第1023話 そっち?!
『そう言えば、千聖ちゃんの喉の調子はどうかな?
折角意識が戻ったのに声が枯れてて殆ど話せないんじゃあ可哀想』
うっかり何かの拍子に丸1日話さないなんて事があると、ちょっと喉が渇いて声が出にくくなる。
5年間も話さなかったのだ。喉に異常が出ているのでは無いだろうか。
『あ〜。
確かにガビガビに渇いてちょっと声帯も萎縮してるね。
何も異常がなかったら怪しいから、少し枯れてる程度まで治しておこう。
これで声が掠れるけど小声でなら話せる筈』
碧が千聖ちゃんの喉に手を触れて確認してから何やら力を使っていた。
何分、文字の読み書きが出来ない可能性が高いのだ。
4歳児って平仮名ぐらいだったら習っている可能性はあるけど、まだまだ語彙も少ないだろうし、自分で文字を書いて意思疎通しなければなんて事になったら大変だろう。
ただでさえ碌に歩けないし自分の手で食事するのも一苦労なぐらい筋肉が落ちている(多分だけど)状態で、これからそれなりに辛いリハビリと詰め込み教育が待っているのだ。
最初ぐらいは少しでもストレスが掛からない様にしてあげたい。
『そんじゃあ、帰ろうか。
折角だから、親が来て声をかけた時にでも目が覚める様にクルミを残して覚醒させる様にしよう』
看護婦たちの雑談によると、5年間も諦めずにほぼ毎日お見舞いに来ていたのだ。
感動の覚醒場面は親とやるべきだろう。
病院から『千聖ちゃんが目覚めました!』と連絡が来て嬉しさと疑いを胸に駆け付けて来るっていうのもそれなりにドラマチックだけど、父親か母親かのどちらかが交代で来ているのでどうせ当番じゃ無い側は駆けつけることになるし。
と言う事でクルミを残して病室を出る。
丁度マンションに帰り着いたぐらいのタイミングで母親が病室に現れて声を掛けたので、千聖ちゃんを目覚めさせ視界共有で様子を見ていたら、予想通りの涙ぼーぼーな感動の場面になっていた。
翌日の夕方に百貨店に行き、不思議現象が起きていないことの確認の判子を貰う。
これでこちらに現れていた霊の対処が出来たようだと確認が取れた事で依頼は終了となり、退魔協会にも終了報告をして終わった。
と思っていたのだが・・・。
退魔協会の遠藤氏から電話があり、思いがけない話を聞く羽目になった。
「百貨店と北野家が訴えられた??」
『ええ。
あのエクソシストを呼べと煩かった店のマネージャーが、どうやら色々と起きていた現象は生霊によって引き起こされたらしいと何処かから聞き出したらしく、店舗の売り上げ減少に関して北野家へ損害賠償を求めて訴えました。
また、百貨店の方も5年も掛けずにもっと早く解決に動けば顧客の減少や店舗での赤字を避けられたと責任を追及してそちらも訴えていますね』
遠藤氏が淡々と答える。
おいおい。千聖ちゃんの個人情報が流れ出ちゃったの??
それとも、訴訟を起こしたら弁護士経由でそう言う情報の開示を百貨店に強制出来るのかな?
それはさておき。
「呪詛でさえ『害があると思わなかった』で無罪になるのに、意識がない中で夢だと思って起こした悪戯で訴えられる訳はないでしょうに。
第一、悪霊や生霊関係の損害賠償は日本の司法では認められてないですよね?」
碧が指摘した。
あ、そうなんだ。
まあ、呪詛が許されるのに生霊はダメって可笑しいよね。
それに悪霊の場合は本人が死んでるんだし。損害賠償を家族や子孫に求めるのも無理があるだろう。
生霊だって、それこそ究極の心神喪失状態だろうし。
まあ、極稀に意図的に体から離れてやっている人もいるだろうけど。
第一、物理的証拠が無いんだから、無理でしょうに。
それとも損害賠償も状況証拠で可能なの??
『霊や穢れ関係と言った超常的な現象は、現在の日本の司法制度では損害賠償や傷害罪等の懲罰・補償の対象とされていません。
物理的証拠がありませんので冤罪を掛け放題ですから。
ですから最終的にはどれほど粘ろうと裁判所からも棄却されますが、変に粘られない様に原告側から証言を求められた場合などもこちらへ話を回す様にして頂けますか?』
遠藤氏が言った。
なるほど、それで電話して来たのね。
「それは構いませんが・・・我々の情報も漏れ出ているんですか?」
一応名乗りはしたけど今回は誰にも名刺は渡して居ないし、ネットで検索しても私らの事は出てこない筈だけど。
まあ、碧のカリスマ祈祷師のサイトが引っ掛かる可能性はゼロではないかもだけど。
でもあっちだって直接電話出来るわけじゃあないから、コンタクトして来ても無視すれば良いだろう。
無理矢理何らかの理由をこじ付けてプロバイダーの方に私らの情報開示を求めても、それが通る頃には裁判所が案件そのものをしっかり棄却してくれていると思うし。
しっかし。
怖いもの知らずだね、あの店長。
ちょっと何を考えているのか、理解を超えるわ。
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