第985話 偶然か、必然か

「ちなみに、転嫁先と思われる場所にその麗花さんや彼女の家族、もしくは柴田氏の前や現在の職場の上司や同僚が居たりしませんか?」

秘書氏にマップアプリに出ている転嫁先になった人の想定位置を見せながら尋ねる。


オフィスビルにいる柴田とやらが確実に呪詛を掛けたとは限らないが、呪詛を返しの転嫁付きで掛けようと思ったらかなりの資金と伝手が必要だ。


だとしたら下っ端サラリーマンよりは役職付きがやっている可能性が高く、柴田以外の該当者に依頼主が面識がないならば、犯人が柴田な可能性はかなりのものだろう。


そんでもって柴田が恨んでいる様な人間が転嫁先にいたらほぼ黒なんじゃ無いかね?

まあ、恨んだ人間では無く適当に手頃な人間を使ったんだったら関係ないかもだけど。


でも、どうせ金を払うなら一石二鳥で返された場合のダメージも活用したいと思うんじゃないかな。

大学にいる頃から、創業者一族が経営に携わっている会社の中では大手なところのお偉いさんの娘を依頼主が忙しい間に別れる様に仕向けて後釜になり、それをちゃんと結婚まで続けてきたんだからかなり用意周到なタイプっぽい気がする。


用意周到でも結局10年か20年かで離婚されて捨てられたのは、やっぱ人格に問題があるんだろうけどね。

良い人のふりを24時間職場でも家でもキープって言うのはストレスが溜まるだろうし、なまじ職場で役にたつ伝手持ちな女性を妻に選んだだけに、職場でのパワハラとかセクハラのやらかしの話は順当に妻にも伝わっただろう。


呪詛なんぞ掛ける人間なんだから、人格に問題があるのはほぼ確実だろうしねぇ。


「・・・ああ、麗花さんの実家がそちらにありますね」

カチャカチャとパソコンで調べた秘書氏が言った。


便利な世の中になったねぇ。

金持ちとは言え、個人の家の場所まで分かるんだ?


「どうやら当たりなようだな。

麗花に電話して、今どこにいるか確認してみよう」

依頼主がそう言いながら携帯を取り出した。


大学時代に別れた元カノの携帯番号を持ってるんだ?

別れた後もずっとそれなりに連絡を取り合っていたのか、その2ヶ月前に会った時に交換したのか知らないけど、本人達に浮気する意図はなくてもそれってちょっと嫉妬されてもしょうがない気がするぞ?


依頼主は特に深い考えはないにしても、麗花さんの方は離婚が終わったら連絡を取ろうと思って個人的な連絡先を交換した可能性はあるかもだし。

女性はどうでも良い相手に個人的な連絡先を渡したりはしないんだよ?


そんな事を考えていたら、麗花さんが電話に出たらしく、依頼主が話し始めた。


「ああ、麗花か。

健太と離婚したんだって?

こないだ会った時にはそんな話は全然無かったのに、先ほど聞いて驚いたよ。

ところで今どこにいる?

・・・ああ、やはり実家か。

ちょっと健太の事で相談したい事があるから、今からお邪魔しても良いだろうか?」

何やら女性の声が電話から漏れてくる。


健太って言うのが柴田の名前なのかな?

柴田健太ってなんか『タ』が多い微妙に犬っぽいイメージな名前だなぁ。

親としては別に健太が犬っぽい名前だとは思ってないんだろうけど。


本人的にはどう思ってるんだろ?

個人の名前って気に入らなくても変えるのは大変だからなぁ。

健太なんて一見普通な名前じゃあ変えるのを認めてもらうのも大変そう。

まあ、本人は何の問題も感じてなくて、私の同情こそ知ったら侮辱だと感じるかもだけど。


「ちょっと相談に乗ってもらっている人もいるから秘書だけで無く他にも数人一緒に行くが、良いだろうか?」

依頼主が続けている。


考えてみたら、離婚してスッキリしたから依頼主とまた出歩きたいな〜なんて相手が考えているとしたら、若い女性二人連れて行くのって嫌がられそう。

まあ、相談相手と前もって言ってあるし、退魔協会の調査員であるって事を正面に押し出して行く様にしよう。


「・・・ああ。

ありがとう。

じゃあまた後で」


電話を切って、依頼主が辛そうに息を吐きながら携帯をポケットに押し込んだ。

「実家に居るから訪れても良いそうだ」


考えてみたら、離婚してすぐに妻が怪しい状況で死んだら前夫が疑われるかも知れないから、麗花さん本人じゃなくって柴田の義理の親とかが転嫁先に使われた可能性もあるかも?

家族も現時点で在宅ならそのまま家に残っていてくれって伝えておくべきだったな。


失敗したかも。

取り敢えず、転嫁先への線が動かない事を確認しつつ向かおう。





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