第993話 道を選ぶのは自分
取り敢えず、予約の入ったレストランへ歩いて行く際に出てくるだろう出口が見える場所にミニバンを停め、目的の根本(母)が出てきたら依頼主と鈴木氏が出て行く事になった。
私らは車の中から根本(母)をチェック、呪詛が見えなかったら近付いて再確認する事になっている。
「ちなみに・・・何だってそんな呪詛を掛けて転嫁先に選ばれるほど2人して恨まれたのか、お伺いしても良いですか?」
皆でじっと待っているミニバンの中で、碧がさりげなく尋ねた。
「あ〜。
根本は俺らと大学の同期でね。
食い倒れサークルの仲間で、一緒に美味しいって有名なレストランや宿に泊まりに行って遊びまくっていたんだ。
で、その際に色々と偉そうな評論を大江が蘊蓄垂れていたのがSNSで評判になって気付いたらあいつは料理評論家なんて物になっていたんだが・・・。
根本は親父さんが有名なフランス料理のオーナーシェフでね。
本人的には親の後を継いでシェフになるのに微妙に抵抗があったとかで料理学校に通わずに普通の大学で経営学なんて学んでいたんだが、両親の希望もあったし本人も美味い料理が好きだし特にやりたい事も在学中に見つからなかったって事もあって結局卒業後は親の知り合いのレストランで下っ端として雇われて、シェフとしての道を歩み始めたんだ」
竹下氏が説明を始めた。
普通の大学を出たのに料理人として雇ってもらえるって、それなりに腕は家で磨いていたのかな?
とは言え、下っ端の料理人なんて給料が安くてやってらんね〜ってレベルになりそうな気もするけど。
「根本もそれなりに才能があるから数年で幾つかマイナーだけど公式な賞を取る様になって、そろそろ親父さんの店に
自分とその時の親父さんの店でスーシェフをやってた女の料理を大江に食わせて、どっちが美味しいか聞いたんだ。
勿論どっちがどっちを作ったかなんて言わずに」
料理の美味しさって評論家が決めるべきものなのかね?
まあ、評論家と言うよりは食いしん坊な友人を頼ったってやつなのかな。
「あれは根本の踏ん切りをつける為と言うよりは母親を説得するのと根本の父親の店にいるスーシェフの納得の為だろう。
父親とも先立って相談してあって、レストランを辞めるのを納得させてあったって後から聞いたし」
だるそうに目を閉じて倒した座席に身を預けていた依頼主が口を挟む。
味覚と嗅覚麻痺の呪詛だったら下痢とか苦痛はない筈なんだけどね〜。
食欲が湧かないのでサプリメントと栄養ゼリーとナッツバーで食事は誤魔化しているとの話だが、必要カロリーをちゃんと摂取出来ていないのかな?
と言うか、まだ栄養ゼリーとサプリだけじゃあ食事の代わりにはならないんじゃない?
ペットフードなんかは粒々のドライフードを総合栄養食って謳っていて、あれだけ食べれば猫は健康に長生きできるって話だけど、人間はそう言う便利なフードは無い・・・よね?
まあ、どちらにせよ。
呪われるってストレスだろうしね。
でも考えてみたら、返せばいい呪詛ではなくて普通に病気で味覚と嗅覚が無くなったと思ったんだったら、更にストレスな気もする。
「その根本氏が陶芸家を目指していて、母親が恨んでいると言う事は料理対決の勝者は父親の店のスーシェフって判定したんですか?」
碧が尋ねる。
「ああ。
意外な事に、父親は息子が店を継ぎたく無いなら構わない、自分の好きな道を選べって言ってくれたのに、母親の方がブチ切れてね。
色々と揉めていたしこちらにも怒鳴り込みに来て迷惑を被っていたのがやっと数年経って落ち着いたと思ったら・・・代わりに呪う事にしたらしい」
溜め息を吐きながら依頼主が言った。
「ちなみに竹下さんが転嫁先に選ばれた理由は何かあったのですか?」
まさか現時点で根本氏の新生活での活躍に手を貸しているから恨まれているなんて事はないよね??
それじゃあマジで『息子のため』の怒りではなく、『自分のプランを壊された為』の怒りだって公言している様なものだけど。
「さぁ?
一応大学時代からよく三人でつるんでいて挨拶したこともあったから、大江と仲のいい友人って事で選ばれたんじゃないか?」
竹下氏が肩を竦めながら応じる。
う〜ん、どうなんだろうね?
まあ、呪詛を掛けた根本(母)と話をする機会は無さそうだから、そこは推測するしか無いんだろうけど。
そんな事を考えながら雑談をしていたら、オフィスビルの方から何やら高級そうなドレススーツを着た女性が現れた。
「あの赤いドレススーツだ」
そう言えば、結局根本(母)の会社って何をやっている企業なんだろ?
母親の会社って母親が社長なのか、単にそこで働いているだけなのか、聞いてなかったわ。
とは言え。
魔力視を凝らしたらしっかり呪詛の線が依頼主まで繋がっているから、呪詛返しを受ける事になるのは確実そうだ。
社員のためにも、ちゃんとあの人が潰れても会社を運営できる人がいると良いね。
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