第992話 子離れ出来ない親は害悪レベル
「・・・まさか、根本が呪詛を掛けたのか??」
依頼主が苦い顔をして言った。
その根本とかいう人が母親のところで働いていて、依頼主が何かその人に挫折感を味合わせるような事をしちゃったのかね?
「いや、根本自身は陶芸家になるって去年家を出て萩の方の窯に弟子入りして頑張ってるぜ?
師匠さんのウェブ通販を手伝うって言って俺にも色々聞いてきているし、SNSも更新しているから偶々今朝になって東京に来て母親の元を訪れてるって言うんじゃない限り、お前を恨んで呪詛を掛けたのはお袋さんの方だな」
あっさりと
ううん?
どうやら二人の知っている根本氏本人は、特に不満なく陶芸家になる為の道を邁進しているところらしい?
伝統工芸ってかなり採算が苦しいところが多いらしいから、ウェブで上手く売れるようになったら助かるだろう。そう考えるとSNSやウェブサイトでのあれこれは若い弟子が役に立てる場面だよね。
まあ、そっちに時間を取られすぎて肝心の陶芸の腕を磨けなかったら本末転倒だけど。
で、母親の方はそれに不満があると?
子供の選択を親が強制するのは良くないし、それを恨んで呪詛を掛けるなんて以ての外じゃん。
しかも、二人の口振りではその根本氏とやらって同世代の友人か何かっぽい印象を受けるんだけど。
依頼主は窶れてるせいで老けて見えているが、竹下氏から判断するに、30代前後って感じじゃない?
その年になってから陶芸家になるって弟子入りするのはちょっと将来設計的に大変かもって気もしないでもないが、陶芸家として大成すれば定年なぞなしにずっと作り続けて生涯現役っていける筈。
一人前になるまで結婚出来ないとなったら子供が欲しい場合はちょっと遅くに生まれることになりそうだけど、晩婚はどちらにせよ増えつつあるしね〜。
そんでもって30歳前後の良い年した男の母親が息子の進路(か別のことか知らんけど)に関して誰かを恨んで呪うって・・・。
まだ息子を殺した相手をどうしても司法で裁けないから呪詛で報復って言うなら分かるけど、元気に生きているみたいだからねぇ。
子離れ出来てないにも程がない??
何がどうなってるのか、聞きたいぞ!
「取り敢えず。
呪詛を掛けているのが知り合いの根本社長かを確認して、法的にも次に呪詛を掛けようとしたら罪に問われると言うのを突き付けたいのだが・・・調査員の鈴木さんと一緒に彼女に会えばそれで証言して貰えるのだろうか?
それとも何かそう言う事を立証できる道具でもあるのか?」
依頼主が鈴木氏に尋ねる。
だよね〜。
そこら辺は私も知りたい。
前世では無かったけど、世界が違えば何かあったり?
こちらの世界の方が進んでいる魔術的技術は殆ど見た事は無いけど、何事も例外は存在し得る。
「道具はありませんが、二人以上の術師が視認して証言すれば法的要件を満たします」
鈴木氏が言った。
二人以上かぁ。
私も行かなきゃだめかな。
「よし!
どうやら根本のババアのスケジュールを見る限り、あと30分後ぐらいに近くのレストランでランチの予約があるみたいだから、それに行くために出て来たところを突撃しよう!」
竹下氏が提案した。
ハッキングしてスケジュールを確認したのかね?
中々怖いな。
クラウド系のアプリで秘書とか仲間とかとスケジュール調整用に情報共有しているとこんな風にハッキングされる危険性があるんだね。
只管付け回されて行く先々でストーカーを見かけるのは嫌だけど、スケジュールが常時バレてて撒いたと思ったのに予約した場所にガンガン現れるって言うのも怖すぎるぞ。
ある意味、個人的なスケジュールとか予約の情報は紙の手帳に書く方が一番良いのかも。
私のカレンダーアプリもタブレットでも確認できるように携帯とウェブ版を同期させてるから、あれってハッキングされてたら予定がモロバレってやつだよね。
まあ、物理的な手帳にしか書いてなくてもチャットアプリやメールで友人と会う約束をしてたらそっちをハッキングされてどちらにせよ情報が漏れてそうだが。
そう考えると、ハッキング出来る相手にストーキングされたら中々絶望的なんだなぁ。
それはさておき。
「ちなみに、その呪詛を掛けた容疑者には声を掛ける想定ですか?」
ただ単にその女性が通るであろう出入り口付近に隠れて私と鈴木氏に相手を示してもらって確認するだけなら良いが、突撃しようと云う言い方だと声を掛けそうだ。
「勿論、間違いを悔い改める機会を与える為に、何をやってんだと聞くぞ!」
竹下氏が腕を振り上げる。
「大江さんが一人でそれを出来ませんか?
ここで退魔協会の人間と一緒に呪詛返しの転嫁先である竹下さんまで現れたら、流石に相手も呪詛返しでの転嫁回避の危険性を考えて呪詛を自発的に解除すると思いますよ?
それで良いならそれも一つの選択肢ですが」
ただ、そうなったら相手はまた暫くしてから呪詛を掛けるか、金を払って物理的に依頼主を害するかに方向転換するだけだと思うな。
「・・・分かった。
私一人で声を掛け、今日中に厄祓いに行くから呪詛を解除するなら急げと告げよう。
呪詛返しの転嫁による影響を分かっていて態と厄祓いで転嫁を引き起こさせようとするような言動をした場合、やり取りを記録して傷害の罪でそちらも問えないか試してみるから、その間に退魔協会の皆さんは呪詛の繋がりの確認をお願いする」
ぐっと歯を食いしばって依頼主が言った。
まあ、この呪詛が倍返しになったらどう言うダメージになるか不明だけど、単に味覚と嗅覚が完全に無くなるだけで済むようだったら、司法でなんとか害意を証明して罰せられないか試す方向で行く方が無難かもね〜。
五感の他の感覚まで使えなくなるんだったら、司法で何だかんだ以前の話になるだろうけど。
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