第1022話 これからは抜け出しちゃダメだよ

『はい、終わり!

全然筋肉が付いてないけど、内臓とかの弱っていた部分は回復可能な範囲まで治しておいたから、しっかりリハビリすれば普通の生活に戻れる筈よ』

暫く千聖ちゃんに触れたまま動かなかった碧が体を伸ばして完了を報告してきた。


そっか、シーツとかで隠れてて見えないけど、昏睡状態な寝たきりだと排泄行為とかもチューブを刺して処理だろうし、栄養補給も胃瘻チューブか点滴かだから、内臓とかにも負担が掛かるとか、感染症になるとか、色々と問題が起きやすいんだろう。


まあ、筋肉が全然ないってだけでも十分問題だろうが。まだ若いんだし頑張ってそこら辺はリハビリで回復できるだろう。


・・・とは言え。9歳から読み書きとか計算のやり方を教わって、中学とか高校に普通に通える様になるのかな?

大学受験には数年遅れでも間に合うとは思うけど、ある意味大学での人付き合いって緩すぎるからねぇ。

人との付き合い方がよく分かってない子が大学だけ通っても上手く友達が作れるのかちょっと心配だ。


とは言え、同級生との付き合いが強制される中学や高校で異端認定されたら下手したら虐めに遭いそうだから、そっちも危険性は高いが。

まあ、そこら辺は5年間も諦めずに付き添ってきた家族が何とかサポートしてくれると期待しよう。


『遊ぶ〜?』

碧が何かやっていたのが終わったのを見て、千聖ちゃんがのほほんと聞いてきた。


体を治しても自動的に魂が戻らないかぁ。

霊体離脱の習慣が馴染みすぎちゃってるようだね。

これはちょっと、暫く体に魂を縛りつけて生霊がふらふらと離脱出来ない様にした方が良さそうだ。


『もう直ぐ皆と普通に話せる様になるから、ちょっとおねんねしようか』

そっと千聖ちゃんを捕獲して体の方に引き寄せながら言い聞かせる。


『そうなの?!

なんか、ドーン!があってから誰もちさとの声を聞いてくれなくて寂しかったから、嬉しいな!』

それなりに意識があった様なのに、成熟に繋がるような時間経過の感覚が無かったっぽいのって微妙に不思議だ。


悪霊だと死んでいるんだしって事で飽きもせずにずっと同じ怨みを抱いて同じ行動を繰り返す事を不思議だと思わなかったが、生霊でも時間経過の感覚が殆ど無いんだね。


ある意味、人間にとって時間経過っていうのは体が認識するだけで、魂のみだとスルーしちゃう現象みたい?


まだ受験戦争もなく、気儘に遊べる幼少時代を失っちゃった千聖ちゃんは可哀想だと思うが・・・まあ死ななくて済んだし、5年程度だったら100年近い寿命の中ではたったの20分の1でしか無いんだから、取り返しのつかない喪失ではないと期待しよう。


取り敢えず。

体に帰ってね〜と百貨店で送り返した後の記憶は消しておこう。

『退魔師に生霊状態になっていた魂を体へ返されたから昏睡状態から目覚めた』って事になれば一番都合が良い。


『じゃあ、おやすみ』

千聖ちゃんと体に戻し、ついでに魂をしっかり体に封じて10年か20年はそう簡単には離脱しない様にした上で、記憶を確認して直近の部分を削除する。


魂を体に強力に封じ込めすぎて、万が一千聖ちゃんが早死にした際に昇天するのに支障が出たりしたら困るけど、10年ぐらいしっかり体に根付いていれば霊体離脱の癖も無くなるだろう。


まあ、多分体を火葬したら封印も外れると思うんだけどね。

土葬だと、魂を体に封じると自我のあるゾンビになると言う説が前世ではあったからちょっと試したく無い。


前世の世界では、ちゃんと清めて処理しないと土葬した遺体は魔力が溜まったらゾンビになるのが自然な流れだったのだが・・・死ぬ前に魂をしっかり体に封じておくとゾンビになった際に自我がある程度残るのでは無いかと言う説を唱えて色々とヤバい実験をした黒魔術師がいたんだよねぇ。


当然、実験だから被験者が自然死するまで待てる訳もなく、魂を封じた被害者を殺していたのでゾンビとして蘇った実験体が殺された記憶がある自我を持つから人間を襲ったのか、単にゾンビだから目の前の生者を襲ったのかの違いが分からず、実験は失敗に終わったが。


そう言うアホな実験をするヤバいのがいるから、黒魔術師は害悪だって風評被害が生じたのだ。

マジで迷惑。


その点、魔素が薄いし土葬しないしだから、日本でならちょっとぐらい魂を体に封じるのに力を使っても問題はない筈。


頑張って長生きしてね、千聖ちゃん。

これからはふらふらと体から抜け出しちゃダメよ〜。

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