第972話 うわ〜、無関心
立派そうな車に案内され、後ろのドアを開けたら向かい合って座れる様になっていた。
見た目はちょっと大きいだけな普通の乗用車に見えたが、6人乗りなんだね。
当主とかが乗る時なんかに秘書は横ではなく向いに座らせて仕事の話し合いとかするんかな?
ちょっと格好いいかも。
それはさておき。
碧が適当な雑談で他の人の注意を引いている間にさっさとクルミを亜希菜さんに取り付かせ、記憶を読む。
うわ。
呪詛を依頼してるんじゃん、この人。
とは言え、単に気鬱になる程度の呪詛で、祐一氏のストレス性胃炎の原因かもだけど死に至る様な呪詛では無いね。
大学に入った時から手入れしつつ伸ばしてきた髪の毛を、祐一氏が卒業して一族の会社に入った際にバッサリ切って呪詛の贄として使ったようだ。
毛根もろとも捧げるならまだしも、また生えてくる髪の毛を切った分だけだと、80センチ程度の手入れされた髪とそれのケアに込められた執念と合わせても仕事始めでストレスが溜まりやすい時期にストレスをより感じやすくなる程度の効果しか無いだろうと呪師からは言われていた。
意外にも3年経った今でもストレス性胃炎の薬や最近勧めたらあっさり始めた大麻入りラムネを手放せない様なので、髪の毛程度でもそれなりに呪詛として効果があったか・・・祐一氏が想定以上にデリケートだったかなのかな?
跡取りとして大切に育てられてきたお坊ちゃんだからねぇ。
繊細に育っちゃったようだ。
これだけ押しの強そうな姉がいたらそれなりにしぶとく育ちそうなものだが、どうやら親にかなり守られてきたようだ。
跡取りを大切に守り育てちゃダメじゃんと言う気はするけどね〜。
親は何を考えていたんだか。
肉体的には死なない様に守るのは当然重要だが、精神はしっかり図太くなる様にちょっと乱暴に試練を科すぐらいな感じで育てないと、今時のグローバル化な時代には生き残れないだろうに。
アメリカ人もだが、中国人なんかもめっちゃ競争が激しくってマジで生き馬の目を抉り取りそうなぐらい凄いって話だし、『騙される方が悪い』を自で行く連中らしいのだ。
大学で知り合った中国系シンガポール人の留学生が、例え主要な中国語(複数あるらしい)が話せて市場が故郷のシンガポールより大きくても、競争が激烈すぎて絶対に中国本土での起業はする気はないと言っていた。
そんな中国国内での蠱毒の様な環境で生き抜いた連中と張り合わなきゃ今のビジネス界では成功し続けるのが難しいだろうに、ちょっとした軽い呪詛をいつまでも引き摺るぐらいデリケートなんじゃあどっちにせよ一族のトップとしては長持ちしなかったんじゃない?
それはさておき。
更に記憶を読むが、亜希菜さんは祐一氏の就職時の呪詛と大麻入りラムネを勧めた以外の悪意ある行動は取っていない様だった。
まあ、会うたびにチクチク嫌味を言ったり、上から目線で貶したり、他者に祐一氏の事を同情している様な言葉を使いつつも貶めたりと言った口撃を繰り返していたので、それなりに祐一氏の継続していたストレス性胃炎に貢献していた様だけど。
ストレス性胃炎の原因を作りつつその対処法として大麻入りラムネを勧めたのはどうしてかと思ったら善意ではなく、更に強くて危険な麻薬へのめり込むのを期待していたらしい。
とは言え、それでも時折大麻入りラムネの使い過ぎに関して苦言を呈していたようなので、弟が死ねばいいと思うほど憎んでいた訳では無い様だ。
なんか矛盾してるね〜。
まあ、本気で弟と争ってその地位を乗っ取るつもりだったら美術なんぞを専攻しないだろうし。
一応美術系の学部でもビジネス関連の授業も受けて、今は画商もどきなプロモーターっぽい仕事をしているようだ。
弟本人よりも、自分を跡取り候補に考慮すらしなかった両親への鬱屈が強いのかな?
だったらそれこそ親を呪えばいいのにという気もするが。
微妙に中途半端だよね。
まあ、自分の能力やキャリアに満足していなくって、それを他者のせいにする人間は性別を問わず多数いる。
どうやら亜希菜さんはそう言う多数派の一人らしい。
何やら不思議な現象で死んでザマアミロと言う気分が強いが、何よりもこれからは自分の人生が正しくあるべきルートに戻ると信じてワクワクしている。
いやぁ、別に跡取りだった弟が死んだところで亜希菜さんの将来が明るくなるとは限らないんじゃない?
希望を抱きすぎてもガッカリするよ〜?
ついでだったので一応芹香さんの記憶も読んだが、こちらは親しい近所の知り合い程度の感覚だった。
マジか。
これで将来夫婦になって残りの一生を共に過ごし、子供まで作る予定だったと考えると、ちょっと生まれてこなかった子供に同情しちゃうかも?
あまりにも無関心すぎない??
まあ、少なくとも悪意も憎悪も無かったので、祐一氏を害そうと思った事はないし何も手配はしていない。
なんかこう、良家の跡取り息子で人生薔薇色だろうと他者には見られていただろうに、婚約者からは無関心、姉にはちょっと敵愾心を持たれ、両親にしても多分『跡取り』と言う枠でしか見られずそれ以外では無関心だったっぽい?
・・・なんかちょっと哀れかも。
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