日高屋のラーメンとGM反省会

 目の前に並んでいるラーメンと餃子とビールという、黄金律を構成している完全なメニューを見てもテンションはまるで上がらなかった。そりゃそうだ。そもそも本当なら今頃ロールキャベツに舌鼓を打ちつつワイン堪能してるはずだったんだ。

 ため息が出る。それでも空腹は耐え難い。数時間喋っていた咽喉は疲労でくたくただった。

 冷たいビールをあおる。咽喉を通っていく冷たい刺激の心地よさが、気分の落ち込みをかろうじて押し上げてくれた。

(やり過ぎたわ…)

 ビールの冷たさが思考も冷静にしてくれる。何が悪かったんだろう、と考え直せばいくらでも原因には思い当たった。ボスデータを盛りすぎたし、ミドルの判定で妙にプレイヤーのダイス目が悪くてリソースを吐きすぎた。あと盾のデータがなぁ、まで考えたところで私は思考を止めた。プレイヤー側に原因を求めるのは良くない。このキャンペーンのGMは私だった。「今日の仮面ちゃん(PC4だった)の出目やべぇな…」と思った時点でちょっとくらいボスデータに手心を加えるべきだったかもしれない。

(いや、でもな、コンベンションでもないのにGMとして手心加えるのは私のポリシーに反する…)

 人にもよるだろうが、個人的には自分がGMである時に、手加減をするのは好きではない。尤もこれは個人の感想であって、他人がGMをやっているとき、戦闘中に「あ、やべ」と言いながらデータ削ったり足したりしてるのを横目に見る分には別に問題は無い――お互いに長いこと卓を囲んでる友人だ、変なことはしない、という信頼関係もある。

 閑話休題。

 ラーメンが伸びないうちにと、熱々のそれを啜った。全国どこにでもあるチェーン店の、醤油ベースのラーメンは、どこまでも過不足がない。美味しすぎないし、不味くもない、つまり飽きない味ということだ。

 メンマの食感を楽しみ、ビールを呷る。餃子の横の皿にお酢と胡椒、それからラー油を混ぜて、餃子を突っ込んで口に放り込む。ニラとニンニクの香りが少し強い。これも、「過不足のない味」だ。

 またビールを一口。生ビールにはこういう過不足のなさこそが丁度いい。

(つまり、私の用意したデータは盛りすぎだった、と)

 ずぞぞ、とラーメンをまた啜った。どんぶり一杯食べたらもういいや、という味なのだが、不思議と気分が凹むとこういうものが食べたくなる。上に乗せられた海苔をスープに沈めてくたくたにしてから麺に絡め、レンゲに乗せてまた啜る。スープでべちゃりと崩れた海苔がちょっと磯臭い。それもビールで押し流した。ぷは、とビールの泡で少しつまった息を吐きだし、空になった器へレンゲを戻す。

(…《広大無辺》2枚は重かったってことよね)

 結論付けて、餃子を噛み締めているとスマホの通知に目が向いた。本日ロストしたPCの、そのプレイヤーからの連絡だった。


<仕事人稼業から足洗ってた双子の弟が居たことにしていいですかGM>


 どっかで聞いたネタだぞそれ。

 力が抜けて思わず笑ってしまったところで、伝票を握って席を立った。




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