第1015話 面倒そう
「なんかエアコンの羽?が動く際にどっか擦れているのか変な音がするね」
9月半ばになったと言うのに、相変わらず稼働しているエアコンを下から見上げながら碧が言った。
「確かに。
意外とこう言う音を源之助は気にしないんだね」
猫って音にはかなり過敏に反応する感じなのに、こう言う単調な機械音というか擦れる音って獲物っぽく無いって事で興味の対象外なのかな?
人間的(と言うか私個人的)には気がついたらかなり耳障りなんだけど。
「これって羽の部分の部品でも取り替えて貰えばいいのかな?
修理の間エアコンを止めるんだったら、もう少し涼しくなってから頼むべきだよね?」
碧が半ば呟く様に言った。
エアコンをつけてないのに部屋が涼しかったら、ちょっと怪しいよねぇ。
温度そのものに関してはエアコンを止めちゃって完全に炎華に任せちゃうのもありだけど、それなりに風を動かさないと部屋の中で寒いところと暑いところのムラができるしねぇ。
「取り敢えず冷ますのは炎華に頼んで、サーキュレーターか扇風機でも買ってきて部屋の空気を循環させる?
で、来週辺りにでもエアコン修理を頼むとか」
数日前の天気予報では今週半ばぐらいに秋雨前線が来て、やっと夏の暑い空気が関東上空から押し出されて秋っぽく涼しくなると言っていた。
もっとも、今日も天気予報だと今週半ばと言うか週末近くまで30度を超える日が続くみたいだけど。
予定は未定って事で秋雨前線の到来も遅れる可能性があるから、うっかりエアコン修理の予約を早すぎる段階で入れちゃうと色々と面倒かも知れない。
まあ、修理の人が『エアコンがついていないのに涼しいですね』って言ったら『ここって事故物件なせいか涼しいんですよ〜』とでも言ってもいいけどさ。
実際に、事故物件なんだし、嘘では無い。
涼しいのは悪霊じゃなくて炎華のお陰だけど。
「そうね。
ちょっと音が気になるからエアコンは止めちゃって、サーキュレーターで誤魔化そうか。
修理は実際に涼しくなってから電話を入れよう」
碧が頷いた。
日が沈むのがかなり早くなったのに、何だってこうも日中は暑いんだろ?
マジで良くわからない。
太陽との位置関係的には、9月になってちゃんと角度が大きくなって離れつつあるんじゃなかったの?!
実際に日没の時間は真夏に比べるとかなり早くなってきたんだけどなぁ。
日本列島や周辺の海が茹っちゃって『予熱で蒸し焼き』状態が続いているんだろうか?
「お?
退魔協会だね」
電話の音に碧が立ち上がる。
「快適生活ラボです」
碧が通話ボタンを押しながら電話に答える。
『いつもお世話になっております、退魔協会の遠藤です』
聞き覚えのある声がスピーカーから流れてきた。
お世話になってるなんて本当に思っているんかね?
遠藤氏は『世話してやっている』と言いたげなほど傲慢ではないけど、他の職員だと時々『仕事を与えて金を払ってやってるんだ、感謝しろ』と言いたげなほど偉そうな人もいる。それでも決まり文句の『お世話になっております』って電話で最初に言うんだよなぁ。
社員教育ってやつなのかね?
でも、お世話になっている立場だと退魔協会側が思って決まり文句を教え込んでいるなら、もっとしっかり職員の態度も教育して欲しいもんだね。
そうじゃ無いなら心にも無いセリフなんぞ言わんで良いのに。
単に『こんにちは』で十分だ。
「おはようございます、遠藤さん。
何か依頼ですか?」
碧が電話に応じる。
碧って案外と電話だと無愛想になるんだよねぇ。
退魔協会は当然ながら、青木氏とかでもちょっと機械的な感じになる。
何か電話で嫌な経験でもあるんかね?
『実は、とあるターミナル駅の百貨店で外資系のブティックが増えたせいか、以前から続けていた清めのお供えをやる人間が居なくなったらしく、問題が急激に増えて霊障も出始めているそうです。
それの対処をお願いしたいと依頼が来てまして』
遠藤氏が言った。
お供え??
さっさと祓っちゃえば良いのに。
それとも何か風水的と言うか人の気の流れ的に穢れが溜まりやすい地形だったり?
「お供え程度で済むなら、お供えを再開しては如何でしょう?」
碧が遠藤氏に提案する。
依頼があれば金になるけど、やらんで良い事をやってお金を取ると後からぐちぐち言われかねないからね。
『それが・・・教会の司教に来て頂くなり、エクソシストを頼むのなら良いが、素人の店員がお供えをする程度で効果がある訳が無いだろうと店のオーナー側が納得してくれないそうです。
店員側も本部が予算を承認しないお供えを自腹で継続的にやるよりは、本部が推奨する専門家による清めの方が良いだろうと・・・」
遠藤氏が溜め息を吐きながら言った。
百貨店に入る店なんでしょ?
日本人の店長なりマネージャーなりがいるだろうし、それなりに高給取りだろうに何をケチなこと言っているんだか。
もしかして、悪霊とか穢れを信じていない人なのかな?
エクソシストも信じてないから協会に連絡するのではなく百貨店が退魔協会に依頼を出したんかも。
「なんかこう・・・面倒な事になりそうじゃありません?
そう言うのはもっと威厳のある年のいった男性の方が向いていると思いますが」
碧が穏やかに押し返す。
うん。
面倒な仕事は私も要らないかな。
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カクヨムさんで別に書いている短めに終わる予定(希望!)な話の最新話を久しぶりにアップしました。
前回がちょっと中身が薄かった気がしたのでもう少し書きました。良かったら読んでみて下さい。
https://kakuyomu.jp/works/16818023211694735678
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