第1019話 ちょっと想定外。
「お供えを始める様になった頃かそのちょっと前に亡くなったか寝たきりになった人、ですか?」
百貨店の人に紹介して貰い、飛鳥さんに言われた知久さんとやらにも尋ねてみたら首を傾げられた。
「う〜ん、バイトと言うか派遣で短期で来ている人も多いので、来なくなった方が後から病気になったり交通事故で亡くなっても分からないですねぇ。ある意味別の店の人だったら見かけなくなった理由が健康上の理由か否かも必ずしも分かりませんから」
頬に手をやりながら知久さんが言った。
人の出入りが多い職場だったら5年は長いよねぇ。
まあ、友久さんも飛鳥さんも5年前から居たっぽい感じだから、正社員はずっと続くんかもだけど。
でも、ある意味それだけ出入りが多いんだったらパワハラで体を壊す様な状況になる前にさっさと損切りして次の職場に行ってそう?
「ちなみに、知久さんが経験した不思議現象はどんな感じですか?」
碧が尋ねる。
「ちょっと見られている様な気がしたり、クスクス笑い声が聞こえた様な気がしたり、蓋が開いている瓶がないのに商品の香りがしたりって感じですかね?
どれも気のせいかも?という感じで私は特に気にしないんですが。そう言う気のせいかもぐらいな『何か』が苦手な人もいるんでお客様に不快感を与えては悪いし大した支出でもないのでちょっとした物をお供えしているんです。
上田さんは・・・多分そう言うはっきりしない現象が苦手な人なんでしょうねぇ〜」
困ったもんだと言いたげな顔で知久さんが言った。
確かにね。
無駄な出費が嫌いでも、不思議現象が特に気にならないならお供えをやめて付き合っていけば良いが、苦手ならちょっとした花とお菓子程度、買ってお供えすれば良い。
まあ、ある意味苦手だからこそ、お供えして宥めなきゃいけない存在がいるって言うのが許容できないのかも?
それでエクソシストを主張して対処が遅れるんじゃ意味がないが。
それともエクソシストはテナントのオーナー企業側の主張なんかな?
事実として悪霊の実在を認識している会社だったら退魔協会の存在も知っていそうなもんだから、エクソシストに拘る必要はないと思うけど。
誰かがカトリック教会と伝手があって、そっちにビジネスを回さないといけない借りでもあったのかね?
まあ、営業時間中に女子トイレに入らなきゃって言う状況だったら諦めてくれると思うけど。
ちなみに、知久さんの店は香水系の物を売っている。
なので誰もいないのに商品の香りがするのはちょっと不思議な事なのだが、知久さんは気にしていないらしい。
ビビリな派遣の人は過剰反応するので、最近は上田さんの店が本来ならお供えする当番の日にはそう言うビビリな人を入れられず、店員のシフト管理が面倒なので早く解決して欲しいとは言っていた。
やっぱ、ビビリな人は大して害がない不思議現象でもダメなんだね。
もしくは、ビビって敵対的に感じている相手には霊もネガティブなちょっかいを出すのかも?
死霊だったら恨んでいる相手以外は碌に対象者を見ずに現象を起こしている可能性が高いので、ビビろうが有り難がられようがやる事が変わらない事が多い。
だから相手によって悪戯するか助けるかを変えているのは生霊っぽい。生霊で、夢の中で動いている感覚だったら・・・こちらに敵意を向けているか否かで何をするかも変わりそうだ。
ビビられると面白がって悪戯を増やすとか、不快に思って意地悪をするとか言った事があっても不思議はない。
まあ、それはさておき。
「じゃあ、取り敢えずトイレを見に行きましょうか」
今日は上田さんの店の当番日だとかで、お供えがないから何か反応がある・・・と期待したい。
まあ、出てくるのはトイレではなく上田さん周辺かもだけど。
「あら、こんにちは」
トイレに入ってみたら、鏡と椅子があるお洒落な化粧台っぽいコーナーの端にある、ちょっとした棚の様なところに小さな煌めきがふわふわと飛んでいた。
これがその霊かな?
『こんにちは?
今日はお菓子は無いのね』
ちょっと不満そう。
昨日の花がそのまま残っているのだが、萎れかけているからやはりそれでは満足出来ない感じかな?
「今日は無いらしいわね〜。
ところで貴女、どうしてここに居るのか教えてくれる?」
どうも子供の生霊っぽいんだけど、何でそんな霊が百貨店のトイレに居着いてるんだろ??
パワハラで倒れた生霊とか、ホストにでも入れ込んでプレゼントを買いまくる為に無理をしすぎて自殺未遂する羽目になった女性とか、もう少しドロドロな想像をしていたんだけど。
のほほんとした子供の生霊って言うのはちょっと想定外だわ。
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