ハンバーグと彷徨える少女

 たまに。

 たまにだけど、長く何度もセッションを重ねていると、馬鹿みたいに笑ってしまうほど「噛み合う」セッションが生まれることがある。その日がそれだった。

 この日のセッションのPCについての設定はダイスで振って決めたから、これはもう「ダイスの神様の采配」なのだろう。神様は時々、そういう不思議な悪戯をする。

 思わず笑いそうになるのを堪えながら赤ワインを傾ける。個人的に、赤ワインはタンニン強めのフルボディが好きだ。良くも悪くも渋い、少し顔を顰めてしまうような味を舌の上で転がす。

 よくワインの味は「カシスの匂い」とか「フルーティ」とか「チョコレートの香り」等々と評されるが、生憎と私はそこまで良い舌はしていない、ただの酒飲みだ。だから「これは好きだなぁ」とか「これはちょっと合わないなー」とか、その程度しか分からない。

(ボトルのラベルも可愛かったなこれ。カルディで売ってるかな)

 ――ちなみに買うときは概ね値段とボトルのラベル見て何となく雰囲気で買っている。酒飲みとはいえそんなもんである。

 耐えきれない笑みを零しながら、目の前に運ばれたハンバーグを見下ろす。

 じゅうじゅう、と鉄板の上からは、胸ときめく音が鳴り響いていた。熱いうちにナイフをそっと差し込み、ぎっちりと詰まったひき肉に笑みを深める。ふぅふぅ、と吹き冷ましてナイフで切り分けた一つを頬張り、ぎゅう、と噛み応えを確認してから、ワインを一口。

 よくハンバーグは「ふわふわ柔らか」だの「肉汁たっぷり」だの言われるが、そんなものは私から言わせて貰えれば邪道オブ邪道。

 ハンバーグの味を輝かせるのは噛み応えと肉の質感。そして赤身肉の旨味だ。

 そしてフルボディの赤ワインは赤身肉の後味、少し残る肉の脂を流しこむのにぴったりと合わさり、

「んんーーーー」

 思わず呻いてしまった。そうやって口の中の調和を堪能しながら、スマホを眺めやる。お行儀は悪いがこの旨さを全世界に向けて叫んでおかねばならない。酒飲み食道楽のこれは「義務」だ。

 そうすると、今日卓を囲んだ仲間のコメントが目に入った。


<今日のセッション。自PCがたまたま振った出自表が他PCと一致してたので、その場で設定すり合わせて同郷だったことになってかなり面白い盛り上がり方しました。また同じキャラクター同士で新しい話をやったら面白そう>

<今回のPCの故郷にまつわる復讐譚として続けたら楽しいかもね>

<りりちゃんのPCコズミックホラーだったし、故郷を滅ぼした神格の眷属でもいいかもー?>


 ハンバーグ、二口目を噛み締める。ワインの後味が舌の上に残っているから一口目とはまた味わいが違う。

(やだ、楽しそうな話してるじゃない、私も混ぜてよ)

 舌の上で後引く肉の味を堪能してから、突発的に発生した「次のセッション」のシナリオ妄想を繰り広げていく。それが叶うかどうか、社会人同士だとスケジュールとか色々難点もあるから分からないけど、公式でご用意されてるシナリオからもこんな風に思いもよらず新しい物語が生まれるから――だからやめられない。


<じゃあ次回、私のPC、コズミックホラー繋がりってことで『彷徨える少女』に変えてもいい!?>


 ただ、私のその一言には全員から「ふざけんな」「りりちゃんさんいつもそれ言ってるよね」「無理です」と即返信が飛んできた。

 解せない。仕方なく、「じゃあ今回のPC続投します…」としょんぼりしながら、半分になってしまったハンバーグを大きめに切って口に放り込んで噛み締めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る