 明石幹也あかしみきや

 百合華の実の父である。

 中肉中背で穏やかそうな表情をした普通なイメージの男だ。

 派手で遊び人の母に散々振り回された挙句、一方的に離婚を突き付けられバツイチとなる。

 百合華の親権は、遊び人で生活が不安定な母親ではなく、安定した生活力のある父親に決まり引き取られる事となった。



「はあ? 知らないわよ」

「そんな事を言うなよ……お相手の絵美子えみこさんは、優しくて人柄も良くて、それでいて美人なんだぞ」

「お父さんの女の好みなんて知らないわよ! まったく……って、ちょっと待って! 今、両家族って言った? それ、どういう事よ!」


 父親の話を聞き流していたのだが、ふと最初の発言に引っ掛かる言葉を見つけ、百合華が思い出したようにムキになる。


「あれ、言ってなかったか? 絵美子さんには一人息子がいてな。まだ小さいのだが……」

「はああああああーっ!? 聞いてないし! なんなの! そんなの絶対に認めない!」

「いや、今更そんな事を言われても……まだ小さい子だから大丈夫だよ」

「今更とかじゃないでしょ! 前から反対してたじゃない! 小さいとか関係無いし!」

「ううっ、困ったな…………」


 先行きが不安なまま二人はレストランに入って行く。

 このままでは再婚の話は御破算になってしまいそうだ。




 レストランに入り予約してある席に向かうと、そこには既に女性が座っており、二人に気付くと起ち上って挨拶をした。


「こんにちは、初めまして。私が幹也さんとお付き合いさせて頂いている絵美子です。百合華さんとは仲良くしたいと思っていますから、今後ともよろしくお願いしますね」

「えっ、あ……はい……」


 会ったら思いっ切り文句を言ってやろうとしていたのに、実際に会ってみると確かに人が良さそうな女性で、考えていた文句が一瞬出なくなる。


「あの、こちらが息子の悠です。仲良くしてもらえたら嬉しいのだけど」


 女性の隣に男の子がいた。

 それは、弟になる予定の悠だった。



 は、はあ、はあああああああああああああああ!!

 ズキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーン!!!!


 この瞬間、百合華の『おねショタハート』が撃ち抜かれた!

 それは、百合華の心に恋愛超振動弾頭スーパーバイブレーティングラヴボンバーが命中し、その超振動波により己の世界が革命され超熱愛モードのスイッチが入ってしまったほどなのだ。


 元から年下の子が好みだった百合華だったが、この瞬間に完全に心が虜にされ愛の牢獄に入り込んでしまった。

 もう、戻る事の出来ない愛の迷路に突撃し、出口の無い輪廻の円環に囚われてしまう。


 は、は、は、はわわわわわわわ!

 か、か、か、可愛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーっ!

 何これ! 何これ! すっごい好みなんだけど!

 髪もサラサラしていそうで、ナデナデしたら気持ちよさそう!


 ちょ、ちょっとくらい触っても良いよね?

 いや、待って!

 これって犯罪になるのかな?

 あっ、そうだ、親が結婚して家族になればナデナデし放題なんだよね。

 それならセーフだよねっ!


 ※アウトです。


 百合華は再婚に反対していたのも忘れて、目の前の少年の事で頭がいっぱいになってしまった。




 そして、もう一人の当事者である悠も――――


 う、ううっ、うわああああああーっ!

 すっごい美人のお姉ちゃんだ!

 ううっ、か、可愛くて、美人でカッコよくて、す、すごい綺麗だ……


 そう、この少年……

 実は、同年代の子より年上好きの、好き好き大好きお姉ちゃんなのだ。

 親に隠れて姉萌えアニメや漫画を見ている、お姉ちゃんキャラ大好きっ子だった。

 因みにお気に入りアニメは、『乙姫寮の管理人お姉さん』や『ギャルお姉ちゃんが攻めてくる』などである。


 うううっ~

 こんな綺麗な人が、お姉ちゃんになるだなんて緊張する……

 おっぱいが凄く大きいし……

 あっ、ダメだ! 見ちゃいけないんだ!

 ううっ、少しくらいなら……

 でもでも、触ったりしたらポリスメンにタイホされちゃうかも?

 あっ、そうだ、親が結婚して家族になればセーフなんだよね。


 ※アウトです。


 悠は親の再婚に不安だったのも忘れて、目の前の年上美少女の事で頭がいっぱいになってしまった。




 再婚に反対しようとしていた百合華が大人しくなった為に、再婚話は滞りなく進み話もまとまりそうになっている。

 百合華といえば、父親や先方に緩みっぱなしの顔がバレないように、時折顔を引き締めて厳しめの表情をしながら、隠れて悠をチラ見しまくっていた。

 もう完全にロックオン状態だ。



 不意に悠が立ち上がり、コップを持って何処かに行こうとする。

 それに気づいた絵美子が声を掛けた。


「悠、どうしたの?」

「ドリンクバーのおかわり」


 悠が一人でドリンクを取りに行こうとすると、百合華が立ち上がり一緒に行こうとする。

「あっ、私もドリンクバーに。あのっ、ユウ君は私が見てますから、お二人は話を続けていて下さい」


「おおっ、百合華、助かるよ」

「百合華さん、ありがとう。もう、立派なお姉ちゃんみたいね」

「いえ、たいした事じゃないですから」


 幹也と絵美子を残して、百合華は悠を連れてドリンクバーへと向かった。

 百合華としては、悠と二人っきりになる絶好のチャンス到来だ。

 これを機に、二人の距離を縮めようとしていた。


 チャァァァーンス!

 親の前だと話し難いから、二人っきりになったところで色々お話しちゃお!



 悠はドリンクバーの前で、どれにしようか迷っている。


「ねえねえ、ユウ君は、どのジュースが好きなのかな?」

「えっ、あのっ、こ、コーヒーかな……」


 明らかにオレンジジュースを注ごうとしていたのに、ちょっと大人ぶりたい年頃なのかコーヒーなどと言い出したので、百合華は微笑ましくなって笑いをこらえる。


「ええーっ、コーヒーは苦いよ。ユウ君、飲めるのかな?」

「の、飲めるし! 俺はもう子供じゃないし」

「ふふっ、『俺』だって……可愛い……(ぼそっ)」

「ん? 何か言った?」

「何でもないよ。ユウ君、熱いお湯が出るから、お姉ちゃんが手伝ってあげるね」


 百合華が悠の後ろから手を回して、カップをコーヒーメーカーにセットしてあげる。

 後ろから抱きつくような形になり、大きな胸がプニョっと悠に当たった。


 悠は、憧れのお姉ちゃんキャラのような百合華にドキドキが止まらない。


 くうぅぅぅぅぅぅぅ~っ!

 おおおおおお、おっぱいがぁぁぁ~っ!

 ダメだっ、心頭滅却しんとーめっきゃくすれば乳もまた涼し!

 エッチな事ばかりしてたらポリスメンにタイホされちゃう~


「はい、コーヒー出来たよ……って、ユウ君、お顔が真っ赤だよ? あれあれ~どうしちゃったのかな~」

「くぅぅぅぅ~」


 百合華は、悠のコーヒーと自分用の紅茶を入れ、悠の為に砂糖とミルクを取り、恥ずかしくて黙ってしまった悠を連れて席に戻った。




 対面を兼ねた食事会も終わり、百合華と幹也は家路についていた。

 幹也は、娘の反応を気にしてチラチラと顔色をうかがっている。


「どうだ、良い人そうな女性だろ? こ、今度こそ失敗しないからさ。悠君も素直そうな子だから……」

「良いんじゃない」

「だから、少しは前向きに……って、ええっ! 良いのか?」

「良いって言ったでしょ。確かに優しくて人柄も良さそうね。あの人なら、お母さんみたいに喧嘩ばかりで家庭崩壊にもならなさそう」

「よ、良かった。ありがとう。なら、話を進めさせてもらうよ」


 小躍りしそうなくらいに喜んでいる父親を横目に、百合華は新たに始まる弟君とのスイートライフを夢見ていた。

 もうそれは、自分も父と一緒に小躍りしそうなくらいに。



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