第988話 一社に一人、懐刀?

『先日の試みで、呪詛返しの転嫁となった方を見分けるのは懸念されていたよりも問題が無さそうだと分かりました。

ですがまだ色々と調べる必要がある点が複数ありますので、また呪詛返しの転嫁先となった方を探し今回は数時間だけでも退魔協会の方へ来て頂き、何人かの他の人も合わせてこちらの調査員や退魔師に確認させた上で神社での厄祓いでの転嫁の解除を試みたいと協会としては計画しているのですが、ご協力お願い出来ますでしょうか?』

遠藤氏からまた電話があった。


あ〜、前回は転嫁先をちゃんと見つけられるかと、見つけたのを調査員が見分けられるかに重点を置いてたからか、そこから先の調査に関して少し詰めが甘かったからねぇ。

とは言え、返しの転嫁をされる程の呪詛で下痢も嘔吐もないのでってなるとそれなりに数が減るだろうし、今回も前回の依頼主みたいに痛みで脂汗ダラダラって状態だったらあまり時間を掛けられないんじゃないかね?


まあ、退魔協会に来て貰わないと呪詛返しの転嫁の解除は難しいって最初に言えば、そうごねられずになんとかなるかな?

後で実はそんな必要はなかったってバレたら怒られるかもだけど。まだあまり知られていない領域なので万全を期す為とでも言えば大丈夫なのだろう。


私がうっかりその場で解除出来ちゃうような事を言わなければ問題無しか。


「構いませんが・・・そう言えば、前回の呪詛をかけた柴田とやらはどうなりました?」

私が頷いたのを見て碧が応じる。


呪詛関連なせいか私を主たる依頼先にしているみたいだけど、快適生活ラボとして仕事を受けてるから碧も一緒なんだよね。

だから碧の都合が悪かったらダメなんだけど、特に予定は無いようだ。


『柴田健太は先日心臓麻痺を起こして救急搬送されましたが助からなかったそうです』

あっさり遠藤氏が教えてくれた。


死んだか〜。

まあ、倍になっていない呪詛な段階で動いていなくても脂汗が出るほどの苦痛だもんねぇ。

倍返しになったら身体が痛みに耐えられなくてショック死ってやつかな?


勝手な思い込みでライバル視している依頼主を苦めたいし、自分を捨てた妻が倍返しで死んでもいいと思って思い切り強い呪詛を頼んだんだろうね。


そう考えると、普通の呪詛って呪詛返しされても死なない程度に抑えて掛ける事が多いのかな?

でも、呪詛返しの転嫁を回避出来る退魔師だっているんだから、転嫁してれば安全って訳じゃあないんだが。


『人を呪わば穴2つ』を正しく理解して、呪詛なんぞ死ぬリスクと怨みを天秤にかけて使うべきだし、転嫁なんてみみっちい小手先の手法で世界の理を騙そうなんてするべきじゃ無いよね。

呪詛ってどうしても手を出せない仇を討つためなら自分を犠牲にしても構わないって言う絶望の祈りに対する世界の情けみたいなモノだった筈なのに、人間ってどんどんズルく抜け道を探そうとする。


と言うか、普通の呪詛で倍返しなら、転嫁を解除されての返しは4倍返しぐらいになれば良いのに。


まあ、それはさておき。

「そうですか。

ちなみに、もう条件に合った依頼主は見つかっているのですか?」


『条件にあっていると思われる方から依頼は来ているので、現在法務部が研究調査への協力の詳細を詰めているところです』


もう依頼主の候補がいるんだ〜。

早いね!


格差社会になりつつあるとは言っても法律上は平等な日本社会で呪詛を使う人がそこまで多いなんて、なんでなんだろうね?

人口ボーナス期が過ぎて経済の拡張が止まった日本では将来への希望が抱けなくて、それだけ不満が多いのかね?


あちこちの国で極右政党が人気を得ているのもそう言う不満が積もっているせいなのかもだけど・・・先進国で唯一人口が増え続けているアメリカでも極右の極みの様な嘘つきが再度大統領になりそうなのって、やっぱグローバル化の問題点ってところなのかな?


まあ、あの国って元々は狂信的に宗教に傾倒する思い込みの激しい人間が生まれ故郷を捨ててでも自分の理想を実現しようと集まって出来た国だから、建国の頃に集まった白人層は思い込みの激しい遺伝子が多いのかも?

ネットの検索提案機能やSNSの普及で、最近では自分と一致するニュースや意見ばかりを見るようになる傾向が強いって話だから、そう言うネット社会化が一番最初に始まったアメリカは特にそう言うのの問題点が顕在化しやすいんだろうし。


「ちなみに、前回あれだけ早く加害者と転嫁先が見つかったのはあの秘書さんの素晴らしい情報収集能力のお陰だと思います。

次の依頼主に同じようなスキルを持った方が同行できないのでしたら、退魔協会側でどなたかを手配した方が良いかも?

そうでないと呪詛をかけた人間を見つけるために利用者全員がビルを出るのを一人ずつ目視して確認する羽目になるかも知れませんから」

碧が指摘する。


確かに!

あの秘書氏のお陰でめっちゃ時間を節約できた。

ああ言う人物って企業のトップだったら皆一人ぐらい懐に持って(?)いるんかね?





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