第1025話 蟹グラタン
「うん・・・?」
歩数を稼ぐためにウォーキングに出た帰りに下で郵便受けを確認したら、妙に立派な封筒が入っていた。
まあ、時々ダイレクトメールにも立派な封筒っぽいのが使われることもあるが、手触りからしてなんか違う。
こう、スベスベで滑らかだけど滑らない感じ?
何か退魔協会から勿体ぶった招待状でも来たのかと裏返して見たら、『北野 直樹・瑠維、千聖』とあった。
おやま。
ウチらの情報が退魔協会から流れたのか。
まあ、生霊を体に戻したのは秘密じゃないし、訴訟関係で当事者になってやり取りしている最中に術者へもお礼を言いたいって強く出られたら、退魔協会も断固拒否はし難いのかな?
情報を提供する前にウチらに確認取れよとも思うが。
勝手に相談せずにやってる点を考えると、遠藤氏経由じゃなくて上のお偉いさんから情報をゲットしたっぽいね。
まあ、千聖ちゃんの現状も少しは興味があるからお礼を言われる程度のアプローチなら受けても良いが。
変な要求をしてきて白龍さまの天罰を下されちゃう様な行動ではないと期待しているよ?
折角家族が無事揃えたんだし。
「何やら北野家から封書が来た〜」
4階に上がり、玄関を開けながら碧に声をかける。
「何を言ってきたの?」
リビングに行ったらブラッシング中だった碧が源之助から顔を上げずに聞いてきた。
「なんか立派な封筒を手でビリビリにするのも悪いかな〜って気がしたから、碧のレターオープナーを借りようと思って」
自分宛の普通の郵便だったら下から階段を登ってくる間に手で適当にビリビリに破いて開けることが多いのだが、今回は2人宛だったし、封筒もやたらと高級感があったので碧が誰かからお土産で貰ったとか言う木製のナイフっぽいレターオープナーを借りることにしたのだ。
で。
開けてみたら。
「ビリビリに開けなくて良かったかも。
なんか招待状が入ってた」
どこぞのレストランでの食事への招待だから、考えてみたら『ナニソレの名前で予約してある者ですが』って言えば良いだけで、招待状を実際に見せる必要はないんだろうけど。
「なになに?」
碧が源之助のブラッシングをやめて近寄ってきた。
食卓の上に封筒の中に入っていた物を全部出してみると、立派な招待状とカードが一枚出てきた。
『おねえちゃんありがとう』と書かれた拙い文字の下に、『この度は娘を助けて頂き、ありがとうございました。
是非とも感謝の念をお伝えしたいので、友人がシェフとして活躍しているレストランに招待させて頂けませんか?』と書いてあった。
招待状の方をみると、どっかのレストランっぽい名前と簡単な地図が書いてあり、『宜しければご都合よろしい日時をこちらにご連絡下さい』とメールアドレスが記載されていた。
「う〜ん。
礼を言いたいって言われた事は良くあったけど、レストランに招かれると言うのはちょっと新しいね」
碧が少し唸った。
タブレットで調べてみたら、中々評判の良いレストランらしい。
高級そうな封筒だったが、レストラン自体は偶に贅沢したい気分になったら私たちでも行けそうなランクの価格帯なようだ。
ネットの口コミによると蟹のグラタンが絶品だとか。
あと、口コミサイトに投稿されていたデザートの写真も色々と美味しそうだ。
「極端に高級っぽい場所じゃないから気楽に行けそうかも?」
蟹グラタンも心が動くし。
蟹のグラタンなんてあまり食べた記憶がないが、絶品だとどんな感じな味になるんだろ?
「まあ、行ってもいいけど。
これって千聖ちゃんとかご両親も同席することになるのかな?」
碧が少し首を傾げながら言った。
「まあ、来るんじゃ無い?
上手く碧を誘い出せれば、もしかしたら脳の損傷まで治した回復師との伝手になるかも知れないんだし。
何か千聖ちゃんにリハビリで治せない後遺症とかがあった場合に備えて是非とも顔を繋いでおきたいと思うでしょ」
問題ない様に治したって碧は言っていたけど、普通の医者や患者には『やってみなければ分からない』状態だろうからねぇ。
親としては、是非とも保険を掛けたい所だろう。
「なんかなぁ。
まあ、千聖ちゃんには会って話してみたい気もするからいいけど。
考えてみたら、今って誰かから『愛している家族を治してくれ』って縋られても『法律違反ですから』で全部一律お断り出来たけどさ。
それこそ法律が変わって医者免許無くても人を治せる様になったら、こう言う風な招待が山の様に来る様になるのかもと思うと・・・ある意味医療団体が利権目当てに規制を通してくれて良かったのかもって気もする」
碧が溜め息を吐きながら言った。
「昔だったら近所の人を治すだけで良かったけど、ネットで情報が拡散する現代だと奇跡的な回復術を使える人間が実在するって言うのが広まったら確かにとんでもない事になりそうだよね」
詐欺師も大量発生しそうだし、本物だとネットで噂になった人間には権力者だけでなく弱者も群がって来そうだ。
「だね〜。
まあ、それはともかく。
いつ食べに行く?」
どうやら碧も蟹グラタン(もしくはデザート)に心が惹かれたようだ。
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