第1013話 戦いだ!

『・・・絵奈?』

夢の中に侵入して、意識がかなりハッキリしているけどまだ完全には覚醒していなくて他者の念と接続されるのに抵抗しないぐらいな状態に調整した京子さん絵奈さんママが頼りなげな声(念)を絵奈さんに返す。


『そう!

ずっと死んじゃった電車の座席でぼ〜っとしてたんだけど、どうもお盆で少しあの世との境界が近付くのか、意識がハッキリして少し動けたから電車から降りてこっちに向かってたら、通りすがりの退魔師の人に手を貸してもらえたの!』

絵奈さんが元気に答えた。


マジで元気な人だね、絵奈さんって。

こんな人でもうっかりムキになって無理を重ねて体調を崩すと、思考能力が落ちて過労死しちゃうほど無茶な働き方をしかねないなんて・・・企業でのブラック労働は本当に危険なんだなぁ。

そこまで無理をしない様に管理職や人事がしっかり目配りするようしておいて欲しいもんだね。


まあ、青木氏の甥御さんだって後でまともになってから会ったら全然普通で、なんでああも自己犠牲的に働こうと思っていたのか分からないって本人も言っていたし。

ブラック労働ってちょっと洗脳効果があるのかも。

ただでさえ日本人って同調圧力を感じやすいし、真面目な人が多いから、誰にでもうっかりブラック労働の沼に嵌まり込む危険はあると考えておくべきなんだろうね。


それはさておき。


『通り掛かりの退魔師?

詐欺師じゃ無くって?

絵奈が居なくなった後に、なんか怪しげな霊媒師って言うのが声を掛けてきたんだけど、叩き出さずにお金を払って頼むべきだったのかしら?』

京子さんが呟いた。


いやいや、ダメでしょ!!

正規な退魔師は訪問セールスなんてしないんだから、それは正真正銘の詐欺師!!

きっと電車で亡くなったなんてニュースを見て遺族に付け込めると思った詐欺師だよ、それ。


娘を亡くした母親に詐欺を働こうと狙ってくるなんて人間としてクズ以下だけどね。


『いや、正規な退魔師ってかなり忙しいらしいから、個人のところへ売り込みになんて来ないんじゃないかなぁ。

なんでも退魔協会とか言う組織があるらしいから、そっち以外の退魔師は詐欺だと思った方がいいと思う』

絵奈さんがちょっと困ったように京子さんに言い聞かせた。


ちょっと頼りなさげなお母さんだね。

これじゃあ絵奈さんが死んだ際の心残りになっても不思議はないかも。


絵奈さん曰く、いざ戦いとなったらそれなりに強いらしいのだが、戦う必要があると認識するまでが長いとの話だったけど・・・大丈夫なんかね?


『そうなのね。

では、絵奈はこれからずっと一緒にいられるのかしら?』

京子さんが尋ねる。


『残念ながら、死霊がずっと地上に留まっていると段々穢れを吸収しちゃって悪霊堕ちしちゃって最後には危険だって事で退魔師の人に討伐されるなんて事になりかねないらしいの。だからお母さんとチャコちゃんにお別れを言ったら昇天するつもり。

もうどうすれば良いかも分かったし』

絵奈さんが恭子さんに答えた。


京子さんの夢に連れ込む前に現世にそのまま漂っている事の危険性を説明しておいてよかった。

死んだ娘にこのまま一緒に居られるの?なんて聞いてくるなんて、京子さんは大分と精神的に参ってるねぇ。

精神科医にも行った方が良いかも?


海外だと大切な人を亡くした場合にgrief counsellingを受けてその悲しみと対処するの手伝って貰うのって珍しくないらしいけど、日本だとどうなんだろ?

『精神科医』ってだけで大分と印象が悪いからなぁ。


まあ、ダメダメそうだったら弁護士の先生に提案して貰うよう、青木氏経由で頼んでおくかな?


『絵奈も居なくなっちゃって、私ももう逝こうかしら・・・』

京子さんがため息を吐きつつ言った。


『いやいや、チャコちゃんの事を忘れちゃダメでしょ!?

お金を払ってどこぞのボランティアグループに任せるにしても、この家でお母さんに可愛がられるのとでは天地の差になっちゃうよ!!

それに、私を過労死に追い込んだクソ上司と、あいつを管理職にしてあの無能さに関して苦情を言い立ててもなあなあにスルーした上層部にしっかり過失を認めて謝罪と改善策を公表させて欲しいの!

ここに来るのに手伝ってくれた退魔師の人からそう言う過労死問題に詳しい弁護士の先生の名前を教えてもらったから、その弁護士さんなりその人に紹介された人なりと協力して、私の元同僚達を助けるのと私の分の仕返しをする為に、頑張って欲しいんだけど』

絵奈さんが慌てて京子さんの両手を握って頼み込む。


まあ、霊だから実際に握れている訳じゃあないんだけど、スキンシップもどきな感覚は重要だよねぇ。


『そうね・・・そうよね!

絵奈が死んだのに、貴女の体に生まれつき問題があったんでしょなんて事を抜かしやがったのよ、あの上司!!

やっぱりあいつのせいなのね?!』

京子さんがクワッと目を見開いて絵奈さんに迫った。


ちょっと怖いぞ。

夢の中だから実際に血は流れてないのに、なんか目が血走ってる感じがする。


『メチャクチャな労働時間で働かなきゃ出来ないような仕事量を次から次へと押し付けてきたのよ!

あいつは私が無能だから時間が掛かるんだなんて言っていたけど、あのアホが無謀な納期で変な仕事や契約変更をほいほい請け負ってきたのが諸悪の根元だし、私が無能だと言うんだったらその能力に合わせた仕事量にするようにあいつが助けるなり他のリソースを寄越すなりするのが管理職としての責任でしょ?!

何度か仕事が多すぎて無理だからもっと納期を長めに請けるようにしてくれって口で言ったしメールでも要求してたのに!

各案件に関わった上司の上司も何度もccしたのに誰も彼も知らんぷりだったのよ。

会社のデータを弁護士経由で請求して、是非ともあいつらに報いを受けさせて!!』

絵奈さんがグイッと京子さん手を握り返しながら頼み込む。


『勿論よ!!

ブラック企業なんて世の中から根絶させてやるわ!

まずは手始めに絵奈の会社を真っ白なホワイト企業にしてやるからね!!』

京子さんが力強く頷きながら言った。


どうやらエンジンが掛かったらしい。

確かにこうなると大分とパワフルっぽい感じだね。


ホワイトな労働環境でも今の現代社会で生き残るにはそれなりに売れる商品なり有能な人間なりが居なきゃ難しいとは思うが・・・まあ、人手不足な時代なのだ。

潰れたら潰れたで、皆さんの再就職先はなんとかなるでしょう。


頑張ってね〜。


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