第979話 目立ってなんぼ

『どうしようこれ?

見分けのコツを教えるのは構わないけど、なんで私が知ってるんだって話になるよね?』

碧に念話で相談する。


呪詛返しの転嫁を見分ける練習(と言うか講習?)に関しては、それこそ以前術の速度を測る為の実験でやった瞬間ニキビの呪詛でも使ってやれないことはないだろうし、なんだったら呪詛返しの依頼が来た際に、返す前に転嫁先を特定してそれを見せるという手も使えなくは無い。


呪詛に苦しむ人にとっては講習をやっている暇があったらさっさと呪詛を返してくれって感じるだろうけど、講習の教材にする代わりに呪詛返しを無料でやりますとでも言えば命にかかわらない呪詛なら協力してくる被害者も居るだろう。


が、肝心のなんで私が経験豊富なベテラン退魔師に出来ないことが出来ちゃうのかって言うのは説明が必要だ。


『凛がそっちの才能がありそうだから白龍さまが色々と暇つぶしに教えてくれたって言うんでも良いんじゃ無い?』

碧が返す。


『それで良いのじゃ無いかの?

藤山の家系の者に水や風系の術は教えて来たんじゃ。

愛し子の友人が黒魔術系の才能があったからコツを少々教えたとしても、不思議はないじゃろ』

白龍さまが口(念?)を挟む。


白龍さまって普段から空気を動かして音で喋っているんじゃなくって念話だからか、魔道具を使ったウチらの念話にも簡単に割り込めるんだね。


普通は念話ってあまり割り込みが無いから一瞬ぎょっとするけど。

『良いのですか?

じゃあ、お言葉に甘えさせて貰いますね』


と言う事で、声を出して電話に答える。

「呪詛返しの転嫁に関しては白龍さまに色々と教えてもらったので見極めは出来ますね。

私か藤山と同じ適性持ちなら見極めは可能だと思いますよ?」


以前の病院で試した微細な呪詛チェックのあれを見る限り、元素系適正持ちは呪詛の見極めが苦手っぽかったから、呪詛返しの転嫁も見極めが出来るかどうかは知らない。

力技な呪詛返しならまだしも、転嫁を無視して大元に呪詛を返すのは基本的に黒魔術師しか出来ないとされていたから、前世では呪詛関連の時は元素系魔術師はお呼びじゃなかったんだよね〜。


単に誓約魔術で雁字搦めにされていて、本心でどれ程王族の死を願っても絶対に呪詛を見過ごす選択が出来ないから黒魔術師を呼んでるだけで、実は元素系魔術師でも呪詛に対処出来るんじゃないかと内心では思っていたんだけど、以前の微細呪詛の見分けテストの際の結果を見るに、確かに黒魔術師の方が呪詛関連の対応には向いているっぽい。


『そうですか?!

では、呪詛返しをする際に転嫁先を見つける事も可能でしょうか』

退魔協会の遠藤氏職員が重ねて聞いてくる。


「まあ、転嫁先の方が目立つ様に元々設定されているので、時間は多少掛かりますが可能ですよ」

呪詛返しの転嫁というのは元々の呪詛を掛けた人間よりも目立つようにした存在を術の中に引き込むことで、そっちが呪詛の元だと世界の理を騙す手法なのだ。

転嫁先を見つけにくくしては意味がないので、普通の呪詛の元を探すより楽に見つかる様になっている。


だから転嫁先を設定してある呪詛を元へ辿ろうとしたら、多分呪詛を掛けた人間じゃなくって転嫁先にデフォルトで届くと思う。


とは言え、それなりに角度や距離を確認し、呪詛の糸を追っていく必要があるから時間は掛かるけど。


『ああ・・・なるほど、呪詛の元へ辿れば普通に転嫁先に行く可能性が高いと。

つまり、呪詛返しの際に転嫁を回避できる術師なら誰でも分かるんですね。

ちなみに、呪詛の被害者ではなく単に呪詛の転嫁先にされた人だけを視た際にはどの様に視えるのでしょうか?』

遠藤氏が聞いてきた。


「こう、妙に表面だけに目立つ感じに穢れが絡み付いている感じですね」

呪詛を掛ければ魂が穢れる。

呪詛の元であるかと誤認させるように転嫁された人間には目立つ様に呪詛の糸が絡みついているが、本人が実際には呪詛を掛けていないので穢れが中まで達していないんだよね。


だから妙に表面だけ穢れた感じになる。

染み込んだ穢れでなく、表面だけの落書き状態だ。


まあ、本人が別の誰かを呪って呪詛を掛けていた場合はどうなるか知らないけど。

流石にそんなのは視たことが無いからね。

呪詛を掛けるような人間はその危険性もよく分かっているから、安全対策をしっかり取っていてうっかり転嫁先にされるなんて事はないんじゃないかな?


さて。

口での説明だけでなんとかなるとは思えないけど。

どうするんだろ?






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