第986話 待ち時間は?

麗花さんの実家は退魔師になって見慣れてきた、豪邸だった。

意外とあるもんだよねぇ。

都内でこんな豪邸を持っていたら固定資産税が幾らになるのか、ちょっと知りたいかも。

それこそ固定資産税や相続税を払えなくて売り払ったら良くあるミニ戸建てが6軒ぐらい建ちそうだが・・・こんな高級住宅地でそんなことをしたらド顰蹙を喰らうだろうなぁ。


きっとそんな事を試みた不動産屋や建築業者は周囲の金持ち達に圧力を掛けられてプランを撤回する羽目になるだろう。


と言うか、高級過ぎて買い手が見つからず、海外の人間に売ろうとするのすら嫌がられそうなぐらいお上品な印象の地域だ。

成り上がりだけど日本人な新興スタートアップの起業家だったらご近所さんになるのを許して貰えるのかね?

とは言え、新興の起業家ってタワマンの上の方に居そうなイメージだが。


こう言う高級住宅地に住んでいるのってそれこそ明治時代からの財閥とか、戦後に大きくなった企業の創業者とかが多そうだが、そう言う連中がどんどん歳をとって世代交代していったらこう云う地域がどう変わっていくのか、ちょっと興味を感じる。


20年後なり30年後なりにまた仕事でここら辺に来ることになったら見回してみよう。

・・・機会があったら現時点での風景をタブレットにでも写真で撮っておいて、将来見比べたら面白いかも?


クラウドにセーブしておけばタブレットを買い替えても無くならないだろうし。

ちょっとこれからは機会があったら依頼主とかの近所の写真を撮る習慣をつけても良いかも。


依頼主の家を出て直ぐの所でやったら嫌がられて退魔協会にクレームが行くかもだから、帰る為にナビアプリでも使っている振りをして写真を撮る練習でも後でしておこうかな。


そんな事を考えているあいだに立派な門が開いてミニバンが中に入り、秘書がまず先に降りて出迎えにきた女性に挨拶に行った。


「あらま。

どうしたの、随分と萎れてるわね」

秘書と軽く話した後にミニバンの中を覗き込んだ麗花さんが、ベッドの上で横になっている依頼主を見て目を丸くしながら言った。


「ちょっと君の前夫かも知れない人物に呪われてしまってね。

さっさと解呪したいのだが、呪詛返しが転嫁されているらしい。

しっかり本人に倍返ししたいし、退魔協会から解呪するから代わりにちょっと呪詛返しの転嫁への研究に協力してくれと頼まれて、付き合っているところなんだ」

依頼主が片手を挨拶に上げて応じる。


来る道中で聞いたが、依頼主に退魔協会の存在を教えたのは元カノの麗花さんだったらしい。

別れた後もそれなりに友好的な関係を保っていたらしく、依頼主が起業家として新聞で取り上げられるようになった頃に『不可解なことが起きた時には確認してもらうと良いかも』と退魔協会の連絡先を教えてくれたそうだ。

お陰で呪詛返しの転嫁を避けられそうだし、『情けは人の為ならず』って本当だよねぇ。



車から降りて応接間にでも行って話をするかと思っていたのだが、どうやら麗花さんは依頼主にとって無理に車から降りて歩いて応接間に行って説明しなくても良いぐらい気楽な付き合いが出来る相手らしい。

そのまま話し始めちゃったよ。


車から降りずに作業がされると理解したのか、いつの間にか運転席から降りていた調査員が回ってきて麗花さんの斜め後ろから声を掛けた。


「退魔協会の調査員をやっております鈴木と申します。

西浦様も呪詛に関してはご存じだと思いますが、実は最近増えてきた呪詛返しの転嫁が、退魔協会の想定以上に簡単に転移先の人物の意識した合意なしに締結できる事が判明しまして。

現在呪詛返しの転嫁が行われた場合の見分け方法に関して研究をしているところなのです」


何やら資料を出しながら説明を始めたので、碧に念話で話しかける。

『麗花さんが呪詛返しの転嫁先みたいだけど、碧も視て分かる?』


ちなみに白魔術師である碧が転嫁付きの呪詛を被害者側から返そうとすると、転嫁を解除する前に呪詛が解けてしまうので転嫁回避は難しい。

呪詛への特効って必ずしも使い勝手が良いわけじゃあ無いんだよねぇ。


呪詛返しの転嫁先の人から碧が転嫁しようとしたらどうなるか、興味はある。見極めが出来そうだったらそっちの実験も提案してみようかな。


『あ〜、呪詛が繋がってるから一見すると掛けた人に見えるけど、じっくり視ると確かに魂まで繋がって無いから落ち着いて視たら実際には呪詛を掛けてないって分かるね』

碧が返事してきた。


ふむ。

白魔術師でも、どんな風に視えるか分かっていれば転嫁先の人を見分けられるんだね。

まあ、見慣れていない場合はどうなるのかがちょっと問題だけど。


「ええっと・・・その話の流れで態々車にベッドを入れて運ばなきゃならないぐらい体調が悪い佑司が来てるって事は、私が転嫁先にされているって言う事?」

麗花さんがミニバンの中を見回しながら聞いてきた。


「ええ。

そうですよね?」

鈴木氏(本名なのかね?ジョン・スミスの日本版っぽい名前だから、調査員として動く時の偽名な気もする)がこちらを見ながら確認を求めてきた。


「ええ、麗花さんが呪詛返しの転嫁先になっていますね。

ちなみに思ったんですけど麗花さんの方から長谷川が呪詛を解除したらどうなるのか、試してみませんか?

それとももう少し調査する必要があるのでしょうか?」

あまりここら辺の詳細は聞いてないんだよねぇ。


退魔協会側としてはもう1、2日は解呪を待ってもらって退魔協会の術師や調査員に転嫁先にされた人の様子を見させて見分けられるようにしたいんだと思うが、現時点では実害がない麗花さんはともかく、かなり苦しそうな依頼人はどれだけ待つ契約なんだろ?






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