第987話 流石な面の皮
「ふむ。
どうやら意外と簡単に呪詛返しの転嫁先を見つけられる様だし、見つけた際の見極めも難しくない様だな。
ちょっと私の状態がかなりキツイので、そちらの研究に協力すると言う条件だったがもう呪詛を解呪して貰えないだろうか?
どうしてもと言うのなら協力する事での割引きを無しにして、正規料金を払っても構わない」
私と
まあ、脂汗がダラダラ流れて辛そうだもんねぇ。
ちゃんと犯人に目処が立ち、転嫁先も分かり、退魔師が問題なく対応できそうだとなったらあまり呑気に時間をかけた研究に付き合う気も失せるだろうね。
起業家として会社のトップだったらいい加減仕事に戻らないと事業に支障も出るかもだし。
「・・・少々お待ち下さい」
依頼主の顔を見て鈴木氏もゴリ押しは良くないと思ったのか、一言断ってからミニバンから離れて携帯でどっか(多分退魔協会の上司)に通話をし始めた。
「あの鈴木さんは退魔協会の職員で、貴女方は退魔師なの?
それとも見習い?」
好奇心が湧いたのか、麗花さんが私らに声を掛けてきた。
「鈴木氏は退魔協会の職員で、最初に依頼が来た際に実際に霊障があるのかとどのランクの退魔師を派遣すべきかとを判断する為の調査員ですね。
私たちは3年ほど前から退魔協会に登録している正規の退魔師ですよ。
まだ学生なのでフルタイムでは働いていませんが」
碧がにこやかに答える。
「あら。
退魔師でも大学に通うの?
それとも陰陽寮かどっかが専門の大学を経営しているのかしら?」
麗花さんが興味深げに聞いてきた。
これって業界の情報をどの程度流して良いんだろ?
取り敢えず私は口を開かない方が無難かな。
「いえ、退魔師は未だに師匠の元に弟子入りして技を身に付ける師弟制度ですね。
ただ高卒って現実社会では微妙じゃないですか?
だから大学に通ってついでに人生を楽しんでます。
一応退魔師の仕事は事務所を開いて起業した形にはしてますけどね」
ニッカリ笑いながら碧が答える。
見栄と、社会の歯車の一つになる前のモラトリアムってやつだよね。
退魔師になっても時間はそれなりに余裕がある働き方が出来る可能性は高いけど、やっぱ学生の間の友人とわちゃわちゃ楽しめる気楽な期間というのは捨て難い。
周囲からも遊んでいるのを是とされる身分は重要だし。
まあ、私は碧と会って気が合った事であまり他に友人の輪を増やして遊ぶ必要性を感じなくなったけどね。
やっぱ退魔師とか魔術師って一般人とは違うから微妙に価値観がズレるし、今となっては下手に海外旅行とかに誘われたら断るのが気不味いからね〜。
「へぇぇ。
今までどんな仕事をしてきたの?」
興味深げに麗花さんが更に突っ込んでくる。
「そこら辺は機密保持契約もありますので、ご勘弁願います。
藤山さん、長谷川さんの提案にあったように、麗花さんの転嫁を解除する形で呪詛返しをお願い出来ますか?」
電話から戻ってきた鈴木氏が口を挟んだ。
どうやら転嫁先になった人間の見極めは思ったより難しく無さそうと言う事で、それなりに退魔協会と付き合いがある良家の麗花さんの前で無理に依頼主をゴリ押しするよりは、実験を兼ねた解除を試す事にしたらしい。
「了解」
碧が頷き、そっと麗花さんに手を伸ばして呪詛の糸に触れ、力を流した。
おお〜。
パシ!っと音がしそうな勢いで呪詛が燃え尽き(実際に火が出た訳じゃ無いけど、光って千切れ飛んでいった)、数秒後に光が依頼主の方にも届いて更に光った後にスッキリ全ての穢れがミニバンから消えた。
ふぅぅぅぅ。
大きく息を吐き、依頼主がぐっと背伸びしてからシートベルトを外してベッドから起き上がった。
「ああ、楽になった。
どうもありがとう」
依頼主が碧に礼を言う。
「どういたしまして」
碧が軽く頭を下げて応じる。
「あら、これで終わりなんだ?
何も感じなかったけど・・・呪詛返しの転嫁先になるのって本当に全く何も感じないのね。
予防策的にはどうしたら良いのかしら?」
麗花さんが少し眉を顰めながら言った。
「あ〜。
考えてみたら、解呪する前にちゃんとした神社で厄祓いをしたら効いたかを試すべきだったかも知れませんね。
全く何も不調を感じられないとなると、基本的にメールとかのリンクや変な書類にクリックしたりサインしない様に気をつけるしか無いのでしょうね」
ツルッパゲなおっさんじゃ無い限り、現代社会で髪の毛を一本も落とさない様に管理するのは無理だろう。
美容院で自分の髪を全部集めて持って帰るなんて主張したらめっちゃ変人だと思われるし、そうじゃなくても服に1本や2本の毛は付いている。
薄着な夏ならまだしも、コートを着る様な冬になったら出歩いた際にそれを絶対に他者にアクセスさせないなんていうのは無理だろうし。
「取り敢えず今日はこれまでと言う事で、お送りしましょう。
長谷川さん達の方はまた後日依頼の連絡をしますので、宜しくお願い致します」
鈴木氏がそう言いながら運転席の方へ戻った。
「じゃあ、また今度会いましょうね、佑司。
どうやら健太の方はこれから体調不良で煩く再縁に関してごちゃごちゃ言って来れなそうだし」
嬉しそうに笑いながら麗花さんが手を振ってミニバンから離れ、ドアを閉めた。
おいおい。
呪詛返しの転嫁先にした相手に再縁を迫ってたんかい。
面の皮の厚さって限界がないんだね〜。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます