第990話 証人喚問は面倒そう

「お待たせ」

転嫁先にされたホワイトハッカー氏が先にミニバンに乗り込み、依頼主がその後に続いて乗り込む。

味覚と嗅覚が無いだけだったら別に体に不調はないだろうからリクライニングシートも必要なくね?と密かに思っていたのだが、どうやら味覚と嗅覚が無くなったショックか呪詛の反動かでちゃんと食事を食べていないらしく、依頼主はかなり顔色が悪くてげっそりと窶れていた。


なるほど。

これだったらリクライニングに寄りかかって楽にしていてくれってなるね。


「実は・・・想定としてはまずは呪詛を掛けた相手を見つけた上で呪詛返しの転嫁先にされた人物を見つけ、その方に退魔協会に来て頂いて半日ほど幾つかの転嫁解除の新しい試みに協力していただくよう説得すると言う話になっていましたよね」

鈴木氏協会の調査員が二人に話し掛ける。


「ああ。

もしも転嫁先の人間が私の知っている人間だった場合は説得に協力するのも合意している」

だるそうに依頼主が答える。


「意外なことに転嫁先にされたのがそちらのご友人の様なのです。

ですから我々としてはこのまま退魔協会に行って解除の試みを始めても良いのですが・・・大江様としては先に呪詛を掛けた人物の特定をしたいですか?」

鈴木氏が尋ねる。


「竹下が呪詛の転嫁先なのか?!」

依頼主が驚きに鈴木氏の方へガバッと身を乗り出した。


ふうん。

依頼主が大江さんで、ホワイトハッカー氏が竹下さん?

親しい友人でも苗字呼びなんだね。


それとも他人がいるからちょっと距離を置いた呼び方なのか。


まあ、それはさておき。


「大抵の場合は呪詛返しを受けると呪詛を掛けた人物は昏倒して救急車で搬送されて入院する羽目になるので、それなりにニュースになるからタイミング的に誰が呪詛を掛けたか分かりますが、今回は味覚と嗅覚と言うちょっと珍しい五感の麻痺という呪詛なので、どの程度外から見てわかる形で呪詛返しが発現するか不明です。だから確実に呪詛を掛けた人物が分かるかも、呪詛返しを受けた相手が再起不能になるかも不明なのですが・・・呪詛と返しの転嫁を解除する前に、呪詛を掛けた人物を特定したいですか?」

鈴木氏が尋ねた。


「ちなみに、解除した後ですと呪詛の依代が物理的に残っているのでもない限り辿れないので、後からの特定は不可能です」

碧がそっと口を挟む。


そうだよね、後から気を変えてもダメだってことは言っておいた方が無難だよね。


ある意味、五感の一部の麻痺なんて言う呪詛を返したらどうなるのか、退魔協会としても知りたいかと思ったけど、流石にこちら側から探しましょうとは提案しないんだねぇ。


まあ、場合によっては再度呪詛を掛ける程執念深かったらもう一度呪詛返しの依頼が来るかもだから、それを期待しているのかもだけど。


キツイ呪詛を返されたら意識不明な寝たきりになるか体が保たなくて死んじゃう事が多いが、五感の麻痺だったら下手をしたら味覚と嗅覚に加えて視覚と聴覚とか触覚とかが麻痺する可能性はあるが、それでも体の動きや脳の働きには直接支障はないから再度呪詛を掛ける可能性はある。


とは言え。

視覚と聴覚を失ったら意思の疎通が至難の業になるだろうけど。

成人してから点字を覚えるのって難しそう。

しかも、手に触れた点字が何を意味するのかを教わろうにも音も字も見えなかったら・・・詰んでない?


手の平に文字を書いて貰ってもちゃんと解読できるのか、不明だし・・・全部ひらがなとなったら時間が掛かりすぎて発狂しそう。


改めてそう考えると、呪詛の再来は心配しなくても良いかも?

まあ、呪詛返しで本当に他の五感二つが追加で麻痺するかどうかも不明だから何とも言えないけど。


「待ってくれ。

俺が呪詛返しの転嫁先にされているってことは、俺たちの知っている人物が呪詛を掛けてきた可能性が高いんだろ?

しかも、呪詛って最初の一回は掛けたのがバレても法的には罰せられないとか。

だとしたら呪詛を辿って誰がやったか確認して、法的にそいつが一回めのお目溢しを使い切ったのを確認させないと」

依頼主が応じる前に、竹下ホワイトハッカー氏が口を挟んだ。


確かにそれはあるね。

どう言う風に記録するのか知らんけど。

私らと鈴木氏の証言で足りるのかな?


と言うか、鈴木氏の証言だけで済むと良いんだけどな。

証人として裁判とかに呼び出されるのは逆恨みされそうだし面倒だから嫌だよ?



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