第978話 人権の矛盾
「凛〜!
退魔協会から電話〜!」
洗濯物をベランダに干していたら、碧が窓から首を突き出して声を掛けてきた。
「何か依頼が来たの?」
基本的に私たちに来る依頼は快適生活ラボが事務所として受けているので、二人で電話を聞く事にしている。
だから声を掛けてきたんだと思ったが・・・。
「凛に名指しで協会から依頼だって」
微妙そうな顔をしつつ碧が教えてくれた。
げ。
私に名指しで依頼?
どっかの誰かの記憶を読めとか?!じゃなきゃ・・・それこそこないだ碧がフラグを立ててくれた、呪詛返しの転嫁関連の研究会とかだったりしないでしょうね?!
嫌だよぉ、退魔協会の研究会に無理矢理参加させられるなんて〜。
しかも研究内容が呪詛とか呪詛返しとかなんて、マジで怖すぎる。
世の中の為と思って研究したのをどっかの政治家にでも悪用されたら嫌だし、被害者が多すぎたら私のカルマにも悪影響がありそうだ。
ここら辺はそれこそ原爆を発明した科学者たちのカルマがどうなったかを確認できたら安心できる・・・か用心するべきか、はっきりするんだけどなぁ。
流石にもう全員亡くなってるよねぇ。
日本の政治家は流石に前世の
国がこれだけ借金漬けでうちらの老後が露骨に暗いのに、一時的な人気取りのために金持ちを含めた全国民に減税すると言い出したり、この温暖化ガス削減が叫ばれる時代に日本だけいつまで経ってもガソリンへの補助金を販売側に一律に出したり、世代的平均を見れば一番資産を持つ高齢者層の医療費だけを安くして、現役世代はピーピーなのに治る見込みもない年寄りだけ安上がりに税金で補助しながら意味もない医療行為に金を掛けまくる構造を変えようとしない政治家なんて、ある意味呪詛を掛けて呪詛返しを喰らうなり、政敵に呪詛を掛けられてもコケるなり、居なくなってしまえと思うんだよねぇ。
まあ、誰かが国の舵取りをしなきゃいけないのは分かっているんだけどさ。
それはさておき。
「もしもし?
長谷川です」
待ち受けになっていた電話をスピーカーにして声を掛ける。
『こんにちは。
いつもお世話になっております、退魔協会の遠藤です。
実は、先日の快適生活ラボ様の案件で判明した呪詛返しの転嫁の問題が発覚してから色々と調査が行われたのですが・・・呪詛返しの転嫁を実際に呪詛が返される前に確認できるかどうか、誰もが不明でして。
呪詛返しの転嫁に関して知見がある方全員に確認しているところなのですが、長谷川さんは呪詛返しの転嫁を呪詛が返される前に発見したことはありますか?』
想定外な質問が電話から流れてきた。
ええ??
呪詛返しの転嫁を視ても分からない???
まあ、確かに呪詛返しが転嫁されて不調になったから依頼するとか、呪詛を掛けられたので転嫁されない様にしっかり大元へ返す様に依頼するって話は退魔協会にちょくちょく来るだろうが、呪詛返しの転嫁先になっただけでまだ呪詛が返って来てなかったら・・・普通なら退魔協会に依頼する必要がある危険な状態だって認識出来ないか。
そうなると呪詛返しの転嫁を、転嫁された先の視点から見た事がある退魔師が居なくても不思議はない?
どんな感じかは知っているし、見慣れれば黒や白魔術師なら確実に分かると思うが・・・肝心の『見慣れる』が難しいか。
前世は人権が無視されまくりだったせいで危険な技術への対抗手段を教え込むのも難しく無かったのって、考えてみたら皮肉な事だよね。
人権が無視される社会の方が、致死的な術への対応を人の命を危険に晒して練習出来るから命を守りやすいって矛盾してるわ〜。
前世だったら王族に嵌められた弱小貴族とか貴族の怒りを買った平民とかはあっさり死刑だったし、死刑になる人間を危険な術への対抗方法を教える為の生贄にするのに誰も異議を唱えなかった。
いや、異議を唱えたい親族とかは沢山居たと思うけど、下手に異議を唱えて連座を適用する!とか不敬罪だ!とか言われて自分も呪詛返しとかの実験台にされて殺されるのは困るって事で皆口をつぐんでいたんだよね。
基本的人権なんてものが存在しない世界って怖いよねぇ。
一応法律もあったけどズブズブだったし、最初から貴族と平民じゃあ権利が天地の差だったし、王族と貴族も差が大きかった。
まあ、その中でも黒魔術師は平民以下だったけど。
あれはマジで過去のヤバいやらかし黒魔術師の連中を恨んだわ〜。
それはさておき。
呪詛返しの転嫁を見分ける練習に付き合ったりコツを教えるのはやっても良いけど、どうして私がそんな知識があるのかをどう説明するかが問題だ。
どうすっかね?
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