かき氷とシナリオフック

 真っ白くてふわふわの雪のような氷の上には、鮮やかな緑のソースがかけられている。

 手にしたスプーンをどこに突き立てて崩していくか、緑萌える雪山を前にじっと考え込むのも至高の時間である。とはいえあまり悩んでいれば儚い雪山は溶けてしまうから、時間をかけすぎるのは厳禁。思い切って中腹あたりをそっと掬い取り、口へ運ぶ。

 噎せ返りそうなほど濃厚な抹茶の香りと、口の中でほろほろと崩れて溶けていく、冷たい冷たい氷の感触。二つが渾然一体となって咽喉へと流れて落ちていくのを目を閉じてじっと味わう。ここで急いで二口目に取り掛かるのは悪手だ。勢いよく流し込むと頭痛に見舞われてしまう。

 胃の腑に冷たさが染み渡るのを待ってから、ゆっくりと二口目。シロップ多めのところをあえて選んでスプーンを差し入れる。粉雪のようにふわりと柔らかい氷の感触に口元が緩むのを抑えきれない。ふへぇ、と、緩む頬を思わず手で覆いつつ、ゆるりと目を開く。

 雪山の中央部には、蜜豆が入っていた。まるで隠された宝物のようだな、とスプーンで掬い取る。冷え切った口の中に、豆の食感が楽しい。ゆっくり噛み締めつつ、考えたのはこの後のことだ。

(雪山かぁ)

 今日の舞台は小さな雪と氷の国、その中で氷に閉ざされてそびえるお城の予定である。永氷の国、という名前をつけたが我ながらネーミングセンスが無い。

(でもほら、国の名前はサボったけど、御標はちゃんと凝ったの作ったわよ!我ながら!)

 少しだけ自画自賛。

(しかし自作シナリオなんて久々過ぎてちょっと心配よね)

 データ面で言えばボスデータは同居人に作ってもらったので、多分問題ないだろう。(私はボスデータを自作するのがとても下手なので、いつも同居人に外注しているのだ。)

 スマホを取り出して本日のデータを眺めつつ思案にふける。シナリオの流れに問題は無いだろうか。情報項目に抜け漏れはないだろうか。

 そして何より、友人のリクエストに沿えているかどうか。そこが一番の不安点だ。

 元々の発端は、TRPGのルールブックにたまに載っている「シナリオフック」だった。まだTRPGを初めて間もない友人が、シナリオフックを見て「これ面白そう」と呟いたのである。だから思わず、私は「じゃあ用意しようか?」なんて返してしまった。仕方ないじゃないか。新人を囲うためにとれる手段があるなら私は最善を尽くすと決めているのだ。

 「雪の女王」をモチーフにしたそのシナリオフックのため、久々にアンデルセンの童話を頭から読み直したりもした。改めて読み直すと発見があって面白い。

(うーん…PC4の立ち位置が難しいわよねぇ。まぁ、でも4はぜーたくんだし、大丈夫か)

 友人であり、私以上にTRPG歴の長いベテランプレイヤーの友人なら、うまく物語に絡んでくれることだろう。とはいえ上手く合流できるよう、シナリオに一つ二つ書き加えても良いかもしれない。

 そんなことを考えつつ、冷えた口をお茶で一旦温める。お椀の中には、半ば溶け始めた雪山が三分の一程残っていた。幸い集合時間まではまだ幾らか間があるから、もう少しかき氷に集中して良さそうだ。

 舌触りよく溶けていく氷をじっくりと味わいながら、私はそっと、これから雪の女王に立ち向かうPC達へ思いを馳せた。

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