第970話 意外と手掛かりなし
「少なくとも悪霊に祟られている実感は無かったんですね?
呪いに関しても急激な体調不良は最後に倒れた時しか体験していないと。
ちなみに悪霊で有名なホットスポットへ行ったとか、誰かに恨まれた覚えもありませんか?」
取り敢えず、魂まで消耗する様な凶悪な呪いには囚われていない様だし、死後も苦しめられ続ける様な悪霊に悩まされている様子もない。
悪霊と違って、呪いは本人に分からない事の方が多いからなぁ。
悪霊の場合は怨みをアピールしてくるから基本的に幻聴や悪夢に悩まされるので、多かれ少なかれ自覚症状は出る。
呪詛だと呪いそのもので死ぬとその穢れに囚われる事も多いみたいだが、絶対ではないので祐一氏の魂が特に穢れていないからって呪詛で殺されていない証拠にはならないし。
でも、それ以外の事は召喚した魂からだけじゃあ分からないなぁ。
遺体の方を調べさせて貰った方がまだ分かるかもと提案すべきかな。
祟りや呪いで殺されても必ずしも本人がそれに気付くとは限らないからねぇ。
まあ、気付いて変な穢れに囚われるよりはそのまま知らずに昇天しちゃう方が魂の為には良い事だから、幸いだったねと言うべきだけど・・・殺されたのに何も気付いていなかったっぽい祐一氏はちょっとぼんやり系なのかも?
ストレス性胃炎に悩まされていた様だから鈍感というよりは繊細みたいだけど。
『まあ、男ってだけで跡取り扱いされて大事にされてたから姉貴には面白くないと思われていたし、従兄弟とかだって妬ましいと思っている可能性は高いが、流石に呪われる程ではないんじゃ無いか?
仕事だってまだ事業の全体像を把握して業務フローを覚えるのに一杯一杯で、重要な意思決定を1人で下せるほどの責任は任されていなかったし』
祐一氏があっさりと答えた。
あらま。
姉の亜希菜さんが弟のことを面白く思っていないのは気付いていたんだ?
それでも勧められた大麻入りラムネを摂取するなんて、それだけストレスでアップアップ状態だったのか、姉の心情がそこまで危険では無いと呑気に構えていたのか。
さっきちらっと探った時の勝利感からして、亜希菜さんの方は誰にもバレずに弟を階段から突き落とせていたら・・・喜んで背中を押していた可能性はあるんだけどね。
と言うか、大麻を勧めたのだって背中の一押しなつもりだったのかも?
虐められた人間と虐めた人間の感覚が違うのと似た様に、妬まれる方と妬む方ではかなり認識が違うんだねぇ。
『ちなみに婚約者の芹香さんとの関係は?』
ちょっと聞き辛かったので念話で尋ねる。
霊とは別に声を出さなくても繋がっているから念話でも質問を出来るんだよね。
まあ、婚約者は現時点で死なれたら遺産が入らないんだから、どれだけ関係が拗れていたとしたって殺そうとするとは思わないけど。
それでも何か関係に問題があったんだったら聞いておく方がいいだろう。
『芹香とは政略結婚になる予定だったけど、それなりに上手く付き合ってこれたんじゃないか?
結婚式の予定も最初の計画通り進んでいたし、俺は特に何も反対していないし、嫌だったら結婚を止めると言い出したって問題があるわけじゃあないんだし』
あっさりと祐一氏が音に出して答える。
なんか冷めてるね〜。
今時の結婚って恋愛結婚が多いと思ったけど、やっぱ良家となると政略がらみなお見合い結婚が多いのかな?
一応今回のはキャンセル可程度な緩い政略っぽいけど。
と言うか、跡取りが政略結婚するのに、年上な亜希菜さんはしてないのって本人が嫌がったからなのか、それとも跡取りじゃないから重要性は低くて政略結婚するのに丁度いい相手が居なかったからなのか。
政略結婚を強いられなくて済むのは良かったねという感じだけど、政略結婚させるだけの重要性も無いから放置って事だったらそれはそれで切ないかも。
まあ、好きな様に勉強する分野を選べて適当に就職するなり起業するなりを選べる程度に金の余裕がある生活だった様だから、十分以上に恵まれているけどね。
とは言え、同じ親から生まれた弟がDNAにY染色体があったからってだけで家の跡取りになるのに対し、自分は嫁に出るなり好きにすればいいと思われるオマケ扱いと言う違いが生じたと感じたとしたら、怒りは大きいかも?
一般のサラリーマン家庭の頑張らなきゃ生活がギリギリになりかねない人と比べて自分の勝ち組境遇に喜ぶのではなく、身近で何もかもに恵まれている(様に見える)弟と自分の境遇を比べて不満を持つのが人間だよね。
とは言え、直接殺人に関与している訳では無いみたいだが。
ちょっともう、これは祐一氏ではなく亜希菜さんに触れてしっかり記憶を読んで何をしたのか確認した上で、遺体を調べさせて貰うべきかなぁ。
マジでここまで何も分からないとは思っていなかった。
意外と被害者の霊って犯人に物理的に殺されていない場合は何も知らないんだね。
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