第971話 いいんだ?

「取り敢えず、本人が加害者にも死因にも心当たりが無く、魂を消費するタイプの呪詛や祟りでは無かったせいで故人の霊を召喚して分かることはこの程度です。

遺体がまだあるのでしたらそちらを確認すれば呪詛かどうかははっきりしますし、場合によっては死因が分かる可能性もゼロではありませんが、どうしますか?」


結局、ストレス性胃炎にしても死因に直接は関係なさげだし、呪詛も祟りも本人は感じてなかった。

故人を召喚しても分かったことは、姉の亜希菜さんが弟の祐一氏を妬んで消極的かも知れないが害意を抱いていたと言う程度の事だった。


なので依頼の文言通りだったらこれで終わりでも良いんだけど・・・私としてもちょっと中途半端ではあるし、依頼人としても多分満足していないと思うので遺体の確認を提案した。


と言うか、退魔師を雇うことを強く主張した亜希菜さんは一体何を求めて依頼したんだろ?

イマイチ思い描いている流れが分からないから満足して貰える終着点も見えない。

死因に関与しているなら下手に調べるべきじゃ無いだろうに。

全然関係していないでただ単にザマアミロと思っているだけ?


弟が死んで仄かに喜んでいる様な人間の願いを叶えなきゃと思う訳じゃあないけど、何が何だか分からないまま終えるのも、何かこう・・・もやる。


ちなみに、遺体を確認したら死因が分かるかどうかに関しては碧も微妙だと言っていた。

何が体にとって不自然な状態なのかとか、それがどのくらいの期間をかけて発生したのかとか言った体の履歴っぽいのは読み取れるらしいが、どうしてそれが起きたかは必ずしも分からないそうだ。


まあ、そうだよね。

それこそ体を溶かす様な強烈な毒を飲んで内臓が溶けて死んだんだとしても、死亡何時間前にその毒が体内に入ったのかは分かったところでどうやってその毒が胃に入ってきたかは体の履歴には残っていないだろう。

飲んだ本人に自覚もないし。

まあ、もしかしたら飲んだ時間を故人に告げてその時間に飲んだ物を誰から受け取ったかを確認できたら一歩解明へ近付くかも?


「そうですね・・・専門家による再検死も終わったところですし、遺体は明日の葬儀まで保管して貰っているので見に行きましょうか」

亜希菜さんがあっさりとこちらの提案に頷いた。


あれ、未解決な殺人事件でも遺体を火葬しちゃって良いんだ??

どうやって亡くなったのかも分かっていないっぽいのに。

まあ、凍らせちゃったら細胞組織が変質しちゃうだろうし、冷蔵状態じゃあ数日後には腐っちゃうしで、遺体を長期間保存するのは意味が無いって事で調べるだけ調べたらその記録だけ使って捜査を続けるのかな?

ちょっと意外。


「良いんですか?」

芹香さんが亜希菜さんに不安そうに尋ねた。

遺体を家族以外の人間に見せるってちょっとアウトっぽい気はするよねぇ。


一体何を考えているんだか。


「大丈夫!

弟の死の原因は何としてもはっきりさせなきゃ!

両親だって納得いかないって言っていて、私に任せるって言ってくれたのよ!

手配してくるから、ちょっと待っていて」

携帯を取り出してどこかを呼び出しながら亜希菜さんが部屋を出て行った。


運転手付きの車がありそうな家だから、4人でも問題なく行けそうなのかな?

同じ車で移動になったらその間に記憶を読ませて貰うけど。


「ちなみにこう言う殺人を疑われる死の場合って利益を得る人間がやはり一番疑われると思いますが・・・祐一氏の死で得る物が多い人って誰でしょうか?」

待っている間についでに姉の方には聞きにくい事を婚約者の芹香さんに尋ねておく。


「長期的に見れば亜希菜さんが受け取る遺産が増えるでしょうね。

短期的にも彼女が一族の事業の中での管理職的な役職に就ける可能性はありますが・・・大学で美術を学んでいたので経営者として今から会社に入って成功できるとご両親や他の親族が考えるかは分かりません」

芹香さんが答えた。


美術??

それはまた・・・事業経営にはあまり使えなさそうな専門だね。

弟の跡取りとしてのポジションを妬むんだったら、ライバル候補として見做してもらえる様に経営学なり、法律なり、扱っている商品と関係する様な理系なり(製造業ならだけど)を学べば良かったのに。


幾ら親が頭の固い長男ファーストな古いタイプの人間だとしても、今時だったら娘だって一族の会社に関与したいと主張すればそれなりに妥協してくれるだろうに、なんだって美術??


そんな専門を選ぶんだったら弟を妬むのは辞めるべきだろうに。

いやまあ、本当に妬んで何かやらかしたかどうかは不明だけど。


親が娘の事をどう考えているのかもちょっと気になるところだけど・・・姿を出さないのは息子の死がショック過ぎて人に会いたく無いのか、退魔師なんぞに聞いても得るものはないと思っているのか、それともそれこそ娘が息子を殺したと疑っていて知りたく無いのか。


まあ、退魔師を雇うのに反対はしなかったらしいから亜希菜さんが殺したと疑っている訳ではないのかな?


それ以上詳しく芹香さんに事情を聞ける前に、ドアが勢いよく開いて亜希菜さんが姿を表した。


「待たせたわね。

行くわよ!」


さて。

車の中でガッツリ記憶を読ませて貰うとしますか。




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