朝ごはんと反省会
朝動き出すときはまず1杯、冷たいお水を飲んでから、というのが私の習慣だ。水分を取るだけで、スイッチが入ったように眠気に支配されていた脳みそが回転し始める、ような気がする。
(……プチトマトはまだあったっけ……えーっと、ヨーグルト、は切らしてる。買っておかないと。あ、パンあと少しだからこれも買い足して……)
まずコーヒーメーカーにお水を2杯分。それからコーヒーの粉の入った袋を開けた。台所にふわりと漂うコーヒーの香りは、それだけで目が冴えていくようだった。
そのうちコーヒーミルも欲しいなぁ、なんて言っているけど、一体いつになるやら。
とりあえず、お店で挽いてもらった粉も2杯分計ってセットし、コーヒーメーカーのスイッチを入れる。
次に食パン、最近少し暑くなってきたから冷凍庫にしまっておいたカチコチの奴だ。
(冷凍しとくとバターが塗り易くて良い……)
焼きムラが出来るとか焦げやすいとか難点もあるんだけどね、冷凍食パン。正直、普段食べる分には利便性の方が優先である。
バターを塗ったパンをトースターに入れてスイッチを入れたら、プチトマトを洗って皿に盛り、さて数分は待ち時間だ。ぼんやりと手を洗いながら、私の思考は、自然と昨日の出来事へと彷徨って行った。
(うーん。どこで時間を喰ったかしらねぇ)
昨日は友人宅でのセッションだったのだが、最後の最後でかなり駆け足になってしまった内容を思い返して、私は虚空を見上げる。
あんまりやらないシステムで、ルール周りの確認に手間どった──それはそう。
うっかり盛り上がったシーンで、全く本筋に関係ないロールをノリノリでやってしまった──それもそう。
あとは友人宅ということで、普段みたいにお金を払って借りている場所と違って終わり時間が決まっていなかった、という部分も大きい要因かもしれない。
(要反省ね。〆の時間が無いの、楽でいいなぁって思ったけど…無いなら無いでグダっちゃう訳かぁ)
最大の問題はそれでも何だか楽しかった、と言う点かもしれない。
(久々にやったシステムだけどやっぱり楽しいわねぇ。戦闘周りがどうもモッサリしてるのと、シーンの区切りが無いから切り上げ時が難しいってのは難点だけども)
何せ古いシステムだからその辺り、最近販売されているシステムとは洗練具合が全然違うのだ。そこを考えると、過去にTRPG業界で編み出された「シーン制」というシステムはとても合理的で良く出来ている。切り上げ時を見計らうのも楽だし、何より「このシーンはこれが目的です」みたいな目標の設定がしやすく、物語を組み立てるのにもメリハリをつけやすい。
だけど。
(……楽しかったわね、脱線)
はっきり言って本筋に一切関係のない場面で、モブの反応を好き勝手に全員で想像してワイワイと騒いでいただけだ。物語には何ら寄与していないと言っていい。
TRPGは、物語をその場の全員で組み立てていく遊びである。でも根底にあるのは同卓した人間同士の会話だから、脱線の方が盛り上がっちゃうこともある訳で、それもまた一興といえば一興なのだろう。物語は、完成することもあるし、しないこともある──それはTRPGの卓としては失敗の方に分類されるのかもしれないが、遊びとしての最重要項目は「楽しさ」な訳だから、必ずしもそれが「悪いこと」ではない。
(そもそも『所詮はゲーム』な訳だしねー、失敗イコール悪って考え方は好かないわ、私)
その辺りでトースターがチン、と音を立てる。コーヒーメーカーからは深煎りのコーヒーのかぐわしい香りが漂いだしていた。私はキッチンにおいたスツールから立ち上がり、まずコーヒーをたっぷり注いだマグカップをトレイに乗せる。プチトマトも忘れずに。
トースターを開けると、溶けたバターの染み込んだトーストからは、まだ寝ぼけている胃袋を直撃するような美味しそうな香りが立ち上っていた。まぁ、耳のとこは焦げてるけども。ちょっと焦げ臭いかもしれないけども。気のせいよね。
(うーん、……これは失敗)
ヒロくんにはあんまり焦げてない方を出そう。
そんなことを思いながらもう一枚を取り出したら、そちらは三分の一くらいが黒くなっていた。うん、道理で焦げ臭いと思ったわ。仕方がない、こちらは私が頂くことにして、お皿に並べると、私はリビングから寝室に繋がる廊下に顔を出した。
「ひーろーくーん! 朝だよ!」
──遊びはともかく。料理の失敗はちゃんと反省したほうがいいわね。
朝の弱い同居人へ呼びかけながら、私は苦笑した。まぁ、彼は優しいので。「そういうこともあるよね」とあっけらかんと言ってくれるんでしょうけどね。
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