第1020話 『白いお部屋』じゃねぇ
『うんとねぇ〜、チーちゃんママとここに来て、色々見て回って綺麗なハンカチも買って貰ったの〜。
ふかふかなパンケーキ食べようね〜って歩いてたらドーンってしてバーンってなってびっくりして飛び出したらここにいたの〜。
なんか痛いしママが泣いてるんだけど、ここに居たら痛くないからこっちで遊んでる事が多いのよ〜』
何を言っているのかイマイチ分からんけど・・・母親とお客さんとして来て、楽しい買い物を満喫した帰りに事故にでもあったのかな?
「そうなんだぁ。
そう言えば、私は藤山 碧って言うの。
チーちゃんの名前も教えてくれる?」
碧が優しく尋ねる。
『きたの ちさと、4歳!
たかの駅前保育園さくら組なの!』
キラキラと霊が嬉しげに動きながら、答えてくれた。
どうやらお供えを貰えるにしても、話が出来る人は居なくて寂しかったのかな?
5年前に事故で寝たきりになった4歳児なのかね。
体が痛いからこっちに居るみたいだけど、母親が泣いているって分かっているって事は意識は時折体に戻っているんかな?
生霊状態で精神は事故に遭った時のままなのかもだけど、今はもう体は9歳って事は本来ならそれなりに読み書きを覚えて小学校に通っている筈だけど・・・こりゃあ体に意識が戻っても後が大変そうだ。
携帯を取り出して、『キタノチサト、事故』で調べたら、色々と関係ない記事が出て来たので期間を4〜6年前に限定して探したところ、百貨店を出て直ぐの歩道へ車が突っ込んで4歳の北野千聖ちゃんが意識不明の大怪我と言う記事を見つけた。
これかな?
「ちなみに、今いる病院の名前とかを教えて貰えるかな?」
大怪我をした千聖ちゃんが運び込まれた病院の詳細は書いて無いし、緊急搬送後に転院したであろう今の入院先の事なんて当然書いてない。
生霊の居る方向は大体感じられるけど、これを辿って病室まで辿り着くのはちょっと大変そうだ。
『白いお部屋〜。
夜になるとママやパパが来て話し掛けてくれるんだけど、時々泣いてるの』
霊体離脱状態で体の方の意識は無くても、周囲のことはそれなりに分かってるんだ?
夜に退魔師が来ても霊がいなかったのは、親が来るから体の方に戻ってるからなのかな?
事故に遭った4歳の時から精神的に成長してないっぽいけど・・・霊にとっての時の経過って個人差が大きいからねぇ。
「そうなんだぁ。
ちょっと今日は部屋の方に戻っていてくれる?」
碧が話し掛ける。
『う〜ん、まあ今日はお菓子もないし、帰ろうかな。
じゃあね〜』
あっさりと生霊の煌めきが消えた。
「ちょっとケーキでも食べに行こうか?」
どうも千聖ちゃんは自分の体とここだけを行き来しているっぽいので、ここを離れて別の所に行けば気を変えて戻って来ても話を聞かれたりしないだろう。
多分。
「そうね」
トイレを出たところで、百貨店の社員さんが居たのでダメ元で千聖ちゃんの事を尋ねてみる。
「そう言えば、5年ぐらい前にこの百貨店にいらした子供連れのお客さんがこちらを出てすぐぐらいのところで交通事故に遭った様ですが、その子供がどこの病院に入院しているか、ご存知ですか?」
名前は分かったけど、それだけじゃあ見つけられないから退魔協会に探してもらわないとどうしようもないからなぁ。
千聖ちゃんの体を治して霊を体に戻すなら、出来れば彼女の入院先を退魔協会に聞きたくはないんだよねぇ。
「お客様ですか?
少々お待ち下さい」
社員さんが応じ、奥の事務室に方へ私たちを連れて行った。
『ちなみに、これで入院先が分かったら、体を治してあげる?』
碧に念話で尋ねる。
寝たきりになっているのが霊体離脱状態が続いているからってだけなら良いが、『痛いから』とも言っていたので交通事故の怪我が治らずに後遺症で継続的に痛みがあるとか、脳に損傷があって意識が覚醒出来ない様な状態なのだとしたら、無理やり体へ意識を戻しても辛いだけだしそのうちまた我慢出来なくなった意識が体から離れてしまいそうだ。
でも、寝たきりの患者が生霊になった案件を私らに任せたら、碧が自発的に無料で生霊の体を治すと退魔協会に知られたら・・・それはそれで不味い気もするんだよねぇ。
『まあ、幼い子供だしねぇ。
意識が目覚めないんだったらそのうち体がギブアップしちゃうか、親が諦めて生命維持装置を切っちゃうかして本人が死霊になっていつか穢れを溜め込んで悪霊になっちゃうかもだし。
霊体離脱しちゃっていたのが、体に魂が戻ったら意外と怪我は悪くなかったのが判明って事で知らぬ存ぜぬで通しても良いんじゃない?』
碧が応じる。
『確かに子供の霊を2回も祓う羽目になったりするのは嫌だよね』
まあ、それに生霊状態になっている重体患者なんてそうそう居ないだろうし。法律違反だって言い掛かりをつけられる程の証拠さえ残さなければ、構わないか。
問題は本人の入院先を見つけられるかだよねぇ。
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