白米とトロサバと映画とシナリオ

 ふかふかキラキラの新米である。あまりに尊くて拝むしかない。

(ふぉおお…お百姓さんありがとうございます…)

 ぴかぴか光る炊き立ての新米を前に、いただきますの挨拶より先に私は農家の皆様へ心からの感謝を捧げる。

 勿論、こんな美しい新米を炊き立てで頂かないなんてそんなの罰当たりの所業なので、私はいそいそと手を合わせた。いただきます。誰にともなく挨拶をして、一旦まずはお味噌汁を啜って、まぁまぁかな、と自画自賛。

 こちらも自作のお漬物を齧ったら、続いて白米を一口。

 ――旨い。下手な言葉を弄するのが申し訳なくなるくらい旨い。目を閉じて私はゆっくりとお米を一粒一粒噛み締める。気持ち程度に水を少なめに、やや硬めに炊いたお米は一粒がしっかりと際立ち、つまり要するにめちゃくちゃ旨い。

 しばらく無心で味わってから、私はゆっくり目を開き――食卓へ視線を戻した。本日のメインディッシュは、ちょっと奮発したトロサバの干物だ。じっくりと魚焼きグリルで丁寧に焼き上げた自信作。まぁ素材がいいから焼き加減さえ間違えなければ絶対に美味しい奴である。

 お箸で身を崩すと、表面は魚の脂でパリパリになっていて、内側はふわふわと柔らかい。見ているだけで口の中に涎が出てきてしまった。

 ほぐした身を、ぱりぱりの表面とふわふわの中身を両方味わえるように掬い上げ、口の中へ。

 ――塩気とトロサバの乗りに乗った脂の旨味。ぱりっと香ばしい表面にふわっと解れていく食感と香り。すべて渾然一体となるそれを、まずじっと目を閉じて味わい、うっとり恍惚としたまま白米をまた一口。強めの脂は白米に吸収され、塩気が白米の甘みを引き立て、つまり、そう。

 完璧だ。

 魚、白米、たまにお漬物とお味噌汁。それらを繰り返し、多幸感に満たされた私はうっとり息を吐いた。

 っと、食事に夢中になりすぎてすっかり忘れていた。ふと視界に入った時計に、私は慌ててテレビをつける。今日は地上波でお気に入りの映画をやるって聞いて楽しみにしていたのだ。何度も見た内容だけど、名作は何度見たっていいもんだし、何より。

 テレビをつけてから、今度はスマホをなぞる。SNS上には私と同じ映画を見ている人達が、思い思いに感想を呟いている。

(疑似的にだけど『みんなで見られる』のが地上波のいいとこよね)

 口元を緩めつつ、私はしばし手を止めた。冒頭は既に終わっていたけれど、ここからもテンポ良く話が進むんだよね。

(…王道ってやっぱいいわー…)

 白米と焼き魚みたいな、何の捻りもない王道ストーリー。だけどこれが案外、作ろうとすると難しい。そんなことを考えるとつい、この映画ならどのシステムで再現できるか、どういうデータが必要か、なんてことを考え始めてしまうのはTRPG勢の性である。ちなみにこの映画は時代劇なので使用するシステムはかなり限定される。――私がそんなことを夢想していると、SNS上で友人がぽつんと呟いた。

<これってやっぱ殿様は天下人?>

<青龍・剣客でしょ。ごりごりのアタッカーだと思う>

<え、剣客なの??? 青龍??>

 おっとキミは映画は初見だったのか。すまんネタバレだ忘れてくれ。

<…イケメンくんは朱雀っぽいよねー>

<分かるわー。アイディア担当が玄武・天下人かな、PC2くらいな感じ>

<忍者はPCハイナンバーっぽいムーブだなぁ。PC4か5辺りか>

  この手の話題になると、同じシステムで遊んだことのあるプレイヤー達で話題に事欠かない。PCハイナンバー(4か5あたり)というのは要するに、シナリオの中核から少し離れた立ち位置のキャラクター、の意である。

(実際やるとしたら…PC4人として…PC1は殿様でしょ。他のPCは家臣で、PC4だけ外部の依頼枠かな…?)

 どんなハンドアウトを書くのが良いだろうか。ボス戦だけでなく道中にもギミックがあると楽しそう。

 そんなことを考えるとなしに考えつつ、私は白米をまた頬張り、トロサバの身をほぐす。小骨を除いてまた一口。

(うーん、王道!)

 やっぱり今度、直球王道のシナリオ作ろう。

 心に誓いつつ、私は映画とご飯の両方に没頭することにした。

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