第1017話 相手を見てるよね

「やっと来たのね、どれだけ待たせるつもりなのかと思っていたわ!」


霊障が起きるのは百貨店にある程度の客が入る午後からが多いとの話だったので、2時過ぎに行くと話をつけてあったのだが・・・。

百貨店の運営側の社員に連れられて現場の方に顔を出し、周辺の店の人からも話を聞こうかとエレベーター寄りの店にまず顔を出したら、『退魔協会から来ました・・・』と言ったあたりで隣の店から飛び出してきた女性にクレームをつけられた。


それなりに小ぶりな店だから隣の店との距離も大した事は無いとはいえ、反応がめっちゃ早くね??

まあ、2時に来ると言われていたから見張ってたんだろうけど。


・・・そう考えると、それなりにやる事がある忙しい日中に見張っていたってことはこの女性も霊障で何か怖い思いでもしてるんかね?


もしかしてギャアギャア煩いのも恐怖を紛らわせる為だとしたら、少しは同情して鷹揚に受け止められるかも。


煩くクレームなんぞつけない方が早く問題が解決するよ〜と言いたい所だけど、場合によっては煩い相手の方が先回しになる可能性はあるのが現実だよね。

嫌がらせに態と後回しにする強者も稀にはいるだろうけど。


どちらにせよ、碧と私の印象は確実に悪くなるから、騒がないで欲しいところだ。


「・・・退魔協会から依頼を受けて来ました、快適生活ラボの藤山と長谷川です。

今回の依頼について、霊障が起こり始めた頃に関係者で誰か亡くなった方や自殺未遂や過労などで倒れて寝たきりになった方がいらっしゃらないかお伺いしたいと思ったのですが、何か思い当たる件はありませんか?」

碧が煩い女性の方にも体を向けて、最初に話しかけようとした店員と両方に挨拶がてらに尋ねた。


そうなんだよねぇ。

普通の地縛霊だったら時間帯によって居なくなるとかって、あまり無い。

動き回れるんだったら昼よりも夜に出てきそうなもんだし、夜に騒がないにしても退魔師が見つけられないほど存在感が無いって言うのも不思議だ。


もしかしたら寝たきりになった誰かの生霊なのかも?とも思うが、生霊がお供えで満足すると言うのも変だし、この案件の霊は色々と変なんだよね。


取り敢えず、死霊ならば捕まえたら祓えるだろうが、変則的な動きが出来るならちゃんと浄化できる前に逃げられちゃう可能性もある。なので相手が何を求めているのか、何を訴えたいのかを調べられるなら調べる方が失敗する確率が下がる。

・・・筈。


一応退魔協会も変則的だって事で何か役に立つ情報は無いかって百貨店側に聞いたらしいが・・・聞き方が悪かったのか、聞いた相手が悪かったのか、『誰も何も心当たりはないそうです』との事だった。


「そんなもの、ある訳無いでしょう、失礼な!!」

煩い女ががなり立てた。


「そうですか、では邪魔なので下がって頂いて結構です」

『黙って下がれ』と威圧的な意識誘導を軽く掛けて女性を追い払う。


煩く騒ぐ事で百貨店側の対応を早くしたかも知れないが、私らがここに来ている段階で騒がれても邪魔なだけだ。


情報提供をしてくれないなら居ない方が、他の人の話を聞ける。


「まあ、失礼な!!」

怒った様な声をあげたが、意識誘導が上手く効いてくれたのか、女性が自分の店舗の方に下がって行った。


「・・・通路のそばで話すのもなんですので、こちらへどうぞ」

最初に百貨店の社員が声を掛けようとした女性が軽く息を吐いて、店舗スペースの奥へ私たちを誘導した。


「上田さんは・・・あの店の前のマネージャーの方が、お供えに反対して中止してから色々と問題が起きる様になり、結局『悪霊がいる!!』と騒ぐ様になって突然退職してしまった後に来た方なんです。

前の大杉さんが辞める時のいざこざで店のお客様が離れてしまって売り上げが下がった上に、この百貨店に関してちょっと変な噂が立ったとかで更にお客様が減ったみたいで・・・」

店員さん(飛鳥さんと紹介された)が教えてくれた。


「ちなみに、その上田さんなり飛鳥さんはトイレや店で変な現象を経験していますか?」

碧が尋ねる。


「そうですね〜、時々誰も居ない時に視線を感じたり、お客様が手に取った商品が元通りに戻っていたりと言ったちょっとした変化はありますが・・・特に害になる事はないですね」

あっさり飛鳥さんが答えた。


いや、それってそれなりな現象じゃ無い??

商品を散らかすのではなく、片付けてくれるなら霊障と言うかどうかは微妙かもだけど。


「ちなみにあちらの店ではどんな事が起きているか、耳にしてますか?」

先ほどの上田さんとやらの店の方を目で指しながら尋ねる。


「時々突然ばっと振り返ったり、早足で柱に近寄って向こう側を確認したりしているので、彼女も視線を感じているのでは?

あと、あちらは商品を片付けるのでは無く散らかしているかも?」

飛鳥さんが肩を竦めつつ答えた。


ふうん。

相手を見てやる事を変えている霊ねぇ。

マジで生霊の可能性もありそう?



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