第1018話 どこに居るのか

「ちなみに、お供えをする様になったのが何年前ぐらいなのかご存知ですか?」

飛鳥さんに尋ねる。


悪霊は壊れたレコーダーの様に同じことを繰り返すタイプが多い。相手によって行動を変え、時間帯とかで姿を消す霊障となると生霊の可能性が高い気もするんだけど、人間って魂が体から抜け出てたら弱って死んじゃう事が多いんだよねぇ。


お供えってちょっと古い慣習っぽいからずっと前から続いていたとしたら、その相手が生きているとは考え難い。

まあ、死霊でも守護霊ちっくに柔軟な反応を示すタイプも居なくはないけど、珍しいと思うし・・・何よりも、ここら辺はそれ程穢れがこびり付いてないんだよねぇ。


非常にミステリーだ。


まあ、私らの前に派遣された男性退魔師が穢れだけ祓った可能性もゼロではないが。

調査員が一応霊障があると認めたのに退魔師が霊に出会えなかったのって、調査員が女性だったのか、それとも霊が退魔師を避けたからなのか、興味があるところだね。


「う〜ん・・・5年ぐらい、でしょうか?

何か変じゃない?って話が従業員とかバイトさんの間で広がった時に、おばあちゃん子だったバイトの人が何故かトイレで『お供えです!』って言ってお花とお菓子をそっと棚の上に出したら怪奇現象っぽいのが収まって、その子がバイトを辞めた後にお供えを止めたらまた変な現象が起き始めたって噂になって皆でお供えをする様になったんですよね」

飛鳥さんが教えてくれた。


おや?

別に予算なんか関係なしに皆で自発的にお供えをしてたの?


「結局、妙な視線を感じたり不思議現象が起きるのってここの辺一角に3軒だけなんです。

だから順番に交代で毎日ちょっとしたお供えをしていたんですけど、上田さんの前の方がそんなアホらしいことをやってられるかと拒否して、あそこの店の日にお供えをしなくなったんですよ。

まあ、元々不思議現象って言っても子供の悪戯程度だったからあそこの店の日に少し変な事があってもそんなモノかと思っていれば大した事はないんですけど・・・ちょっと色々と不幸な事故が重なっちゃったみたいで、あそこだけ売り上げが大きく落ちて前任者の方がお辞めになって。

一応後任者として来た上田さんにお供えの事を話したら、何かちょっと過剰反応されちゃったみたいなんです」

飛鳥さんが続けた。


なる程。

ある意味、飛鳥さんとかもう一軒の店の人間にとっては適当にちょっとしたお供えをすれば特に問題はない程度な話なのに、上田さんとその前任者が何か霊的存在との関係を拗らせちゃったのね。


ある意味、適当な花とお菓子程度だったら退魔協会に依頼するよりずっと安いだろうに。

何だってそれが数が少ないから退魔師よりも料金(寄付金と言う形らしいけど)が高くつくと言う噂なエクソシストを呼べなんて話になるんかね?


上田さんの上司もちょっとバカなのか、どこかでヤバい悪霊に遭遇して過剰反応したのか、もしくは上田さんが反応はアレだけど上を自分の都合がいい様に動かすのが上手いタイプなのか。


取り敢えず。

大した霊じゃないのかも?


「ちなみにその5年前ぐらいの時に、誰かが亡くなったり病気に倒れたりした様な事は聞いていませんか?」

碧が飛鳥さんに尋ねる。


そうなんだよねぇ。

5年って言ったら死霊ならまだしも生霊だったらかなり長い年月なんだけど。

まあ、ちょっと悪戯をしたらお供えを貰うようになって、その後は最近まで特に何もしていなかったんだとしたら、それ程エネルギーは消費していないかもだが。


でも、エネルギーを無駄にしてなくても霊体離脱しちゃう様な状態って体には良くない。


植物人間状態になっても、点滴とか人工呼吸器とか胃瘻チューブとかのある現世では長ければ10年以上生き続ける事もあるとは聞く。

とはいえ、生霊ならいい加減体に戻してあげて意識が目覚める様にしないと、諦めちゃった家族に生命維持装置を止められて死んじゃったら悪霊化する可能性もある。


「特に私が知っている範囲では無いと思いますが・・・あちらのブティックの知久さんに聞いてみたら良いかも知れません」

上田さんが戻って行った角の店の向こう側にある店を示しながら飛鳥さんが言った。


取り敢えず、そっちで聞き込みしたらトイレのお供えしていた場所って言うのを調べるか。


・・・もしくはちょっかいをよく出されているらしき上田さんの周囲を見守ってみるのもありかも?



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